第107話 勇者のストーカー退治 Ⅸ
Side 千葉
「クソッ! クソッ! クソッォ!!」
千葉が手元にあった本をベッドに投げつけて頭をかきむしる。
自宅の部屋のデスクで隠し撮りした映像がPC画面に映し出されていた。
そこにはどこかの休憩所のような場所で食事をする裕哉と、彼に寄り添うように微笑む愛の姿。どこから見ても熱愛中のカップルに見える。というか、千葉にはそうとしか見えない。
実際には裕哉の顔には緊張のあまり汗がにじんでいるし、口元も引きつっているのだが、演技だと知らなければわからないほどの些細なものでしかない。
「なんであんな男がっ! 沢山の女を喰いものにしてる最低なクズじゃないか!!」
千葉が床にあった雑誌を再びベッドに叩きつける。
とはいえ、壊れない本や雑誌を柔らかいベッドを選んで投げつけているので、それなりに冷静さは維持しているのだろう。
昔、ワールドカップの中継をパソコンで見ていて日本代表がボロ負けした途端、感情的にマウスを液晶ディスプレイに投げつけてしまい給料日前に買い換える羽目になって落ち込んでいたTさんとはエライ違いだ。
27インチのE○ZO製モニターは高かったらしい。
「絶対に許さない! 愛のことを一番理解しているのは僕だ。僕だけがいれば良いんだ」
千葉が初めて御堂愛を見たのは事務所所属のタレントが声優を務めた洋画の吹替収録に打ち合わせのために同行していたときだった。
その映画は出演者が多く、吹き替え作業にも多くの声優が参加していたがまだ声優の卵である声優学校の学生も十数人加わっていた。
ほんの一言二言程度しか台詞がなく、制作費を抑えたい配給会社側と現場の雰囲気を体験したい学生側の利害が一致しており、そういったことはさほど珍しくもない。
学生達は声色を変えながら複数の出演者の吹き替えをプロの声優に指導されながらこなしていく。その中に愛の彼女の姿があった。
緊張して声が裏返ったり台詞をつっかえたりする学生が多い中、堂々と張りのある声を披露してプロの声優を感心させていた。さらに、その様子を見ていたプロデューサーも長い台詞や特徴的な台詞を積極的に割り振っていた。
主要キャストの声優はあらかじめ決められているのは当然だが、いわゆる一見のみのモブキャラの声は現場で適当に割り当てられることも多いからだ。
千葉はその声優として将来性を感じさせる声にももちろん魅力を感じたが、何よりもその容姿と豊かな表情に目が引きつけられたのだった。
すぐに学校名と名前を確認し、事務所の社長にスカウトを進言した。
幸い彼女はまだ1年生で所属する事務所はなく、実際に目にした金井も気に入って熱心に勧誘し、無事千葉の勤める事務所に所属することが決まった。
この時点ではまだ見目の良い有望な新人に対する感情でしかなかった。
愛は事務所の誰に対しても丁寧で愛想が良かったが、特に千葉に対してはスカウトのきっかけを作ったことを知って感謝していたようだ。
声優養成学校を卒業したとしても実際に声優になれるのは極一部に限られている。
積極的にオーディションに参加したり芸能事務所に顔を売ったりする営業努力が欠かせない世界だ。特に昔と違い、アイドルや俳優が声優を務めることも増えているのでますます狭き門となっている現状がある。才能や実力があるだけでプロになれるほど甘くないのだ。
そんな中で彼女は小規模とはいえ、実際に複数の声優やタレントが所属する芸能事務所に在学中にスカウトされ、卒業する前から仕事を受けられるほどになれたのは相当な幸運だったのは確かだろう。
彼女は自身がコスプレイヤーとしてアニメやゲームのイベントに個人的に参加していることを事務所に明かしている。
金井や千葉も実際にイベントに行きその姿を見ているが、実に完成度が高く華やかで魅力的だった。調べればオタク達の間でも相当な人気を誇っているらしいことがわかった。
千葉はたちまち愛に魅了された。
最初はほのかな恋心だったのかもしれない。千葉はもう30代半ば。自分の半分近い年齢の娘にいだく感情としてはあまり褒められたものではないが、それでもそのこと自体はなんの罪もない。
だが、愛の意向でコスプレは公表を控えられ、知っている人物がごく一部に限られると優越感が千葉の中で大きくなっていく。
千葉は彼女のことをもっと知るべく、徐々にその行動を監視するようになっていった。
タレントのスケジュール管理をしているのは主に千葉だ。なのでプライベート以外の時間で愛がいつ、どこで、何をしているのかはすべて把握している。
さらにファンからのプレゼントに盗聴器を忍び込ませたり、持ち歩いているバッグの底にGPSの受信機を忍ばせたりしていった。
そうなると愛の時折見せる不用心な行動や偏った食事などが気になりだし、千葉的には親切心からメールや手紙でそれとなく忠告をしたりし始める。
