第60話 勇者の恋愛事情
テレビ画面には毎年変わらない正月特番の代わりに銀色と赤色の全身コスチュームに包まれた怪人物が虫っぽい姿の怪獣と一緒になって街を破壊している映像が流れている。
時は昼下がり、場所は自宅のリビングである。
「お餅焼けたよ〜」
亜由美の声がキッチンから聞こえてくる。
「はいよ」
「えっと、オセチ料理の残り出しますね」
俺は返事をしつつティアと食卓の準備を始める。
ちなみにレイリアはテレビの前から動く気配がない。
大騒ぎだったイベントも終え無事に年越しを迎えて既に3日。食卓に並ぶ料理以外はすっかり日常モードに戻っている。
最後にドタバタしたイベントはティアとレイリアに取り押さえられた2人の男が会場の警備をしていた警察官に引き渡されて終わった。
予想通り男達の動機は気に入らない企画をしたサークルに対する嫌がらせだったらしいのだが、斎藤はイベント主催者にかなり苦情を言われたらしい。こちらに非がある訳ではないので今後の参加不可とまではならなかったが脅迫状の件や高額商品の販売を事前に通知していなかった事で警告を受ける羽目になったのだとか。
今後は利用規約の改定も含めて検討されるらしい。
俺たちや他のサークルメンバーは警察の人に簡単に事情を聞かれただけで済んだのだが、代表ともなると苦労が多そうだ。
予想外だったのはレイリアとティアが特撮にすっかりハマってしまった事だろう。
元々娯楽の概念が乏しい異世界の住人。流石に王都や大きな都市には劇場で歌劇や演劇、サーカスなどがあるらしいがやはり比較的裕福な人の娯楽という事もあり2人にはあまり馴染みがない。レイリアに至っては人里離れた山奥に暮らしていたドラゴンだしな。
ましてやテレビや映画などは存在すら知らない2人にとって空想世界を動画で見ることに相当なカルチャーショックを受けたようで、特に何が琴線に触れたのかはわからないがイベントからこっち2人は特撮三昧の日々を送っている。
レイリアは巨大怪獣が出てくるのが、ティアは戦隊物がお気に入りのようだ。絵面的には黒龍って倒される側だと思うんだが良いのか?
準備が整い4人で食卓に着く。テレビにかじりついて動こうとしないレイリアは亜由美が強引に手を引っ張って来た。
「ま、待て今ゼッ◯ンがウルト◯マンメ◯ウスに……」
「DVDだから後から見れば大丈夫。さっさと食べる」
齢13歳の少女に諭される年齢不詳で数百年は生きている伝説的な黒龍。シュールだ。
食卓に並んでいるのは後残りわずかとなり黒豆や田作り等の甘めのものばかりとなったおせち料理と焼いて醤油を付けて海苔を巻いたお餅、磯辺焼きだな。それから漬物だ。
「毎年の事ながらおせち料理ってのは食べきる前に飽きるな」
「そうなんですか? でもお餅は美味しいです」
ティアは殊の外お餅が気に入ったらしく最初に食べた日からほぼ毎日嬉々として頬張っていた。耳が機嫌よく少しだけ横を向き尻尾も大きく左右に揺れている。
家では正月以外は滅多に食べないことを教えたらショックを受けていた。あまりの落ち込みように慌ててパックされた物が一年を通じてスーパーに売っていることを教えて慰めることになった。
……今度餅つき機でも買ってやろうかね。
「そう言えばレイリアとティアは何か欲しいもの決まったのか?」
俺は食後にお茶を飲みながら2人に尋ねる。
というのもイベントで慣れない仕事を頑張ってくれた3人に何かして欲しい事か欲しいものがあるか聞いたのだが2人はその場では思いつかなかったらしく日を置くことにしていたのだ。
亜由美は即答で俺の奢りで某施設に遊びに行くことを希望し、皆で明後日行くことになっている。
「うむ。考えたが我はやはり満足するまで“ぱふぇ”を食べたいのだ。折角の報酬は今しばらく取っておきたいし主殿から貰うお小遣いではあまり食べられぬからのぅ」
いや、あんた食い過ぎだろう。とは言えまぁ許容範囲か。流石に3桁迄は食わないだろうし……大丈夫だよな?
