第65話 勇者はヒーロー! Ⅴ
斎藤への制裁は確定事項として、次はどうするべきか。
早く爆弾を処理したいのだが、さっきモニタールームとか言ってたよな?
そこで監視されてると爆弾を処理する前に爆発させられるかも知れない。
確か以前何かの記事で日本国内で普通に手に入る素材と電気街で売ってる部品で簡単に時限爆弾や遠隔起動式の爆弾が作れるって書いてあったと思う。
となればリモコン式を前提に処理を考えないといけない。といっても外してさえしまえば後はアイテムボックスに放り込んでおけば時限式だろうがリモコン式だろうが問題ない。
問題は数と場所だな……
「クロノス、次はどうする?」
「爆弾をどうにかしないといけないが……」
「クソッ!! イスラム教徒が!!」
さっきベルナップと呼ばれてた副船長さんが忌々しげに吐き捨てる。
「口を慎みたまえベルナップ君! 君はレイシストなのか!」
船長さんが強い口調で窘める。
「テロリストというものは宗教や思想を自己の欲望の実現に利用しようとする指導者と自ら考えることをせず利用される愚者達のことだ。利用する対象はイスラム教だけでなくキリスト教も自然保護思想も同様にある。それを混同してはいけない」
今度は穏やかに言い聞かせるように語る。
「敬虔なイスラム教徒達こそがこのようなテロリズムを憎んでいる人達なのだ。君がそういった人達も一纏めにして批判することは許されることではない」
「……はい。軽率でした」
ベルナップさんが神妙に頭を下げる。
この船長さん相当敬愛されているみたいだな。
「ふん! 何を言おうが貴様らが神の意志に、っぎゃぁぁぁぁぁ!!」
うるさいから黙っておこうな?
聞くこと聞いたから今度は治さないよ。
とうとう白目剥いて気を失った
「キャプテン・バイヤー。モニタールームというのは何処にある?」
「バイヤーで良い。モニタールームはこの部屋の真下だ。そこに船内のカメラの映像が映されるモニターが設置されている。普段はそこと船尾側の警備員室に警備員が常駐しているが今はおそらく5名ずつ位だろうな。ここの状況を考えると既に占拠されているだろう」
真下か。
けどテロリストは15名だったな。一瞬で倒すには多い。
爆弾がリモコン式だった場合のことを考えると厳しいか?
「……おそらく爆弾は遠隔式では無いだろう。おそらく手動でセットする時限式だと考えられる」
「どうしてそう思う?」
何故か断定的に言うバイヤーさんに尋ねる。
「この船は巨大だ。警備や船員が使う無線は要所に中継機器が設置されているが機関部や船底は距離がありすぎて遠隔式では動作するかどうか不安が残るだろう。その点時限式なら任意でセットできるし待避の時間も取れるからな。その連絡は警備の無線を奪えば出来るから態々不確定な事はしないはずだ」
成る程ね。となると無線連絡さえ出来無くすれば良いのか。
「方針は決まったかい?」
「ああ。だがその前に……」
聞いてきた斎藤の肩に手を置き魔法を発動させる。
「え? あ、ちょ」
一瞬驚いたような声を上げかけ、斎藤の姿が消える。
といっても『転移魔法』で元居たレストランに送っただけだけどな。
これ以上アイツが居てもしょうがないし危ない。
何より、これ以上恥死性の攻撃を背後から喰らわされたらたまったもんじゃない。
「! か、彼は一体何処へ?」
「安全な場所へ送っただけだ。それで、モニタールームへはどう行けばいい?」
驚くバイヤーさんに端的に答えて問う。
「操舵室を出て右の突き当たりにあるエレベーターか階段から行ける。私が案内しよう」
「それは助かるが、危険だぞ」
確かにこの船の構造を熟知している船員に協力してもらえるのは助かるが一応言っておく。
「私はこの船の責任者だ。全部人任せには出来ん。それにこう見えても私はイギリス海軍出身でね。足手まといにはならんよ」