千葉にとって予想外だったのは愛がその行動をストーカーにつきまとわれていると言って金井に相談したことだ。
金井にとって愛はもはや事務所の稼ぎ頭の1人である。そうでなくても所属タレントを大切にすることを心掛けている金井は、大和田のつてでストーカー対策の経験が豊富な探偵事務所に依頼して犯人捜しを始めた。
調査の進捗は大和田が窓口になっていたので全くわからない。大和田はくそ真面目で『どこで漏れるかわからないから』と内容を金井以外には決して話そうとしなかった。
疑われたというわけではないが、千葉は用心して愛の監視以外の行動は控えざるを得なかった。
そんな矢先に起こったのがアニメ化記念イベントでの愛への襲撃事件だ。
監視しているとは言っても別に尾行したり常にカメラで撮影しているわけではない。あくまで行動を把握しているに過ぎないので話を聞いたときは青ざめた。観客の1人が愛を助けたと聞き安堵したものの、その翌日、愛が見知らぬ男を事務所に呼び、護衛として付くことが決まった。
護衛となった男は背が高く、体つきもがっしりとしていて見るからに強そうだった。顔はごく平凡で特別イケメンというわけではないがその雰囲気というか存在感には圧倒されそうになった。
しかも、気に入らないことに驚くほどの美女を2人も侍らせている。にもかかわらず、愛とは相当親しそうな雰囲気だった。彼女の交友関係はだいたい把握しているつもりだった千葉だが、男、柏木裕哉の存在は全く知らなかった。
所属タレントの交友関係にうるさい大和田はその状況に警戒感を強めたようだったが金井に何か言われたのか結局反対はしなかった。そのことも千葉を焦らせた。
護衛の初日に愛に注意を促すべく男をクビにするようメールを送ったがそれすらも無視された。
挙げ句の果てに恐れていたように愛はあの柏木という男に恋慕し、相手に本命がいるにもかかわらず告白し、付き合うようになったようだった。
千葉が最初にその時の映像を回収して見たときはあまりのショックで好物のす○家の牛丼(特盛り)が2杯しか食べられなかったほどだ。
それから数日、2人の仲はドンドン進展している様子だ。
もはや一刻の猶予もないが、以前にけしかけたチンピラがあっさりと撃退されてしまったことから力尽くでなんとかなる相手ではないだろう。
何より直接相手取るにはあの長身と筋肉が怖すぎる。
一緒にいた2人の美女も護衛らしいが、それでも所詮は女性だ。そっちはなんとでもなると考えていた。
「愛がこれ以上穢されるのは耐えられない。もう僕はどうなってもいい。何をしてでも……」
千葉からすれば愛という天使を、裕哉という複数の女を鼻の下を伸ばしながら侍らしさらに片っ端から女性を口説く最低男から解放するという、崇高な使命を持った騎士のような心持ちだった。
皮肉なことに一部分(主に複数の女性を侍らせていることと、時々鼻の下が伸びていること)が事実なのが実にやっかいである。
千葉が立ち上がりクローゼットの中を漁る。
「興味半分で作ったけど、これなら……」
千葉にとっての切り札。
手にしたのはいびつな形をしたリボルバー式の拳銃。
どこか子供が廃材を使って組み立てたかのようなそれは、以前3Dプリンターを使って銃を手作りし、ネットで公開して逮捕された男のものと似ている。
以前に興味半分でその男がネット上にアップしていたデータをダウンロードして作成し、金属加工会社に勤める友人に協力してもらって改造した。ただ、それは面白いと思ったから作っただけであって実際に使うことになるとはその時点では考えていなかった。もちろん実包(実弾)も自作のものが数発分あるだけだ。
そもそも発射実験をして使用に耐えられることは確認しているもののそれほど耐久性があるとは思えないが、目的を果たすのは十分だと考えた。
千葉は部屋の中をウロウロと歩き回りながらどうするか頭を巡らせる。その目は明らかに病的な色を帯びていた。
---------------------------------------------------
Side レイリア
主殿がこの場を離れしばし。
「レイリアさん、えっと、裕哉さんは?」
撮影とやら一段落したのか、ミドウアイが近づいてくる。
「ちょっと所用での、しばし離れておる。じきに戻ってくるじゃろう」
我(われ)がそう言うと、ミドウアイは少し残念そうに『そうですか』と肩を落とした。
昼前から場所を変えつつ何度も何度も歌ったり踊ったりしたせいじゃろう、少々疲れた様子で用意されていた椅子に勢いよく座り込んだ。
それにしてもセイユーという仕事はなかなか大変そうではある。
我には今ひとつやっていることの意味がわからぬが、アユミやティアの様子から何やら凄い仕事らしい。