「え、えっと、良いんですか?」
ティアは俺の顔をチラチラと見ながら躊躇いがちに言う。
何かと遠慮がちなティアらしいが折角なので言うように重ねて促す。
「そ、それじゃあ、あの、私、新年を迎えて19歳になりました」
うん? 確かに獣人族は生まれた月に関わりなく年が明けた時点で歳を数えるから確かにティアはこれで19歳にと言うことになる。今は転移の宝玉の影響で判りづらくなってはいるがティアがこちらに来た日数を考えればおそらく時期的に同じくらいになるだろう。
ちなみに数え年なので、年末に生まれたばかりの子供が一月もせずに2歳になるなんて事もあるのだ。
けど、今の話とどう繋がるのだろうか。
「で、ですから、その、ユーヤさんの子供が欲しいです!」
「ブフゥ! ゲフッ、ゴホ」
思いっきりむせた。口に含んでいた緑茶が鼻から出る。
「……兄ぃ汚い」
「うむ。その手があったか」
「ゲホッ、ちょ、ちょっとティア?」
「前にお願いした時に『19歳になってないから駄目だ』って言われました。でもこれで大丈夫なんですよね?…………あの、駄目、ですか?」
大きな猫耳が叱られでもしたかのようにぺたんと畳まれ尻尾も所在無げに身体に巻きついている。
いや確かに以前ティア達と旅していた時に寝所に潜り込んで来たティアにそんな事を言った覚えもあるが。あの時は単に感謝とか忠誠とかそういったものだと思っていたし、見栄とか意地とか格好つけとか色々でやせ我慢してたんだけどな。
それからもティアは俺の事をものすごく慕ってくれていたけどそれが恋愛感情なのかどうなのか判断できるほどの経験が俺にはない。そのまま有耶無耶になってしまってたので意識の隅に追いやってた。
「い、いや、あのな、俺には茜が居るし、そういったことはだなティアが心から好きになった人とだな」
「? 私はアカネさんが居ても全然構いませんよ? 私はアカネさんもレイリアさんもメルスリア様も大好きですし。勿論一番好きなのはユーヤさんです!」
そういえば多くのラノベにあるように
でもここは日本だよ? 複数の女を侍らすとか、それどんなエロゲ?
「兄ぃが鬼畜だ。女の敵?」
「いまさらじゃなぁ。まさかティアの気持ちに気付いておらなんだわけではあるまい?」
そこまでとは思ってなかったよ! つい最近まで童貞だった男の直感なめんな!!
「あの、やっぱり私じゃ駄目なんでしょうか……」
「いや、駄目とかそういうことじゃ……あ~、ちょっと考えさせてくれ」
「逃げた」
「ヘタレじゃの」
オマエら俺を苛めて楽しいか?
ティアの言葉の爆弾を処理できないまま二日。
勿論俺には茜という彼女が居るし、どうすべきかは判りきってはいる。
ただ、そこまで慕ってくれているティアに対して何て言えば納得させられるのか見当もつかないのだ。本来なら相手を傷つけてでも断るべきなのはわかっているのだが、やはり日本では有り得ないほどの濃い日々を共に過ごしたティアやレイリアに嫌われるのは辛い。男の狡さと言われるだろうが紛れもなく本音である。かといってハーレムヒャッハー出来るほど価値観は
そもそも茜を傷つけるつもりは無いのだ。
どうして良いか判らないで悶々としつつ迎えた亜由美と約束したお出かけの日である。
向かう場所はアメリカ流商業主義的無限消費型退廃娯楽施設、別名東京ディ○ニーランドである。
メンバーは当然ながら俺と茜、亜由美、レイリア、ティアの5人だ。
端から見れば女4人に男1人でさぞ羨ましかろうと思うが、個人的にはあの施設に男が行っても微妙なものがある。好きな男性もいるだろうしそれを蔑むつもりは欠片も無いが、俺としては家族に強請られて連れて行くことになったお父さんのような気分である。
車を借りて行く事も考えたが駐車場に駐めるのも一苦労だと聞いていたので大人しく電車を利用する。
学校はまだ冬休み中とはいえ会社などは既に始まっているであろう平日、しかも真冬である。
思ったほど人が多くないのでそれほど並ぶことなく入場する事が出来た。
「それでどう廻る?」
亜由美とガイドを見ながらあれこれ話し合っていた茜が入場するなり切り出す。
「よし。じゃあ男性と女性に別れてまわ……」
「却下! 何1人で逃げようとしてるのよ」
俺の提案を一瞬で茜が切り捨てる。
くそぅ。金だけ渡して適当に隅っこで時間潰してようと思ったのに。
「レイ姉とティー姉が初めてだから茜さんか私のどちらかは一緒に廻った方が良いと思う。でも人数が多いから2組に分かれたほうが廻りやすいかも」
「そうね。でもみんなも裕哉と廻ってみたいだろうし、2時間交替でチェンジしましょうか」
「そうじゃな。我も何をどうして良いか判らぬし、主殿とも廻ってみたいしの」
「私もそうしたいです」
「じゃあ決定ね。順番は……」
一切意見を求められることなく決まっていく。
