第78話 勇者の新入生獲得奮闘記 Ⅰ

 ツーリングサークルの部室。

 今そこにサークルメンバー全員が集合している。

 サークルのメンバーは1年生4人、2年生5人の合計9人。

 せっかくだし今まで機会も無かったけどこの際紹介しておこう。

 まずは1年生。

 相川 良太あいかわ りょうた。初のフルネーム。バイクはYAMAHA セロー225|(オフロードタイプ)。理学部。

 小林 絵美こばやし えみ。相川の彼女。SUZUKI GSX250FX|(レーサーレプリカ)。経済学部。

 久保 有香くぼ ゆか。良いところのお嬢さん。TRIUMPH ボンネビル790|(ネイキッド)。教育学部。

 野村 光陽のむら こうよう。HONDA VT400S|(スポーツタイプ)。教育学部。

 続いて2年生。

 山崎 伸吾やまざき しんご。オカルト好き。カワサキ Ninjya400R|(レーサーレプリカ)。経済学部。

 道永 武史みちなが たけし。カワサキ Z250|(レーサーレプリカ)。法学部。

 大竹 一郎おおたけ いちろう。カワサキ KLX125|(オフロードタイプ)。経済学部。

 そして俺と茜。

 以上である。

 

 バイクに興味ないひとは車名言われてもわからんだろうが許せ。興味があったらググってくれ。

 と、それは置いておいて、

「え~と、そんじゃ来週から新入生の部活・サークル勧誘週間での勧誘活動を話し合おうと思う」

 部室の奥側の中央に座った俺がそう口火を切る。

 なぜか。

 このサークルの新会長に俺が選ばれてしまったからである。

 もちろんガラじゃないので辞退したかったのであるが春合宿に出発する前日に神崎会長から申し渡された瞬間に響き渡ったサークルメンバーの拍手。

 (俺以外の)満場一致により新会長を押しつ、いや就任することになってしまった。

 その後の合宿は神崎会長とほぼマンツーマンで指導&引き継ぎが行われつつ、あれよあれよという間に終了した。

 そして今回の新入生のサークル勧誘活動が会長としての初仕事である。

 

 もちろん別に俺だけが頑張らなきゃいけないわけでなくメンバー全員でやるんだが、取りあえずは今の所何も決まっていないので全員を招集して話し合いをしようと思うのである。

 大学が予算を出して活動にある程度関与する正式な部活と違ってサークルってのは同好会・愛好会なので活動場所や部室の提供以外に大学側から何の支援もない代わりにサークルの設立が承認されていれば割と内容は自由だ。

 新入生の勧誘も一週間の期間限定で学内の決められた場所で自由に勧誘がおこなわれる。

 正規の部活が一番良いエリアなのはまぁ仕方がない。

 他のサークルは抽選で場所が割り振られるので、これに関しては既に決定済みである。

 

「それは構わないんだが、なぁ柏木新会長」

 俺が話しを続けようとしているのに山崎が水を差すように言葉を挟む。

 出来ればこのままなし崩しに一気に流してしまいたかったんだが。

「……んだよ」

「出来れば、その、柏木と工藤の間に座ってる2人を紹介して欲しいんだけど」

 山崎の言葉に他のメンバーも一斉に頷く。

 はぁ、仕方ないか。

 いつかは紹介しないとどうしようもないしなぁ。出来れば決めること決めてから最後にしたかったんだけど。

 

「え~~、紹介が遅れたが、今期経済学部の聴講生となる人達だ。正規メンバーではなく外部参加者としてサークルに所属することを希望している。

 新入生とタイミングを合わせても良かったんだが本人達の希望もあったんで一応みんなの意見を聞こうと思って連れてきた」

 俺が見るとにこやかに2人が立ち上がり自己紹介を始めた。

「我の名は柏木レイリアという。故あってこの大学で学ぶ機会を得る事が出来た。ならばと『さーくる』とやらにも是非に参加してみたいと思い来たのじゃ。よろしく頼む」

「えっと、柏木ティアといいます。ご迷惑をお掛けすることもあるかと思いますがよろしくお願いします」

 俺と茜を除くサークルメンバーが唖然と見つめる中2人が頭を下げた。

 

 先日の親父からの爆弾発言。

 それは別に大学に入学させようということではないらしい。

 というか、そもそも2人は日本の高校を卒業していないし入学資格の検定試験も受けていないので大学に『入学』自体が出来ない。当然の事だ。

 だが、俺は知らなかったのだが大学には科目等履修生制度というのがあって、社会人などで学ぶ意欲のある人や教員を目指す人などを対象に大学で行う講義を受ける事が出来るんだとか。