時折主殿に色目を使っておる様子なのは少々気に食わぬがな。我やティアですらまだ手を出してもらっておらぬのに抜け駆けされてはたまらぬわ。
とはいえ、こやつのおかげで主殿と過ごす時間が増えたのは確かじゃし、何より主殿の望みでもあるから、しっかりと守らねばな。
「ミドウさん、まだ終わらないんですか?」
「ん~、とりあえず夕方の撮影はこれで終わりみたい。あとは日が沈んでから何本か撮ってようやく終わり」
ティアが『大変ですねぇ』と言いながらミドウアイに飲み物が入ったペットボトルを差し出す。同時に頭に乗っていたタマが労うように前足を伸ばして頭をポンポンと叩いた。
「タマちゃん、ありがとう」
「キュウ」
タマと握手するように前足を握り、ペットボトルを受け取ると喉を潤し、大きくため息をついて俯いた。
「あの、聞いてもいいですか?」
「ん? なんじゃ?」
「どうしたんですか?」
少し考えるように俯いていた顔を上げるとミドウアイはおずおずといった様子で口を開いた。
「柏木さんって、何をしていた人なんですか? ステージで襲われたときもそうだったですけど、どんなときでもどこか余裕そうで、私なんて誰かにストーカーされてるだけで不安がいっぱいなのに、この間も私を送った後襲われたんですよね? なのに、いつも何もなかったような感じなので」
「ふむ」
「あぁ~……」
さて、なんと答えたものか。
我としてはあまり納得がいかぬが、主殿は己の持つ力をできる限り隠したいと思っておるらしい。無論ウィルテリアスでもトラブルを避けるためであったり事情があったりで能力を隠す者も少なくないが、同時にある程度は力を示す必要があることも多い。
しかし、こちらの世界では他人と異なる能力を持つことは碌なことにならないらしい。まして人を大きく超える身体能力やこちらの世界では使える者のいないらしい魔法などは知られると平穏な生活が送れなくなるほどのことだそうだ。
かといってそれらを説明せずに納得させることもまた難しい。
「さて、我も全てを知っているわけではないのでな。それに主殿が話さぬのに我等が勝手に話すわけにはいかぬよ。じゃがひとつだけ言えるのは、主殿は強い。何よりもその精神が、な。故にそなたは安心して守られているがよい」
「で、でも、また襲われたりしたら、それに武器とか」
「大丈夫ですよ! ユーヤさんはどんなときでも誰よりも頼りになりますから」
……女が絡むとあまり頼りにならぬがな。
さて、そんな話を続けるにはいささか不向きな輩が動き始めたようじゃな。
「ティア」
「はい」
話をしながらも周囲の気配を探っていた我は、件の男が動き出したのを察知し、ティアを呼ぶ。
ほぼ同時にティア(タマ)も気づいたようだ。すぐに表情を改めて返事を返してくる。
「お疲れ様で~す。あ、愛ちゃん、良かった」
「千葉さん?! どうしたんですか?」
廃工場の出入口から男が挨拶をしながら入ってきて、すぐにミドウアイに気がつき近づいてきた。
ティアが撮った写真に映っていた男、確かチバとか言ったか、事務所で数回顔を合わせたが、人の良さそうな顔つきとは裏腹に主殿を見る目つきにはなにやら暗いものを込めておった。
今はその穏やかそうな表情はなりを潜め、なにやらギラついた目をミドウアイに向けている。
娘が立ち上がりその男を迎えようとするのをティアが制し、男との間を塞ぐように我が立つ。
「え? ど、どうしたんですか? レイリアさん」
「動かないでいてください。あの人がミドウさんを狙っていたストーカーです」
ティアと我の行動に驚く娘に、ティアが落ち着いた声で告げる。
「は? え? ち、千葉さんが? そんな、えぇ?」
「ストーカーとか、いったいなんのことだい? どうして僕が?」
こちらの交わす言葉が聞こえたのであろう、男がそう言いながらさらに近づいてこようとするのを視線で牽制する。
怯むような気配を見せて我々から5メートルほどの位置で男の歩みが止まった。
「何か誤解があるのかな? ちょっと仕事の話があるから愛ちゃんに来てもらいたいんだけど」
口調こそ穏やかであるが、それを表情が裏切っておるな。そのような目をしている男に護衛対象を近づけるわけがなかろうが。
「真に仕事の話であればそこから話せば良かろう。が、そなたのしておることは既に金井とかいう上司も知っておるからな。無駄なことは……」
「ち、千葉さん、本当なんですか? 千葉さんがストーカーなんて!」
我の言葉の途中でミドウアイが割り込んでくる。
空気の読めぬ娘じゃな。今は我の見せ場であろうが。
「チッ、もういいや」
娘の言葉を聞いて、男が小さく呟くと持っていたカバンに手を突っ込み、何かを引っ張り出して天井へ向ける。
バンッ!