まんま休日のお父さんそのものだ。
「で、最初は茜、というわけか?」
「そゆこと。でも先ずはちょっと飲み物でも頼んで休憩しようか」
俺を顧みることなく予定が決められ、最初が茜、そしてレイリア、ティア、亜由美の順となったらしい。
ちょっとホッとする。
「廻らなくて良いのか?」
「ん~、嫌いでは無いけど何が何でも廻りたいほど好きってわけじゃないしね。来るのも4回目だし」
俺に気を遣っているのかと茜に聞くもあっけらかんとそう言われた。
俺としては否やもないのでワールド○ザールの先にある屋台のような所で飲み物を買い適当に座る。にしても異様に値段が高い。いつも思うがどうやらアメリカ発の夢の国とやらは拝金主義者の見る夢の事らしいな。
「……疲れてる?」
ホッとひと息ついていると突然茜が聞いてくる。
「そんなこともないけど、そう見えるか?」
「…………」
応じると茜は暫し俺の顔をじっと見てから目を逸らす。
「えっと、ね。亜由美ちゃんから聞いたよ。ティアちゃんの事」
余計な事を。とも思うがどちらにしても茜には言わなきゃならなかっただろうからしょうがない。
「そっか。まぁ茜に隠すつもりもないから良いさ」
「……うん。それで裕哉はどうするのかな」
「どうするも何も、俺は茜と付き合ってるわけだしティアの気持ちに応えるつもりはないさ。ただ、そう言うのとは別に俺にとってティアもレイリアも大切な仲間だし、出来れば嫌われたく無いとも思ってる。勝手かもしれない、ってか間違いなく勝手だけどな。だけどそうするとどう言って断ればいいのか判らない」
茜にしてみればそんなことを言われても困るだろう。本来躊躇する方が間違ってるからな。
「えっとね、その、ティアちゃんとの事なんだけど、出来れば応えてあげて欲しいの」
は? どゆこと?
……もしかして
「えっと、それって茜は俺と別れるってこと、か?」
「ち、違うよ?! そうじゃなくて」
茜が慌てて俺を見て、落ち着くように何度か大きく息を吐く。
「そうじゃなくて、私は裕哉に私のことでレイリアさんやティアちゃんを拒んで欲しくないの」
「…………」
「あの、さ。前に裕哉にくっついて異世界に行ったでしょ? 裕哉がお世話になった国が危ないって聞いたとき」
「あ? ああ」
突然の話題の転換に戸惑いながらも頷く。
「あの後レイリアさんに叱られたの。私の行動がどれだけ危険でそれも私だけじゃなくて裕哉の身や立場をどれほど危うくするかって。私、そんなこと全然考えてなかった」
「でもそれは俺が許可した事だろ? それにメルや国王陛下に預ければ危険は無いって思ってたし」
茜は俺の言葉に首を振ると異世界でレイリアと話したときのことを語り出した。
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Side 茜
帝国との停戦が成立したとは聞いていたけどまだ裕哉はその後始末のために動き回っているようだった。
そんな中私に出来る事なんてあるわけもなく、ただ邪魔にならないように大人しくしていることしかない。
ただメルさんやエリスさんが気を遣って度々時間を作り顔を出してくれる。
その日も午後になりメルさんに誘われて王城内にある庭でお茶を飲みながら話をしていた。
「じゃあもう王都は人が戻ってきているんですね?」
「ええ。元のような活気を取り戻すにはもう少し掛かるでしょうけどね」
私は避難していた王都の人達が戻ってきている様子をメルさんに聞いていた。
「アカネ、ここに居ったか」
そう言いながらレイリアさんが私達に近づいてくる。
「レイリア様。ユーヤさんと一緒では無かったのですか?」
メルスリアさんが目の前の席にレイリアさんを促しながら訪ねる。
いつも思うのだけどメルさんの所作はとても優雅だ。
やっぱり育ちとかなのだろうかとても真似できるとは思えない。
「今は我が居ても対して役に立てぬからのぅ。アカネに話すこともあった故我だけ戻ってきたのじゃ。ティアは主殿と一緒に居る」
「話し、ですか?」
私が聞くとレイリアさんは表情を厳しくして話し出した。
「本来ならもっと早く話したかったのじゃがあの時は事態が切迫して居ったからな。今になってしまったが、アカネ」
「は、はい」
「そなた自分のしたことの意味を解っておるか?」
「意味、ですか?」
私は質問の意図を計りかねて聞き返してしまう。
「主殿に着いてこの世界に来た事じゃ。おそらく主殿は止めたはずじゃ。違うか?」
私は返す言葉無く首を振る。
確かに私は渋る裕哉に無理を言ってついて来てしまった。
「どうも主殿は変なところで鈍くて自覚しておらぬようじゃが、今や主殿はこの世界にとって誰もが知る決して無視することの出来ぬ存在じゃ。良い意味でも悪い意味でもな」
それはそうなのだろう。でも『悪い意味』?
「確かにこの世界で主殿は勇者として多くの者の感謝と尊敬をその身に集めておる。一度は敵として戦った魔族ですら主殿の事を認める者も多い。特にこの国では尚更じゃ。じゃが決して全ての者がそうではない。主殿を利用しようとする者も疎ましく思う者もいるであろう。無論主殿自身は多少の思惑など歯牙にもかけぬほどの強さを持っておる。しかしその力は決して万能などではない」
そこまで言ってレイリアさんは私の目をじっと見つめた。
「この国、アリアナス王国の王族は聡明で信義に篤い。家臣も有能で主殿に対し相応の礼節を持って接しておるのであろう。しかし人の心の深奥を計ることなど誰にも出来ぬ。王やメルスリアが居るとはいえ常に側にいるわけではあるまい。アカネはこの世界では主殿の弱点となりうる。そしてアカネ自身は自らの身を守る術は持っておらぬ。となればいつどのような陰謀に巻き込まれるとも知れぬのじゃ。そなたにその自覚はあるか」
その言葉に私は強い衝撃を受けていた。
考えていなかった。想像もしていなかった。
ただあの時裕哉と離れたくないと、ただそれだけ。
自分の身勝手さに愕然とする。
私の行動が裕哉を危険に晒すかもしれないなんて。
「我が言いたかったのはそれだけじゃ。もし今後主殿が危険に晒されるようなことがあれば我は僅かの躊躇もなく誰であろうと切り捨てる。例え主殿に恨まれることになったとしても、の」
そう言って、ほんの少し優しげな目で私を見つめてからレイリアさんは立ち去った。
私がレイリアさんの言葉を反芻しているとメルさんが苦笑気味に声を掛けてくれた。
「レイリア様も相変わらずですね。普段はとても泰然とされているのですけどユーヤさんが絡むととても手厳しくなるのです。どうか悪く思わないで下さいね」
「い、いえ、私が悪いんです。私、裕哉に迷惑が掛かるなんて思ってもみなかった」
落ち込む私にメルさんは優しく微笑みながら続ける。
「確かにアカネさんの行動は軽率と言えなくもありませんね。でもそれを認めたのはユーヤさんですよね? 多分ですけど、ユーヤさんが本気で拒否すればアカネさんも諦めたのではありませんか?」
メルさんの問いに私は頷く。
着いていきたいと願ったのは本気だったけど、流石に裕哉がどうしても駄目だと言えば諦めるのは当然だ。私だって裕哉に嫌われてまで我が儘を言うつもりは無かった。
「それに先程レイリアさんの言われた事はおそらくユーヤさんも解っていたと思います。この王城内に居ればまず危険はありませんし私達の間にはそれだけの信頼関係はあります。その上アカネさんの影の中にシャドーウルフの『影狼』が常に控えているでしょう? 一度だけほんの少しの間居なくなっていたようですが」
私は驚いてメルさんを見る。
影狼ってあの大っきなワンちゃんだよね? いつの間に? というかメルさんは知ってたの?
「王城内には幻獣を感知する事の出来る仕掛けもありますし、何より私も影狼とは共に居ましたので直ぐに判りましたよ。本来ならユーヤさんも影狼は戦術に組み込みたかった筈です。それなのにアカネさんにつけていたのは万が一不測の事態が起きても対応できるようにするためでしょう。
それともう一つ。アカネさんは何か護符の魔法具をお持ちではないですか?」
メルさんに言われて思い当たった。
裕哉が合宿の時に渡してくれたプレゼントのネックレス。
「これのことですか?」
私が胸元から出して見せるとメルさんは暫しそれをじっと見て、
「そうです。やはりそれには危険が迫ると発動する『障壁』と怪我したときに発動する『治癒』の付与がされていますね。影狼と護符があれば余程の相手でない限りアカネさんに危害を加えることは出来ないでしょうね」
そこまで言ってメルさんは少し悪戯っぽく微笑むと、
「ユーヤさんはアカネさんをとても大切にしているのですね」
そう言った。
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茜が語るのを俺は黙って聞いていた。
もっとも最後の方は小声過ぎてよく聞き取れなかったが。
「…………」
「その時以外にも裕哉がいない間にメルスリアさんやティアちゃんにも色んな話を聞いた。裕哉が凄く大変な思いをしていたことも、みんなで助け合ってきたことも。羨ましくて悔しかったけど、それでも凄く感謝もしてる。きっとみんなが居てくれたから裕哉は変わらないまま帰ってきてくれた。それに比べて私は何も知らず何もしないまま裕哉とこうして恋人になってる」
淡々と、それでもどこか懺悔するかのように語る茜に俺は何も言えなくなる。
俺は脳天気に茜と恋人になれたことを喜んでいたけど、茜はそんな思いを抱えていたのか。
「それに、ね。裕哉は魔力とかレベルとかのアレで寿命が長くなったんでしょ? だったらどちらにしてもいつかは私以外の人とも、その、そうなっちゃうわけで、だったらせめて少しでも私が認めることが出来て、仲良くできる人が良いの」
「いや、そうは言ってもなぁ……それって所謂ハーレムだぞ? 日本だとどう考えても浮気性の最低男だと」
「レイリアさんに聞いたけど異世界だと一人しか娶らないとなれば余程甲斐性がないか、何か欠陥があるか、或いは男色の気でもあるかと思われるって。裕哉はそのどれでも無いよ、ね?」
何故に最後疑問系? ってか、お願いだから何も知らない茜に嘘の常識すり込むのは止めて欲しい。
「勿論、裕哉を想う気持ちは誰にも負けないつもりだよ。でも私はレイリアさんもティアちゃんもメルスリアさんも好きだし尊敬してる。あの人達となら一緒に裕哉を支えていけるって思うの」
そう言った茜はとても真っ直ぐに俺を見つめていた。
我慢しているとか誤魔化しているとかじゃない真情を嫌でも感じずにいられない瞳だった。
「私の言いたいことはそれだけ。さて! それじゃそろそろ廻ろうか」
微妙な空気を払拭するかのように茜は明るく言い放つと立ち上がる。
「すっかり話し込んじゃったし時間も限りあるからサクサク行こう!」
後を追うように立ち上がった俺の手を引きながら茜は歩き出す。
それに付いていきながらもより深くなった悩みに頭を悩ませながらこれからのことに思いを巡らす。
結局俺の悩みは晴れることなく全員と何とか廻ることを終えた。
レイリアもティアもあの話題に触れることはなかったが早めに結論は出さなければならないだろうと思う。
ただ亜由美は勿論2人も楽しんでくれたらしいのが唯一の救いか。
尤も所謂絶叫系のアトラクションは不評だったが。
そりゃまあ命の危険も全くないし、スリルで言えば黒龍形態のレイリアの背に乗ってたほうが遥かに上なので当然と言えば当然だな。
それでも賑やかなパレードや可愛らしい施設、趣向を凝らしたアトラクションなどは目を輝かせてみていたのできた甲斐があったのだろう。
遊んだ後にまた電車で帰るのも少々億劫ではあるがこればかりはしょうがない。
レイリアなどは転移魔法で帰ろうとしたのだが流石に止めた。
こっちの世界で暮らすなら多少の不便は甘受して貰わなければ困るからな。
一時間以上掛けてようやく自宅に到着する。
当然だが先に茜は自宅まで全員で送ってきた。
「あれ? 母さん今日は準夜じゃなかったか?」
「そのはず、だけど……」
俺の疑問に答える亜由美。
となると家の電気が付いているのは何でだ?
消し忘れか? 母さんらしくもないが。
念のため家の中の気配を探る。
……人の気配があるな……
母さんの気配じゃない。となると、不審者だな。
レイリアとティアに目配せをしてから玄関に鍵を差し込み開ける。
そして一気にドアを開いた。
「Hahahaha! 久しぶりだなMY SON!!」
そこにはヒゲもじゃで浅黒い変な男が仁王立ちしていた。
俺は黙ってドアを閉める。
なんか居た~~~!!
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