 制度の内容もいくつかの種類があり、うちの大学の場合単位の取得を目的とする場合には出願資格に「高等学校卒業またはそれと同等以上と認められる学歴を有する者」という要件が入っているが、単に講義を受講するだけならば少額の入学金と受講する講義のコマ数に応じた受講料を支払えば学歴は特に問われないらしい。

 親父曰く、社会に馴染むには人と接する必要があるが学校という場所はそれに最も適しているんだと。

 色んなタイプの人間がいるがある程度は年齢も近くて入り込みやすく、失敗しても問題になりにくい。更にどうしようもなくなってもそこから逃げるのも簡単だとか。

 思わず納得してしまった俺はレイリアとティアの期待する視線に反論を言うことができなかったのである。

 

 サークル活動に関しては、運動部の選手や研究会の発表など参加要件のあるものは駄目だが外部参加者としてサークルに所属することは問題ないとされている。

 実際他の大学との交流系サークルなんかは複数の大学の学生や社会人なんかが入り交じってるし楽器系や特殊な趣味系のサークルは他の大学や社会人が半数近く占めてるなんてのもある。

 この辺は大学にもよるのかもしれないが、うちの大学の場合事務局に届け出さえしておけば良いらしいのだ。

 逃げ道は完全に塞がってしまっている状況に頭が痛い。

 なんというテンプレ的展開。

 これ絶対厄介ごとのフラグじゃん!

 大体、レイリアはまだわかる。元々こっちの世界の知識やら大学やらに並々ならぬ興味を示していたし、俺が大学に行っている間も教養系のテレビ番組を見たり図書館に入り浸ってたりしてたし。

 なんでも、向こう異世界では上位龍といえば大いなる英知をもっているとか言われているのに自然科学や物理学の分野ではこっちに住む普通の大学生の方が知識量が多いというのがいたくプライドを刺激したらしいのである。

 だがティアまでそれに加わるのは予想外だった。

 

 こうなればサークルメンバーから外部員の受け入れを反対する人が出るのを期待するのだが……駄目そうだ。男性メンバー全員レイリアとティアの容姿に釘付けになってる……

 ならば女性メンバーはというと、俺と同じ名字を名乗ったせいなのか興味津々、ってか、ギラギラした視線がガンガン突き刺さってくる。

 チラリとティアの向こう側にいる茜に視線を送る。

 その視線を受けた茜は『諦めたら? 』と視線で返してきた。

 ……孤立無援っすか……

 

「え~、なんだ、それで外部からのサークル参加に関して反対意見とかは」

「いいじゃんそれ」

「問題ないっしょ? 」

「「「「異議無し」」」」

「美人歓迎!! 」

「それより柏木先輩との関係は?? 」

 無いんですね。そうだと思ったよチクショウ!

 

 いや、別にレイリアとティアがサークルに参加するってこと自体はそれほど嫌な訳じゃない。

 ただ間違いなくトラブルは起きるだろう。

 2人の容姿が容姿だし、レイリアなんかは特に口より先に手が出るタイプだし、ティアは見た目で侮られたりすることも多いだろう。しかもある意味こっちの世界では世間知らずだからな。

 そして起きたトラブルの矛先は確実に俺に向く。じゃないとお話しが進ま、いや、じゃなくてフォローが出来るのが俺しか居ないとなれば回避不可能となる。

 

「はぁ~……わかったよ。2人のサークル参加を承認する。ただし、実際に活動に加わるのは新入生達の勧誘週間が終わってからだ」

「はぁ~?! 柏木、2人が居れば勧誘が楽じゃねぇか。なんで手伝ってもらわないんだよ! 」

 俺の言葉に山崎が反論する。道永と大竹も不満そうだ。

「あのなぁ、レイリアとティアの容姿に惹かれて変なのが集まるに決まってんだろうが。バイクツーリングの楽しさが広がって欲しいのは確かだがそれ以外の動機で来られても厄介ごとが増えるだけだぞ」

 と、そこまで言ってから女性陣の視線に気付き内心(外見上悟られないように気をつけつつ)焦りながら言葉を足す。

「それに今の女子メンバーだってかなりレベル高いんだ。そっちの対応だけで沢山だよ」

 俺のフォローに小林さんと久保さん、茜の視線に含まれた危険なものが和らいだ、気がする。

 俺、ナイスフォロー!

「そ、そうか、そうだよな。うん」

 女性陣の空気に気が付いたらしい道永が喰い気味に同意したのでこの話はここまでとなった。

 レイリアとティアは参加したいかもしれないがここは我慢してもらおう。

 

 結局その後は最低限の事柄を決めるのに精一杯で準備の話はそっちのけでレイリアとティアに男共が群がり、女性陣が俺と茜に詰め寄る事態となった。

 こうなると思ったんだよなぁ。

 初っぱなからこれでこの先大丈夫だろうか。

 ヤバい。不安しかねぇ……

 

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