第43話 勇者の再訪問Ⅹ

 俺とティアは王都の街門を抜け王城に向かって歩いている。

 レオン殿下をフリステルを包囲している連合軍まで転移で送った後、打ち合わせたとおり先ず騎士を2名王都まで転移させた。

 ん? 一緒に転移しなかったのかって?

 俺の転移魔法は自分以外に2人、自分を含めて3人までしか転移できないのよ。

 レイリアだったら10人くらい一度に転移できるんだけどな。

 それでも通常は一人しか転移させられないらしいから十分なんだけど。

 んで、その騎士達が先触れとして王城に向かい、俺が殿下から合意文書の原本と報告書を託されティアと一緒に後から来たわけ。

 

 外部から王都の中に直接転移することは結界の効果で出来ないが王都内の転移は出来るので街門を抜けて直ぐに王城前まで転移することも出来る。が、俺は敢えて歩いて王城まで向かっていた。

 ちょっと精神状態がまだ戦場モードから戻りきってないので少し落ち着きたいからだ。

 ただ、この国で俺の顔は結構知られているのでフード付きのローブを纏っている。

 先触れで状況は報告されてるから少しぐらい遅れても構うまいて。

 

 のんびりと歩きながら街の様子を見る。

 避難した住民達がまだ戻っていないのだろう。以前見た活気は無いが街を歩く人達の顔に悲壮感は無い。多分、平原での連合軍勝利を既に知っているのだろう。少ないながらも露店が出て呼び込みの声も威勢が良い。

 隣を歩くティアを横目で見ると嬉しそうにニコニコ笑っている。

「随分嬉しそうだな。ティア」

 俺がそう言うとティアは更に笑顔を輝かせて、

「はい! だって、守れたんですよ! 私達が!」

 そう言った。

 そうか、そうだよな。

 もしかしたら殿下達だけでも勝つことは出来たかも知れないけど、あの戦いで俺達が果たした役割は小さくなかったと考えるのは己惚れじゃないと思う。

 けど、やっぱり慣れないよな。

 味方が死ぬのも、敵を殺すのも……

 

 

 王都に入ってから小一時間ほど歩き王城に到着する。

 こちらの姿を確認した衛兵が短槍を構えて誰何してくる。

 あ、ローブのフードしたままなの忘れてたよ。

 フードを取り顔を見せると衛兵は慌てて敬礼をして謝罪してくるが、どう考えても謝るのこっちだよね。ゴメンね。

 国王陛下に報告に来た旨を伝えると、直ぐに城内に案内するよう既に指示がされていたらしく迎えの侍女……エリスさんかよ……が出迎えてくれた。

「ユーヤ様、この度はアリアナスを救って下さりありがとうございました。お礼としまして先ずは私の身体をご賞味下さればと存じます」

 相変わらずのピクリとも動かないアルカイックスマイルでそんなことを曰う。

 ここで『うん』と言ってみたい気もするが色々と怖いので流すとしよう。

 大体、今俺の後ろにはティアがいるのに迂闊な事言えんし。

「い、いや、取り敢えず陛下に報告をしないとマズいので」

「そうですか。ではそれは後ほどということで。それではご案内いたします」

 後ほどではなく全力でスルーしたいんですが。

 

 俺の内心にはお構い無く、エリスさんが先導し謁見の間へ通される。

 扉の前にいた騎士が俺の顔を見るなりビシッと敬礼し、満面の笑顔で到着を告げ、扉を開く。

 数日前にも入った謁見の間だが雰囲気は全く異なるものだ。

 その場にいる面子も位置も変わりないがその表情は一様に明るく、以前にあった焦燥感など微塵も見られない。

 尤も内務卿殿だけは憮然とした表情を隠さないがそれでもその雰囲気に以前見られた切羽詰まったものは無い。ってか、あれ絶対表情作ってるだけだな。

 ちなみにこの場に茜の姿は無い。

 まぁ、アイツの立場はあくまで俺の客人というものだからしょうがないか。

 メルの表情を見ても問題無さそうな感じだし。

 