炸裂音とともに天井の明かり取りの窓が割れ、ガラスの破片が落ちてくる。
「きゃあぁ!」
「な、なんだ?」
「銃声?!」
ミドウアイが悲鳴を上げ、我等の異様な雰囲気に作業の手を止めてこちらを見ていた連中も驚いた声を上げた。
男はその様子を満足そうに見つめ、次にその手にあるものを我のほうに向ける。
「僕は愛ちゃんに用があるんだ。だからさ、邪魔しないでどいててよ」
男が持っているもの、アレはいつだったか主殿や父上殿と食事をするために船に乗っていたときに騒いでいた連中が持っていたものと同じようなものであろう。
形は少々違うが、カヤクとかいうもので金属片を打ち出す、たしかジュウとかいったかの?
まぁ、我に当たったところで大した威力でもなさそうじゃが、ふむ、周りの者にはそういうわけにもいかぬか。
少々面倒ではあるが、あまり目立つことをすると主殿が怒るからのぅ、地味になんとかするとしよう。
我は床に転がっていた角材を持ち上げる。
長さは50センチほど、太さは女子(おなご)の腕ほどだが、十分じゃな。
「なんのつもりか知らんが、そのようなオモチャで何かできるとは思わぬことじゃ」
我が言うと男は一瞬キョトンとし、次いで大声で笑い出した。
はて、笑わせるようなことを言った覚えはないのじゃがな。
「あははは、玩具に見えるかもしれないけど、これは手作りの拳銃だよ。実弾も発射できる。本物ほど耐久性はないし命中率も低いけどね。でも、この距離ならそれでも外さないさ」
「それが本物であってもオモチャには変わりないがのぅ。まぁ、それが通用すると思うなら使うがよかろう」
我の言葉に歪んだ笑みを浮かべていた顔から表情が消えた。
「ホントなら関係ない人は殺したりしないつもりだったけど、邪魔するならしょうがないよね。恨むならこんなことに巻き込んだあの男を恨んでよ」
男がそう言って、我に向かってジュウを発射した。
バンッ!
「フッ!」
カッ!
炸裂音とほぼ同時に我は角材を胸の高さに振り上げ、飛んできた金属片を受ける。
「は? え?」
男が間抜けな声を上げるが、それに構わず受けた角材を確認してみる。
角材には金属片が半分ほど埋まった状態で食い込んでいた。
どうやら上手くいったようじゃな。
「な、何をした」
「ん? 飛んできたものを受けただけじゃが?」
「ば、馬鹿な! そんな角材で受けられるはずが」
「これに当たった瞬間、勢いを殺すようにわずかに後ろに下げれば簡単じゃよ。なんなら何度でも試すがよい」
「ク、クソッ!」
バンッ! バンッ! バンッ!
カッ、カッ、カッ!