最初から異様に落ち着いているとは思ったが軍隊経験者か。どうりで。
俺に答えたバイヤーさんは船員達に指示を出しつつテロリスト達が持っていた拳銃と自動小銃を手に取り動作を確認する。
「ヨコハマの港湾に連絡を取り現状を説明しておいてくれ。ベルナップ君はここの指揮を頼む。船はこの位置を維持。近寄る船には注意喚起をするように」
「船長! 数隻近づいてくる船舶があります。小型の高速船のようです」
別の船員さんがレーダー? っぽいものを見ながら声を張り上げる。
と同時に操舵室の窓の外側にサーチライトを照らして接近するヘリコプターが見えた。
「……おそらく日本の海上警察だろう。港湾を通して状況の説明とテロリストを刺激しないように要請してくれ」
「はい!」
テキパキと動く船員さん達。指示する船長。
いいなぁ、カッコイイ。
言い忘れてたけどバイヤーさんは見た目50歳くらいで口髭な渋めのダンディー。
声も低くて落ち着いたバリトンボイス。
白を基調にした船長の制服も海の男という感じで格好良い。
それに引き替え、俺は派手なヒーロースーツに甲冑風マスク。
…………考えるのは止めよう。
俺もこの間に準備を整えていく。
具体的には無線を無意味にする魔法の準備だ。
それと俺がぶっ壊した扉の修復もしておかないとまた占拠されても困る。
ひしゃげて吹き飛んでいた扉をある程度力業で形を整え、それから『錬成』と『成形』の魔法で直す。出来上がったら入口と蝶番を直して応急処置が完了する。
多少形は歪だし動きも悪いが何とかロックも掛かるし大丈夫だろう。
ついでに入口前に放置してあった最初に倒したテロリスト2人を操舵室に放り込む。
邪魔だしな。
処置を終えて船員さん達の方を振り向くと何故か呆然とこっちを見ていた。
どしたの?
「……いや、もはや何でもありだな君は」
バイヤーさんも何か諦めたように言う。
まぁ、こっちでは道具も使わず鉄製の物を成形することは無いからなぁ。
とはいえ時間も無いので気にせずさっさと行動しよう。
「では案内を頼む。一応『障壁』という保護を掛けるが油断しないでくれ」
「わかった。君たちはここを頼む。我々が戻るまで誰も入れるな。船員であってもだ」
「はい! お気を付けて」
船員さん達に見送られながら操舵室を出る。
「そういえば外から侵入して操舵室に突入したが気付かれているだろうか?」
「は? 外から? どうやって、あ、いや、今更か。……おそらく大丈夫だろう。カメラはエレベーターと階段の入口が映るように設置してある。通常それで事足りるからな。だがそこまで行けば気付かれるはずだ」
出来れば突入直前まで気付かれたくないな。
話ながらも慎重に歩を進めカメラを視界に収める。
俺はカメラを魔法で瞬間的に冷却させる。
「よし! 階段で行こう」
「わかった。だが今何をしたのだ?」
バイヤーさんに効果を説明する。
簡単なことだレンズが冷却されて一時的に曇っている間に階段に侵入するだけだ。
階段に入ってしまえば扉で中は見えない。
多少不自然に思われても直ぐに戻るから確認まではしないと思う。
階段を下りてモニタールームの階に到着する。
ここからは時間の勝負だ。
直ぐさま『探査』を使って人員の配置を確認する。
エレベーターと階段を確認できる位置に2人、モニタールーム入り口に2人、中に15人か。
「これから魔法を発動する。しばらくの間は一切の音が無くなるから驚かないでくれ。俺が突入するから音が戻ったら後から来てくれ」
「音が? どういう、いや、わかった。心配は無用かも知れないが気を付けてくれ」
バイヤーさんの言葉に頷くと俺は魔法を発動させる。
直後、周りから全ての音が消え失せた。
『
俺が最初の頃に覚えた魔法だ。
魔法の詠唱を阻害できるということで喜び勇んで覚えたのだが、実際には高位の魔法使いって基本無詠唱なんだよな。しかも魔法構築に時間が掛かる上に効果範囲も数十メートル四方程度で10分程度しか維持できない。
覚えただけで使う機会はほぼ無かった。
しかし今回は効果的なはずだ。
何せ無線機自体は使えても音が発生しないから意味が無い。
それに無音という事態に相手は混乱するだろうし冷静な奴が居ても指示が出来ない。
魔法の構築は上の操舵室で完了しているし10分もあれば制圧できるだろう。
何よりこっちの世界で魔法を使える奴は多分ほとんどいない。
俺がバイヤーさんを振り返ると彼は驚いた顔をしながらも頷く。
それを確認すると一気に扉を開け放ち飛び込む。
近い位置にいた2人は顔を見合わせて何やらパクパクしているがこっちには気付いていない。
人間ってのは物音がしないと直ぐ目の前にいてもなかなか気付けないからな。
俺は一気に近寄ると2人の顔を鷲掴みにしてそのまま走り抜ける。
モニタールーム入り口に立っていた男の1人が何かを感じたのかこっちに気付くがもう遅い。
顔面を掴んだまま男を振り回し入口の2人を薙ぎ払う。
そしてそのまま室内に突入。
中は良い具合にパニックになっているようだ。
何人かは自分の耳を叩いたりしている。
構わず手前側にいた4人を両手の男達で殴り飛ばす。
一度やってみたかった人間ヌンチャク。気分は範○勇次郎。
ざっと部屋の中を見渡すと奥の壁際に警備員らしき制服を着た人が4人後ろ手に縛られ座らされている。その脇に自動小銃を突きつけている男が1人。
その逆側に複数のモニターが並んでいるところがありその前に同じ制服を着た男が1人。
コイツが警備員として紛れ込んでいたテロリストの仲間なのだろう。
そう判断して先ず人質の安全確保をしようと動き出そうとした直後、殺気を感じて障壁を右側に展開する。
最低限身体に纏わせてるけど念のため、ね。
その障壁に複数の弾着。
けど音がないから迫力はイマイチだな。
撃ったであろう男が一瞬驚いた顔をするが直ぐに気を取り直し再度の銃撃を重ねてくる。
今までの連中よりも動きが良い。
明らかに動きに無駄が無く戦闘に慣れている感じだ。
もしかしたら元軍人とかそういった本格的な戦闘訓練を受けたことのある奴かも知れない。
けど、大して脅威では無いな。
俺は人間ヌンチャクを振るってその男を吹き飛ばすとそのまま
慌てて避けようとするも
ぶつかって倒れる男、思わずだろう小銃を手放したが肩からベルトで提げているので身体には纏わり付いたままだ。
そこに座らされていた警備員が小銃を踏みつけ、身動きできなくなった男の顔面を極軽く(ブロックが粉砕されない程度に)蹴り飛ばす。
コレで10人か。
流れ弾に当たらないように警備員達を『障壁』で隔離してから改めて残りの連中と対峙する。
残りは警備員の制服を着たのを含めて5人。
……の内、2人はまだ何が起こっているのか気が付かずに明後日の方向を見ながら耳を叩いたりしている。すごく間抜けな図だな。
直ぐに拳銃で銃弾が撃ち込まれるが尽く障壁に阻まれじきに弾が尽きたようだ。
勿論補充をさせるつもりは無いのでサクっとぶちのめして終わる。
え? 描写が簡単すぎる?
だって同じ事の繰り返しだし面倒じゃん。
というわけで程なくモニタールームの制圧が完了した。
残っている無音魔法の効果も途中で打ち消す。
そして倒れているテロリストを結束バンドで拘束しているとバイヤーさんが部屋に入ってきた。
「何だかよくわからない内に終わってるというのも微妙な気分だな。君は本当に人間か?」
失礼な。
間違いなく人間だよ?
……だよね?
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