 俺とティアはアリウス陛下の前に片膝を着き頭を垂れる。あ、ティアは両膝ね。

「以前にも言ったように礼は不要だ。この度のそなたの働きは見事としか言えぬな。先触れよりレオンの書状はそなたが持ってくるということであったが、間違いないか」

 俺は頷きながらアイテムボックスから殿下から預かった帝国との協定の合意書と陛下宛の書状を取り出し、受け取るために進み出た宰相閣下に手渡す。

 受け取った宰相閣下はそれをそのまま陛下に手渡す。

 受け取った陛下は先ず合意書に目を通し満足そうに頷いてそれを宰相閣下に渡す。

 閣下は恭しくそれを掲げて自らの定位置に戻り合意書の内容に目を通す。その宰相閣下の持つ書状を他の重臣達が前後左右から覗き込んでいた。まるで休憩時間にエロ本を広げた奴の周りに集っている男子高の生徒みたいな光景だ。うん、威厳の欠片も無いね。

 その間に陛下はレオン殿下の書状に目を通していたが、

「ふむ、レオンから帝国内で事務処理と折衝を行う文官を派遣するよう要請があった。それとフリステルの復興と治安維持の人員だな。直ちに手配するように」

 ただ一人宰相閣下に群がっていなかったベルリアス内務卿に指示を出す。

 おっさんは厳粛な表情を崩さず一礼すると、直ぐに取りかかるためだろうその場を離れ謁見の間を退出する。

 その際に態々俺の脇を通り「ご苦労だった。感謝する」と、俺にしか聞こえないような声でボソッと言い、返事を聞くこともなく立ち去った。

 ……ツンデレなのか?

 

「さて、この度のそなたの働きはレオンからの書状にも功績大であったと書かれていた。重ねて礼を言う。何より、そなたが自らの意志でこの国を救ってくれたことは大きい。復興に励む国民に対する何よりの支えとなろう」

「力になれたこと嬉しく思います。私は私の大切な友人達の窮状を見過ごせなかっただけですので礼ならティアとレイリアにしていただければそれで十分です」

 実際、今回の事は自己満足に過ぎないしな。

「そう言うわけにもいかん。信賞必罰は国の依って立つところだからな。そなたの功績で報賞無しなど考えられん。とはいえ、そなたは異世界の者だからな、ふむ、よし! メルスリアをやろう! 胸は少々物足らんかもしれんがその代わり尻はなかなかの、ブピョ!」

 陛下のロクでもない提案は左側にいた王妃陛下の人中への裏拳と右側にいたメルの延髄への肘撃により強制中断される。

 一撃で意識を刈り取られた陛下はすかさず背後に移動したエリスさんが玉座まで移動させた。

 ……エリスさん国王陛下の襟首持って引き摺ってったけど、いいのか? あれ……

 

「陛下は心労から解放されて冷静さを欠いているようですので、ユーヤ殿に対する報賞は改めて考えましょう。それよりも、先ずは貴方の帰りを待っている方のところに無事な姿を見せるのが良いでしょう。積もる話は晩餐の時にでもゆっくりとするとして、今は少しゆっくりとしていて下さい」

 王妃様がそう言って優しげに微笑む。

 思わず見惚れたくなるほど慈愛に満ちたお顔ですが、先程の神速の裏拳を見た後だと怖いです。

 メルは少し恥ずかしそうに赤くなってるが、貴方も同類ですよ?

「ありがとうございます。流石に私も少し疲れがありますのでこれで失礼致します」

「アカネさんにはユーヤさんが戻ってきたことは伝えてあります。やはりこの場に同席させるわけにはいかなかったので別室で待っていただいていますから、行ってあげて下さい。あ、ティアは残って話を聞かせてくださいね」

 メルの言葉に俺とティアは頷いて立ち上がった。

 いつの間にやら整列し直していた重鎮達も機嫌良く頷いている。が、誰も国王陛下の様子を気にする素振りがないのが気になる。いいのか?

 俺は一礼して謁見の間を後にする。

 扉を出た途端、何故か前にエリスさんがいた。

 俺が歩き出す直前までメルの斜め後ろにいた筈なんだが、この人一体どんな特殊能力もってんだ?