男が狂ったように打ってきたが同じように全て角材で受ける。
跳ね返してもよかったがそれだと物が壊れるかもしれん。主殿がプロが使う撮影機材は怖ろしく高価(たかい)と言っておったからの。下手を打って弁償などさせられてはパフェが食べられなくなってしまう。
「そ、そんな、バカな……」
「もう終わりかの? ならば大人しく縛につくがよい。これだけのことをしたのじゃからな」
男の顔が歪み、持っていたジュウを投げ捨てる。どうやらもう使えないらしい。
そして足下に置いていたカバンを開き、再び中に手を入れる。
もう一つ用意していたらしいジュウを持ち、構えようとした腕は横から伸びてきた手によって掴み取られた。
「は~い、そこまで。悪あがきは良くないよ?」
---------------------------------------------------
Side 裕哉
俺は千葉の腕を掴み捻りあげる。
そして弛んだ手から自作拳銃を取りあげた。
一部分が金属でできているものの大部分が樹脂製の、見た目はホントに玩具っぽい拳銃を千葉の肘関節を極めたまましげしげと眺める。
拳銃ってのはそれほど複雑な構造してないとはいえ、よく作ったもんだな。
そういえば以前に3Dプリンターを使って銃を自作して逮捕された人がいたっけ? 確か図面データも公開してたとかなんとか聞いた気がするが、こんな物を作るだけの技術と根気と時間があるならその労力を他の方面に向ければさぞ立派なことができるだろうに。
「柏木さん!」
「御堂さん、大丈夫だった?」
「は、はい」
御堂さんがティアと一緒に駆け寄ってきたので聞いてみたのだが、とりあえずは問題なさそうだ。
加害者のストーカー野郎、千葉は俺が押さえているから心配なし。
今は肘関節からネプ○ューンマンの得意技、喧○スペシャルに移行しているので身動き取れず。叫び声が聞こえている気もするが、まぁ気のせいだろう。
「主殿」
「レイリアもご苦労さん。ってか、あんまり派手なことすんなっつっただろうに」
銃弾を角材で打ち返すどころか受け止めるって、見てた人にどんな言い訳する気だよ!
「何を言うか! 充分地味ではないか! 主殿こそ、そのチバとかいう男が入ってきたときから出入口の外から見てるだけだったじゃろうが」
この間チンピラが襲ってきたときに出番がなかったとか言ってブーたれてたから今回は見せ場を作ってやったんじゃんか。
「しかも最後に美味しいところを持っていきよってからに」
いや、それは、その、あそこで出ていかなきゃ本当に出番なくなりそうだったし。
「そういえば、ユーヤさんはどこに行ってたんですか?」
「いや、コイツに呼び出されて危険物倉庫に行ったら外から鍵閉められてな」
まぁ、周囲に人の気配もなかったし、どうせ廃工場で少々壊れても問題なさそうだったから普通に扉ぶち破ってきたけどな。
結構派手に歪んじゃったから魔法である程度直しておいたけど。
少々イラッときてたから力が入りすぎたのよ。
詳しいことは言えないので言葉を濁しながら説明しておく。
「あの……」
「それにしても拳銃取り出したときは少し驚いたけどな」
「えっと……」
「でもレイリアさんですからねぇ」
「お~い……」
「まぁ、あの程度では困ったりはせぬよ」
「か、柏木さん!」
「うぉっ! な、なに御堂さん」
ティアとレイリアに話をしていたら急に御堂さんが大声を上げたので驚く。
「あの、千葉さん泡吹いてますけど」
「あ、あれ?」
話しながらテキサスクローバーホールドに移行していたんだが、少々力が入っていたらしい。
見ると白目剥いて気絶してる千葉がいた。
まぁいいか。死んでないし。
落ち着いて周囲を見回してみると、撮影スタッフやらプロデューサーさんもどうしていいのかわからず困惑して俺達を見ていた。
しまった。すっかり忘れてた。
慌てて簡単に事情を説明して警察を呼んでもらう。
「して、これからこやつをどうするのじゃ? ケーサツに突き出して終わりかの?」
これだけのことをしたんだ、間違いなく起訴されて実刑にはなるとは思うが、精神鑑定とかで変な結果が出ても困る。
御堂さんが芸能人でその所在を隠すにも限界があるから、できれば確実に近寄らないようにしておきたいものだ。
……となると、やっぱりアレだな。
結論を出すと、御堂さんに金井社長へ報告の連絡をしてもらうように頼み、携帯電話を取りにこの場を離れた隙にアイテムボックスから『転移の宝玉』を取り出した。
少々荒っぽいが、またまた異世界で人格矯正教育といきましょうか。
俺は千葉の首根っこを引っ掴み、それを見たティアとレイリアは俺の腕を掴む。
そして、異世界へ転移した。
……考えてみれば、犯人がわかった時点でこうすれば良かったんじゃね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます