第58話 勇者とコ○ケと黄金のマスク Ⅱ
慌ただしく準備を進めてとうとうイベント当日。
斎藤はレンタカーで荷物を運び俺はレイリア、ティア、亜由美を連れて茜と奈々ちゃんと合流して電車で会場へ。
丁度斎藤も到着したので直ぐ様ブースの設営を開始する。
参加するサークルのメンバーとも既に顔馴染みだ。
1時間もしないうちに設営はほぼ終了し、最後に今回の目玉を設置して完了となる。
「さて、それじゃあお披露目するね」
斎藤がそう言って最後の段ボールを開け中に入っていたアルミケースを取り出して作業台に置く。そしてケースから中身を取り出した。
出て来たのは純金とプラチナを使って作られた仮面ラ◯ダーのマスク。
本来緑色の部分は純金、仮面の下半分口と鼻の部分がプラチナでできている。
土台に銅板を使いその表面に厚さ0.5ミリ程度に薄く金とプラチナを貼り付けてある。目の赤い部分は貴石のガーネットを錬成してガラスのように成型して取り付け、目と目の間にあるOランプと言うポッチは同じくガーネット、目の下にある涙ラインにオニキスを使った。練成魔法使いまくりである。
斎藤の描いた図面を元に俺が魔法で練成して作ったものだが、改めて見ると無駄にゴージャスのような気がする。
何せ純金が300g、プラチナが150g使われ、内張りは斎藤が担当して重量1,5kgもちろん冠る事もできる。
当初全て純金とプラチナで作るつもりだったのだが原価だけで2000万超えそうになったので断念した。ってかそんなに仕入れる金は無い。手持ちの素材使えば作れるが税務署に説明できねーよ……
最初、サークル5周年の記念に特別なものを商品として出したいと言う斎藤の言葉を聞いて半ば冗談で提案したものだ。
特撮で金色ならマ◯マ大使だろうって?
まぁその通りではあるんだが、やはり特撮の王道はウル◯ラマンか仮面◯イダーだろうという事でこうなった。
「話は聞いてたけど実物見ると凄いな、コレ」
サークルメンバーの大森さんがちょっとニヤつきながらマスクを見る。
「売値幾らにするんだ? というか売れるのか?」
同じくサークルメンバーで最古参の市川さんがもっともな質問をする。
俺も作ったはいいが売れるとは思っていなかったんだけど、
「既に5人から買い取りの申し出はあるんだよね。ちなみに売値は250万円税込み」
斎藤の言葉にメンバーから驚きの声があがる。
そうらしい。俺としては中途半端で商品としてどうなの? って思ったし斎藤も本当に売れるのは予想外だったらしい。
売れなくても素材に戻して俺がアクセに使えばいいから気軽に作ったんだよな。
ところがHPで公開した途端に買いたいと言う申し出があったので斎藤と2人で驚いたのだ。いや、だって250万だよ? しかも正規メーカーじゃなくて正式に許可をもらっているとはいえ所詮はサークルの販売品。もちろん素材になった金とプラチナの仕入れた時の品質保証書と完成してから斎藤のツテで業者に鑑定してもらった証明書は付けるがそれだけだ。
正直資産価値としても微妙だしこんなの買ってどうすんだと思う。
あくまで5周年記念の派手なパフォーマンスのつもりが引くに引けなくなり挙句に脅迫状までもらう羽目になった。
「ま、客寄せにはなるだろうし人数もいるから大丈夫だろう。最近は会場の警備も増えてるしな」
大森さんが笑って言うが、この人実は現役の警察官らしい。
子供の頃から正義の味方に憧れて警察官になったものの趣味が高じすぎて交番勤務から抜けられないらしい。昇進試験も断り続けてるとか。
趣味はフィギュア作りで独身。サークルでも固定ファンがいるほどの作品を作っているそうだ。
商品の陳列とお披露目も終わり、女性陣が更衣室で着替えて戻って来た。
レイリア以外はウルト◯マンの科学特別捜査隊女性隊員のコスチュームである。しかもそれぞれ微妙にデザインが異なっており、見る人が見るとシリーズのどの作品なのかわかるらしい。
なぜか全員ミニスカートで生足にロングブーツ。コスプレっぽい格好に恥ずかしがる姿が可愛らしい。
「あ、あの! 斎藤くん、ど、どうかな? 変じゃない?」
俺が茜とティアの格好を見てニヤついていると奈々ちゃんが斎藤の側に行って顔を赤くしながら尋ねている。
「あ、えっと、とっても似合ってて可愛いと思う、よ」
斎藤もつられるように赤くなって答えていた。
「……なぁ、奈々ちゃんってひょっとして斎藤を?」
「なんかそうみたい。私もついこの間聞いたんだけど」
俺の疑問に茜が答える。
だからこんな色物イベントに手伝いに来てくれたのか。
意外な組み合わせだが、まぁ斎藤も奈々ちゃんも良い友人だし応援しておくことにしよう。けど斎藤よ、コスプレが似合ってるとかって女の子を褒める台詞としてどうなんだ?
「主殿、何故我だけこのような服なのじゃ? できれば我も皆と同じ可愛らしいのが良いんじゃが」
レイリアが俺を恨めしげに睨みながらぼやく。
レイリアの服装は仮面の忍者◯影のコスチュームだ。
なんでかって? レイリアの身長は一般的な女性としてはかなり大きい170センチ半ばで、しかも外人モデル並みに腰の位置も高いし胸も、なんだ、ホレ、ぼよんでアレなので皆んなと同じ服を着ると途轍もなくエロいんだよ!
当然サイズも合わずスカートはマイクロミニになるし胸元ははちきれそうになる上にヘソまで見えてしまう。なので他の衣装で似合いそうなのがそれしかなかったのだ。
「サイズが無いんだからしょうがないだろ? それより手伝いと警護の方は頼むぞ」
「むぅ、主殿の態度がおざなりじゃ」
「レ、レイリアさんも格好いいですよ!」
「あ、あははは」
ティアがレイリアを慰め茜は苦笑いだ。
今回女性陣には接客を担当してもらう。男性陣は商品の品出しとお客さんの整理、それにトラブル対応が担当だ。
レイリアとティアはそれらの手伝いをしながらライダーマスクの警備をしてもらう。泥棒だろうが強盗だろうがテロリストだろうがこの2人がいれば大丈夫だろう。
……やりすぎが心配だが……
「そ、そろそろ時間だから柏木くんと田中さんも着替えをお願い。そのあとはいつものように」
奈々ちゃんとむず痒い空気を作っていた斎藤が我に返ったように言ったのを合図に俺もすかさず更衣室に向かった。俗に逃げたとも言う。
着替えを済ませた俺と田中さん(この人も古参の人でいつもコスプレ要員を務めてくれている30歳位の男性だ。とても饒舌な明るい人なのだが被り物をすると何故か全く喋らなくなる。コスプレ自体は好きらしいのだが自分の声が合わないのが許せないらしい)はコスプレ会場になっている屋外広場に出る。
今回のコスチュームは目玉商品にちなんで俺が仮面◯イダー1号、田中さんはショ◯カーの戦闘員である。
会場には既に多くのコスプレイヤーが居て、各々衣装を披露しあっていた。一般の入場者が入るまでにはまだ少し時間があるのでイベントに参加するサークル関係者と先行入場のコスプレイヤー達だけだ。
「あ、『特撮工房』さん。こんにちわ〜!」
「ども」
サークルのPOPを持っているのであちこちから挨拶されるが誰が誰やらさっぱりわからん。あ、特撮工房ってのが斎藤のサークル名ね。
多分何度も会ったことがある人も多いのだろうが何せ皆んなコスプレしてて素顔を知らないし、いつもコスプレ内容が違うので覚えられない。
会場を見渡してみるがゲームやアニメのキャラクターに扮する人が大多数。比率は女性が多いように思う。
クオリティーも本物と見紛うばかりの物から仮装にしか見えないものまで様々だ。中にはウケ狙いなのか見るからに段ボールに色を塗ったアホっぽい奴もいる。
見ているだけでも楽しいが、女性達はかなり際どい衣装も多くて非常に楽し、じゃなくて目のやり場に困る。
俺と田中さんは今回もいつもと同じく会場を適当にうろつきながらスペースを見つけてちょっとしたパフォーマンスをしつつブースの宣伝活動をする予定となっている。
そうしてしばらく色々な人と挨拶を交わしながら歩き回っていると会場入口付近が騒がしくなってきた。開場の時間が来たらしい。
そして数秒後、一気に大勢の人が会場に雪崩込んできた。
大部分の人は建屋内のブースの方面に行くが一部はこのコスプレ会場に来る。それぞれ手には高価そうなカメラを携えてコスプレイヤー達の姿を撮影し始める。
もう少しすれば先行入場できなかったコスプレイヤーも合流しさらに賑やかになって来るだろう。
俺と田中さんがコスプレ会場をPOPと手持ち看板を持ちながら歩き回りつつ時折変身ポーズやらのパフォーマンスをしていると少し離れた場所で騒ついているのに気がついた。
元々会場は人が多くて賑やかなのだが一画だけ不穏な感じに騒然としている。
「ちょっと触ったぐらいで引っ叩くことないだろうが!」
「ちょ、ちょっとじゃ、無い。す、スカートまでめくり上げたじゃないか」
ヒョイと覗き込んで見ると中々扇情的なコスプレをした女の子とその直ぐそばにしかめ面をして怒鳴り散らす男、そしてその男を非難している数人のカメラを持ったちょっとオタクっぽい印象の男がいる。
怒鳴っている男の頬が少し赤くなっているところと先ほどのセリフ、今の状況を見るにどうやら女の子を撮影していた中の1人が女の子に痴漢紛いの事をしてとっさに女の子が引っ叩いたらしい。
それで逆上した男に女の子を擁護しようと数人のオタク達が食ってかかっているようだ。
「チッ! んな格好してちょっとくらい触ったからって騒いでんじゃねぇよ! 少しくらいサービスしろや!」
馬鹿がいるよ。
確かにちょっと目のやり場に困るくらい扇情的なコスプレしてる女の子もいるがそれはゲームやアニメのキャラクターを忠実に演じようとしているからこそだ。見る側もそれをわかって暗黙のルールに従って撮影している。オタク達はそういったルールには厳格だ。
もっとも、触れなければいいのでものすごいローアングルで撮影している変態達も多いが、そこはそれルールは守っているので非難はされない。
見ているうちにどんどん険悪さが増して来ている。
双方引く気配はなく、女の子もどうしていいかオロオロしているような状況だった。
あ〜、そろそろ警備員が来そうな感じだな。
そんな事を考えていたら田中さんが俺に耳打ちして来た。
「……そうっすね。やりますか」
その内容に同意した俺と田中さんはその場を一旦離れる。
「待てぇ! ショ○カー!!」
「イー!!」
俺に追いかけられている形で田中さん扮するショッカー戦闘員が先ほどの集団の中に飛び込む。
突然の事態に周囲の人たちは慌てて道を開けた。
「な、なんだ?!」
さっき怒鳴っていた男が唖然としているうちに田中さんは男の腕を背後に掴み上げて更に首に腕を回した立ったまま拘束する。
「ウガァ! な、なにを」
男はもがくも動けない。
実は田中さん本業はアクションのスタントマンでガチで特撮物の戦闘員やら映画やドラマのチンピラ役をやったりしているらしい。仕事で出演しているうちに特撮にハマったそうだ。
「おのれシ○ッカー! 人質を取るとは卑怯だぞ!」
「イー! イー!」
ライ◯ーコスプレの俺が大袈裟にポーズを取りながら田中さんを指差す。いかにもイベントのパフォーマンスといった行動だ。
俺もちょっと楽しくなって来た。
「フン! だがその男は先ほど痴漢行為を働いていた変態だろう! 女性や子供を人質にしたのならばともかく、そんな男を人質にしてどうする!」
「イ、イー?」
田中さんが戸惑った仕草をする。
表情も台詞もないのにこの表現力。流石にプロだ。
「さあ、どうする。変態諸共倒すか?」
俺が無駄にポーズをキメながら迫る。
「倒せぇ!」
男に食ってかかっていたオタク男子が乗って来て叫ぶ。
「た・お・せ! た・お・せ!!」
ギャラリーも事態は飲み込めないままにノって囃立てる。
「よし! 行くぞ!! ラ◯ダー…」
「う、うわぁぁ!」
俺がこれ見よがしに力を溜めて飛び上がろうとした途端に男は必死に田中さんを振りほどいて走って逃げていった。
振りほどかれた田中さんがヤレヤレという仕草をするとギャラリーに笑いが広がった。
「ありがとう。また助けられちゃったね。特撮工房さん!」
「ん? また?」
「あ、わかんない? エリカだよ〜!」
知り合いでした。
さっきも言ったがこういったコスプレ会場では露出の多い女の子がいるせいか時折トラブルが発生する。
エリカさんも以前タチの悪い連中に粘着されていた所を助けたことがあったのだ。
もっとも今回もその時もウィッグにバッチリメイクで素顔はまったくわからないし、俺も被り物をしているので顔は知られていない。
確か前の時はレッドキングの着ぐるみだったっけ。
ロクに動けないので苦労した覚えがある。
体感的には5年程前になるが特殊なイベントでの出来事だったせいかよく覚えている。
エリカさんの格好はかなりハイレグのレオタードのような物に防御力の欠片も無さそうな鎧、胸元が大きく開いて谷間がバッチリ。手には大きな剣を持っている。何かのゲームの衣装か?
実にけしから美味しそうな姿だ。思わず視線が胸元に惹きつけられるがラ◯ダーマスクでバレていない、はずだ、と思う。
というか暮れも押し迫ったこの季節に寒くないのだろうか。
「大丈夫ですか?」
「うん! みんなが助けてくれたし」
誤魔化すように声をかけるとエリカさんが微笑みながら返してくれた。
騒ぎが収まり集まっていたギャラリー達も元の撮影に戻っていったようだ。最初にエリカさんを擁護していた男達はエリカさんに礼を言われてキョドりながら顔を赤くしている。
もう大丈夫だろう。俺たちはサークル宣伝に戻ることにする。
時刻もそろそろ昼になる。
少し休憩してまた午後も宣伝活動。そして3時にはいよいよあのマスクの販売を行う予定となっている。
無事に終わればいいが……
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