 

 

 突っ込む気にもなれずに温和しくエリスさんの案内で茜が居る部屋まで案内される。

 扉を開けて中に入ると、メルが用意したのか来たときとは異なるワンピース姿の茜が立っていた。

「裕哉! えっと、あの、お帰りなさい」

 茜が俺の顔を見て笑みを浮かべ、そう言ってくる。言いよどんだのはなんて声を掛けて良いか判らなかったからかね。

「ああ。ただいま」

 そう答えた俺は笑えているんだろうか。

 それでも澱のように溜まった重いものが溶けていくようなそんな気がする。

 ヤバい。なんか気持ちが高ぶってくる。

「裕哉? どうし……」

 茜に歩み寄ると思わず強く抱きしめていた。

 腕に伝わる茜の感触と温もり、そして甘い香りを感じながら何も言わずに抱き続ける。

 茜はそれ以上言葉を発することなく俺の背中に手を回してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、俺は王都の街を歩いていた。

 王城を出て真っ直ぐ行き中央広場を右に曲がる。

 暫く進むと正面に神殿が見えてくる。

 この世界の主神である女神ヴァリエニスの神殿だ。

 神殿に入ると正面に女神像が鎮座しており、内部は清浄で荘厳な雰囲気に包まれている。

 神官らしき男性が俺に気づき近寄って来た。

「これは勇者様。何か御用がございましたか」

 男性は親しげな笑みを浮かべながら声を掛けてくる。

「いや、女神に祈りを、と思ってね」

 俺の答えに男性は一層笑みを濃くして頷く。

 そして邪魔にならないようにだろう一礼した後に下がっていった。

 因みに今の俺の恰好は鎧は着けていないが腰には剣帯そして長剣を下げている。

 普通なら帯剣して神殿内に入ることは出来ない筈だが俺が勇者であるせいだろう、特に咎められることはなかった。

 

 女神像の前に形だけ膝を付きヴァリエニスに呼びかける。

 次の瞬間、俺は別の空間にいた。

 白で埋め尽くされたかのような広い空間。

 そこに完璧な容姿を持つ女性が立っている。

 女神ヴァリエニス。

 俺をこの世界に連れてきた張本人だ。

 そう、俺はコイツに会うために神殿に来たのだ。

 普通なら神殿に来たからって女神に会うことなんざ簡単には出来ないが、俺の場合は邪神と戦うために神域に入ることが出来るようになっている。

 といっても今回は向こうから招き入れてくれたみたいだが。

 

「あら~~、誰かと思ったら~~、良く来たわね~~」

「久しぶりって程でもないが、聞きたいことがあってな」

 相変わらずの間延びした声に神経を逆なでされたような気がする。

 ってか、間違いなく俺がこの世界に戻って来たのは知ってるはずだろう。

「何かしら~~~。貴方の頼みなら~~、ある程度は叶えるわよ~~~」

「……んじゃ、まずはそのわざとらしくて苛つく口調を何とかしてくれ」

 初っぱなから一発かましておく。

 コイツに付き合ってると話が進まないからな。

 女神に対する態度としては不遜に過ぎるだろうが、それだけの理由がある。

 

 俺がそう言った途端にヴァリエニスの表情からわざとらしい笑みが消える。

 といっても別に怒ったわけではない。多分だけど、これがヴァリエニスの本来の表情なのだろう。

 造形は美しいが、人間の無表情とは明らかに違う無機質にも見える表情。

「さて、私からも話したいことがありますが、まずは貴方の問いに答えましょう」

 そう言ってヴァリエニスは俺に視線を向ける。

 しかしその目には何の感情も浮かんではいない。

 まるで路傍の石でも見るかのようだ。

 実際女神の感覚としては似たようなものなのだろう。

 俺がこの女神に会ったのはほんの数回に過ぎないがそれでも分かったことがある。ヴァリエニスは人間、いや、この世界に生きるすべての存在に何ら特別な感情を持っていない。

 教会ではヴァリエニスはこの世界のすべてのものに等しく愛を注いでいると教えているが、それは裏を返せば全てに無関心である事と代わらない。等しい価値とは無価値でもあるのだから。

 俺を召喚して世界を救わせたのも人を救いたいからでは無い。多分、救いたかったのは別の存在。

 

 俺は意識を切り替えて女神に質問をぶつける事にする。

「俺が元の世界に戻ってからも魔法が使えるのは何故だ?」

 元の世界に戻ってから感じた最初の疑問。

「魔法に限らず貴方がこの世界で身に着けた力は私が与えたものではなく貴方自身が積み上げたもの。それを奪うことは出来ません。それに貴方の居た世界で魔法があまり使われていないのは魔法の技術が失伝しているからに過ぎません」

 ってことは、よくラノベなんかで書かれるような『魔素が無い』なんて事は無いのか。それに『あまり使われていない』? 使ってる奴もいるのか?

 とはいえ、この答はある程度予想済みだった。

「なら『収納』と『鑑定』、『言語理解』はどうなんだ? これはアンタに貰った魔法だろう」

 俺は召喚された時に特にチートは貰っていない。自分で鍛え、学び、身につけたものだ。だが今言った3つは召喚された際にヴァリエニスに与えられたものだ。まぁある意味チートかもしれんが。

「それらはこの世界でも持っている者が存在するスキルであり、後天的に身につけることの出来るものです。今の貴方の力ならば得ることが出来るでしょう。ですから敢えてそれを取り上げる意味がありません」

 確かに『収納』俺はアイテムボックスって呼んでいるが、それを使える奴はそれなりにいるが容量はまるで違うんだがな。俺のは時間も停止するし容量もほぼ無制限だし。

 まぁ、それは良いか。

 

「んじゃ、次の質問だ。……俺の元の世界で召喚魔法が使えるのは何故だ? レイリアにも訊いたがアレは世界を渡るほどの力を持たないはずだそうだな? しかも消費魔力もこっちの世界で使用したときと変わらないってのは有り得ないだろ? ……アンタは俺に何をやらせるつもりだ?」

 これが俺の今回の目的の核心だ。

 レイリアも言っていたが世界を渡るってのは膨大な力を必要とするらしい。普通の魔法使いが何百人集まろうが出来る事じゃないとも。事実俺を召喚したのは儀式自体はメルスリアが行ったが力を使ったのはこの女神だ。

 確かにこの力のお陰で王国の危機を知ることが出来、救援も間に合った。そのこと自体は感謝しても良いとは思っている。しかしこれ以上この女神に振り回されるのは御免被る。

 俺は剣の柄に手を添えながら返答を待つ。

 

「そう言えば、ルエナビリオ討伐の礼をしていませんでしたね」

 唐突にヴァリエニスは話題を変える。

「は?!」

 意表を突かれて呆ける俺に構わず、ヴァリエニスがその手に二つの半透明な白い宝玉を顕現させる。それは宙に浮き俺の前まで漂ってきた。

「……これは?」

「それは『転移の宝玉』です。二つの宝玉の間を界を超えて繋ぐことが出来ます。一方の宝玉に手を触れながら願えばもう一方の宝玉の所へ転移することが出来ます。そしてその時に時間軸が固定され転移元へ戻っても同じ時間位置に戻ることが出来ます」

 つまり転移先でどれほど時間が経過しても元の場所に戻ったときは時間が進んでいないってことか?

 俺が元の世界に帰還したときと同じ状態か。

 ってか、それって二つの世界を行き来してたら俺だけ歳取るってことじゃね?

 

「……一体俺に何をさせようってんだ?」

 先の質問と併せて俺にこの世界でまだ何かやらせる気だろう。

「私が望むのは、貴方にこの世界で血筋を残して欲しいというだけです」

「はい?」

 いきなり何言ってんだ? このクソ女神は。

「どゆこと?」

 いかん、素に戻った。

「貴方の功績によりルエナビリオは討伐されました。しかしルエナビリオが邪神となったのはこの世界の澱みを受け止めたため。いずれルエナビリオは神としての力を取り戻しますがこのままでは同じ事の繰り返しです。しかしこの世界の者では澱みを消すことは出来ません」

 それが俺がこの世界に召喚された理由だ。

 ルエナビリオは元々この世界の全ての人種に深い愛を注いだ慈悲深い神だったらしい。目の前のクソ女神とは大違いだ。

 だが、その為に人種が生み出す悪意などの負のエネルギーを一身に引き受け徐々にその身に瘴気が溜まっていった。そして生まれたのが邪神としてのルエナビリオだ。

 邪神となったルエナビリオは瘴気を撒き散らし、人種に悪意をばらまく存在となってしまったが、元は人から生まれた瘴気だ。この世界の者ではそれを消し去ることが出来ない。瘴気も含め全ての存在はこの世界の理から外れることができないかららしい。

 

 詳しいことは良く理解できないが、兎に角そんなわけでこの世界の理から外れた存在、つまり異世界の人間が必要だったらしい。因みに邪神と戦ったときの武器も刀身にこの世界の外の物質、俺の持っていた鍵やベルトのバックルなんかを溶かして混ぜ込んであるし、作るのも俺が手ずから作らなきゃならなかったので一時期鍛冶師に弟子入りする羽目になった。

「つまりその澱みを小さい内に消すために外の血筋が必要だと?」

「そうです。貴方にはこの世界で子を成し血筋を残していただきたいのです。ただ、貴方が再びこの世界に来たいと思うかどうかは判らなかったのであのような措置をしました」

 召喚魔法が向こうでも使えた理由はそれか。

 どうやら俺は無意識にこの女神の奸計に乗ってしまったらしい。

「今回の帝国の侵攻はアンタの仕業か?」

 俺は剣をいつでも抜けるよう構えながら重ねて訪ねる。

 おそらくそんな回りくどい事はしないだろうとは思うがこれだけは聞いとかなきゃならない。

「違います。アレはあくまで人の為したこと。私は関与していません。そのような事をしないでも長い寿命を得てしまった貴方はいずれ選択することになったでしょう」

「ちょ、ちょっと待て! 長い寿命って何だ?!」

 突然聞き捨てならないこと言い出しやがったぞ、このクソ女神。

 

「? 高い魔力を持つ者が長寿であることは貴方も知っているのではありませんか? まして貴方はルエナビリオと戦いその身に神気を受けています。人の寿命を正確に知ることは私にも出来ませんが、おそらく同程度の魔力を持つ者の倍は生きられるはずです」

「マジっすか……」

 何てこった。正真正銘の人外じゃねーか。

 確かにこっちの世界では高位の魔法使いが何百年も生きてるって話は聞いてるが、あっちの世界でも適用されるのかよ。

 そういえば昔のヨーロッパでサンジェルマン伯爵ってのがいたな。

「無論強制できるものではありませんが、私の願いとしては確実に血筋を繋ぐために少なくとも20人、出来れば100人ほどの子を成して下さい」

 無茶言うな! 20年+3年の童貞自己記録絶賛更新中の青年にそんな甲斐性あるわけ無いだろうが!!

 子を成すどころか子作りの行動すら出来てねぇよ! 寧ろそこまで言うなら相手をそっちで用意してくれ! 贅沢は言いません。18歳~30歳位までの美人さんでお願いします。

 

 一気に精神的疲労が蓄積した俺はそれ以上訪ねる気にもならずこの場を後にすることにした。

 ずっと目の前に浮かんでいた二つの宝玉も受け取ることにする。

 女神の望みはどうあれ、向こうでの生活も大事だしこっちの世界もしばらくは見ておきたい。

 ……決してこっちに現地妻を作りたいとか思ってはいないよ? うん。

 寿命のこともあるしな。

「んじゃ、そろそろ戻るわ。……ルエナビリオにもよろしく言っておいてくれや」

 一言だけ意趣返しをしておく。

 このクソ女神が救いたかったのは多分、いや、間違いなく邪神となったルエナビリオだろう。

 そして人間である俺にルエナビリオを倒すことは出来ない筈だ。精々纏っていた瘴気を全て失い力の一部を一時的に枯渇させたってのが実情じゃないかと思っている。

 俺がどれほど修行しようが人間の身で神に勝てるわきゃねーじゃん。結局俺もこの世界の人類も神の掌で転がされたに過ぎないんじゃないかね。

 

「貴方の生に幸多からんことを」

 俺の嫌みにも表情を動かすことなくヴァリエニスが言い終えた途端、周囲の光景は元の神殿に戻っていた。

 さて、それじゃ、まずは王城内に転移のための部屋でも用意して貰って、一旦帰るかね。

 そんで向こうで宝玉使えばそれ以上時間が経過するのを避けられるだろう。

 もう休みもほとんど残ってないからな。

 そんなふうにこれからの予定を考えながら俺は神殿を出て歩き出した。

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