第64話 勇者はヒーロー! Ⅳ

「おいおい、危ないだろ?」

 そう言いながら俺は銃声と同時に背後にのばした手を開いて中のものを床に落とす。

 ポトポトッっと落ちたソレは弾丸。

「な?! ば、馬鹿な!」

 船員の服装をした男が愕然と呟く。

 そして更に拳銃を突き出した。

 パン! パン! パン!

 炸裂音が響くが俺は先程と同じように発射された弾丸を片手で受け止める。

 

 出来たよ。出来ちゃったよ……

 銃弾なんてあの美術館襲撃事件の時に見たのが初めてだったけど、その時も銃口から発射された銃弾が見えていた。

 今回は元々部屋の中に居た人達の動向は全て探査魔法で監視していたので船長さんと思われる男性と言葉を交わした直後に船員の1人が銃を構えるのもわかった。

 この人船員の中で一人だけ行動や位置が不自然だったし殺気もあったしな。

 どうせ突入する前から全身を覆うように『障壁』を展開していたので怪我をする恐れは無いからと試しに魔力を纏わせた手で掴んだら、掴めた。

 正面から打たれた今回は更にはっきりと弾道が見えた。

 ……なんか本気で人外になってるような気がする。

 

「ヒィッ! バ、バケモノ!」

 発砲した男は拳銃を取り落として後ずさる。

 失礼な!

「何で船員さんがテロリストの仲間なんかやってるのかはわからんが、取りあえず寝てろ」

 俺は慌てることなく男に近づき裏拳を顎に軽く一閃。脳を揺すられた男はその場で意識を昇天させて崩れ落ちた。

 俺は改めて周囲を見渡す。

 身を屈めながらこちらを警戒した目で見る船員さん達。不審な動きをしている人はいない。

 

「……私がこの船の責任者だ。貴方の目的は何だ」

 先程俺に声を掛けてきた男性が部下達を背に隠すようにして前に出る。

 この場でこういった行動を出来るってのは凄いな。

 いきなり現れてテロリストと蹂躙したよくわからんマスクを被り派手なコートを着た男。

 うん。怪しいな。間違いなく通報案件でしょ。

 警戒されないわけがない。

「豪華客船がテロリストに占拠されたのを知ったので救助に来た。テロリスト以外の人に危害を加えるつもりはない。……さっきのは……撃たれたので反撃しただけだ」

 あんまり丁寧なのもおかしいかと思って敢えて淡々とした口調で答える。

「……そうか。先ずは感謝する。そこの船員はテロリストの仲間だったようだ。それで……」

「終わったみたいだね」

 船長さん? との会話に割り込むように斎藤が部屋に入ってきて言う。

「ああ。ところで怪我人とかはいるか?」

 斎藤に頷き、船長さんに向き直って尋ねる。

 

「!! そ、そうだ! ロブ!!」

 ハッとした顔をした直後船長さんは倒れていた船員さんに駆け寄る。

「おい! ロブ! しっかりしろ!!」

 ロブと呼ばれた男性は下腹部から血を流して呻いていた。

 そうだった! そう言えば1人倒れてたっけ。

 俺も慌ててその男性の側に行き状態を確認する。

 銃弾は体内に残っていないようだが出血が多いし意識もほとんど無いようだ。

「どいて!」

 俺はそう言って船長さんを引き離すと『治癒魔法』を掛ける。

 傷口がみるみる再生していくのが感覚でわかるが外側からじゃ見えない。

 それでも治癒が終わると男性の表情から苦痛が消えて呼吸も落ち着いてくる。

 どうやら大きな血管や重要な内臓器官の損傷は無かったらしく見た目ほど出血も酷くなかったのだろう。出血性ショックの兆候もなさそうだ。

「ロ、ロブ? これは……」

「もう大丈夫だ。出血が多いので意識を取り戻すのは少し時間が掛かるだろうが命に別状はない」

 男性の変化に驚く船長さん。

 ついでに寝かせる場所を聞いてみると奥に船長室がありそこにベッドがあるというので男性を移動させた。

 

「ありがとう。おかげで部下を失わずにすみそうだ」

 男性を運んで操舵室に戻ると船長さんが礼を言ってきた。

 他の船員さん達は何やら忙しそうに動き回っている。

「今船を停止させている。大型船だからな。停止させるだけでも簡単にはいかない」

 俺の視線(マスクで見えないはずなので頭の動きかな?)で察したのか説明してくれた。

「私の名前はジャック・バイヤーという。この船の船長を務めている。改めて聞きたい。君は何者だ? その姿を見る限り普通の軍人や警察官とも思えないが」

 24時間頑張っちゃう連邦捜査官みたいな名前だがそれは今はいいか。

 俺はどう答えたものかと頭を悩ますが、その答えは横から斜め上方向にもたらされた。

 

「彼の名前は魔道王ソーサリーロードクロノスと言います」

 な?! ちょ、おま!

「僕のことは、そうですね教授プロフェッサーとでも呼んで下さい」

 『呼んで下さい』ぢゃねーー!!

 斎藤! てめぇ何勝手に名前付けてやがる!!

 しかもなんてベタな名前だよ! 俺を羞恥性ショック死させる気か!!

「ちょ……」

「そうか。ではミスター・クロノスとプロフェッサー、これからどうするのか聞かせて貰いたい。我々も出来るだけの協力はさせてもらう」

「そうして貰えると助かります」

 お願い。無視して話進めるのは止めてください。

 

「せ、船長! こんな得体の知れない連中を信用されるのですか!」

 船員さんの1人が声を荒げる。

 船長さんほどではないけど他の船員さん達よりもちょっとばかし装飾の多い制服を着てる。

 得体の知れない呼ばわりはアレだが気持ちはわかる。

「ベルナップ君、気持ちはわかるが今は緊急時だ。少なくとも彼等は我々を助けてくれた。君も見ただろう10人以上の武装したテロリストを瞬く間に殲滅した力を。彼がその気になれば態々我々を欺すようなことをする必要は無いだろう。それよりも一刻も早く事態の解決に努める必要がある」

 殲滅してないよ? 倒したけど死んでないよ? 物騒なこと言わないで下さい。

「しかし、こんなふざけた格好をした……」

「副船長! すまないな。彼は優秀なのだが少々真面目すぎてね」

「いえ、そう思われるのも当然ですので気にしないで下さい」

 この人副船長だったのか。こんなでかい船の副船長なら相当優秀なんだろうな。それと、斎藤何故お前が答える?

 

 これ以上会話してると良くない方向に話が進みそうなのでやるべき事をさっさとしよう。

 俺はさっき腹パンかまして蹲っているテロリストを『拘束バインド』で動けなくしておき『治癒』を掛ける。

「ぐ、き、貴様一体……」

「質問に答えて貰おうか」

 痛みが消えて俺を睨み付ける元気が戻ったらしいテロ男に俺は声を掛ける。

「答えると思っているのか! 我々に……ぐぎゃぁぁぁぁ!!」

 時間を掛けるつもりは無いので余計な事を言いそうになった男の股間を思いっきり踏みつける。

 グチャ! っと嫌な感触がして男は物凄い悲鳴を上げた。

 直ぐさま『治癒』で完治させる。

「はぁはぁはぁ! 貴様……」

「この船に乗り込んだお前達の人数は?」

「何をされようが我々は、な?! ぎゃぁぁぁぁ!!」

 さっきの感触が嫌すぎたのでアイテムボックスから異世界で戦争の時に使った拳大のハンマーを取りだし男の股間に振り下ろす。

 響く悲鳴。やっぱり道具使った方が精神衛生上良いな。突入前に周囲に遮音障壁張ってあるから声とか音とか大丈夫だし。

 今回も直ぐに治癒する。

 

「人数は?」

「な、何度聞かれようが、ぎゃぁぁ~~~!!」

 振り下ろし、そして治癒。

「人数は?」

「う、あ、ぎゃぁぁぁぁ!!」

 振り下ろし、そして治癒。

「答えは?」

「…………! ぐあぁぁぁぁぁぁ!!」

 繰り返し。

「答えは?」

「わ、わかった! こたっ、あぁぁぁぁぁぁ!!」

 あ、つい振り下ろしちゃった。

 

「んじゃ答えて貰おうか。まずアンタを含めた人数は?」

「は、はぁはぁ……わ、わかった! 答えるからこれ以上は!! ……全部で78人だ」

 ようやく素直になったらしい。最初からそうすれば良いものを。

 …………あれ? ひょっとして俺の方が悪役?

「……配置は?」

「操舵室の制圧に16名、モニタールームに15名、機関部に8名、残りは乗客と周囲の警戒だ」

 人数としては多いようにも感じるけどこの規模の船に78人って少なくね?

「たったそれだけか……そうか! だから乗客と船員の少なくなる今日なのか!」

 いつの間にやら近くに来ていたバイヤー船長が呟く。

「どういうことだ?」

「この船には乗客として1,000人以上が搭乗している。船員やサービススタッフも700人以上だ。だが今は乗客は殆ど観光のために日本国内のホテルに移動しているし船員達も交代で休暇を地上で過ごしている。警備やサービススタッフは残っているがそれでも半数は休暇を取って下船している筈だ。船員達だけでは人質として心許ないだろうが……」

「今は日本人の客がそれなりにいると」

「そういうことだろう。日本人が人質になっていれば日本の警察は強攻策に出る事は無いだろうしな」

 完璧に舐められてるな日本。

 

「船員でお前達の仲間は、ジードの他は誰だ? 何人いる?!」

「…………! 7人だ! そいつを含めて7人。警備と機関士に2人ずつ、後は知らん」

 船長さんの質問には答えようとしなかったのでハンマーを振り上げたら喋りだした。

 いちいち手間掛けさせるなよ。

 あと聞くことあったかな。

 確認しようと周りを見渡すと、何故かみんな内股になって股間を押さえてる。

 なにゆえ?

「どうかしたのか?」

「い、いや、ちょっと視覚的な刺激が強すぎて」

 斎藤が答えると他の人もしきりに頷いてた。

 あ~、確かに見てるだけでちょっと男にはキツイかもな。

 んでも早くカタが着いたんだから我慢しろよ。

 

「……爆弾……そうだ! 爆弾を持ち込んでないだろうな?」

 それがあったな。

 美術館襲撃事件の時も爆弾仕掛けてたし。

「そ、それは……機関部と船底に仕掛ける予定だった」

「な、なんだと? 種類は?」

「それは知らない。爆弾の担当は別の奴だ」

 爆弾はやっかいだな。

 船底に穴でも開けられて沈没でもしたらシャレにならん。

 

「とにかく爆弾を何とかしなければな。ミスター・クロノス、協力してもらえるだろうか」

 もちろんそうするつもりなんだけど、もしかしてその名前って、もう確定?

 マジで?

 …………斎藤、あとで泣かす!!

 

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