第33話 勇者の再訪問Ⅰ
ドルルルルッヒュオン! カチャン
売人の黒幕達へのOSIOKIを終えた俺は自宅までバイクで戻ってきた。
部屋で待っているであろう茜の所に早めに戻った方が良いのは確かだし、ただでさえ連中の尋問に時間を取られたので『転移』を使うことも考えたのだが、茜に説明するにも少し考えを纏めたいと思ってわざわざ多少時間のかかるバイクでの帰宅と相成ったわけである。
もっとも元々それほど遠い距離でもないので手間の割にはたいした意味はなかったけどな。決して遅くなって諦めて帰ってくれないかなぁなどと考えたわけでは無い。と思う。
けど、半端なく気が重い。
実にノロノロと玄関を開け、靴を脱ぎ、階段を上がる。
そう言えば昔牛歩戦術とかってあったよな。なんの解決にもならない無意味な奴。
とはいえ一軒家ではあっても豪邸にはほど遠い我が家である。
時間稼ぎするのも高がしれている。
程なく部屋の前まで到着してしまった。
帰ってみたら誰もいなかった。なんて都合の良いことはあるわけもなく、部屋には茜と影狼ともう一人、亜由美の気配までしやがる。
何でアイツがいるんだ? って、茜とも仲が良いから不思議じゃないか。んでもこの流れって必然的に亜由美にも話すことになるのか。
しょうがない。腹を括るしかないか。
ガチャ。
「……あ〜、お待たせ」
そう言いながら部屋に入った俺に茜が勢い込んで詰め寄ってきた。
「裕哉! 大丈夫だった?! 怪我とかは?!」
「お、おお。大丈夫」
「よ、良かったぁ……」
そう言うなりヘナヘナとへたりこむ茜。
相当心配してたらしい。
考えてみたらあの状況でいきなりこの部屋に送られて、あとの事が判らなければ不安にもなるか。俺に危機感がなさ過ぎて茜の心情に思い至らなかったな。
ちょっと反省。
部屋にはベットの上に影から出てきていた影狼が伏せの姿勢で待機しておりその体に半ば埋もれるように亜由美がもたれかかっていた。
「あ〜、心配かけて悪かったな。全部解決したから安心してくれ」
俺は茜にそう声をかけて手を貸しながら椅子に腰掛けさせる。
茜はそれでも少し心配そうに俺をみていたが、少しして大きく息を吐くとようやくいつもの表情に戻る。
「えっと、それで、その、説明、してくれるんだよね?」
「それは良いが、亜由美、お前は何でいるんだ?」
言外に邪魔だから出て行けという意思を滲ませて亜由美をみる。
微妙に幸せそうな顔で影狼のもふもふ毛皮に埋もれていた亜由美がちょっと残念そうに身体を起こす。
「……今日変な事があった。部活の帰りに近寄ってきたガラの悪いオジサンに鳥が襲いかかってた。茜さんの話を考えると多分それも兄ィの仕業でしょ。だから私にも聞く権利がある。はず」
しっかりバレてやがる。
ここまできたらしょうがない。
諦めた俺は、水上の事件の後独自に麻薬の入手ルートを追っていた事、売人のルートでは情報が得られなかった事、今日になって相手が接触してきた事、その時に茜が人質になった事を説明して、あの後組織のリーダーを尋問した上でこれ以上はこの街に関わらないのを約束させた事などを話した。
どのようにOHANASIしたのかは教育上問題あるのでぼかした。
「……ってなわけで、この件は無事解決。今後同じルートで麻薬が出回ることは無いし連中が俺達に何かすることも無いだろう」
「…………」
「まぁ、そういうわけで、茜が狙われたのは俺のせいって事で、すまなかった」
茜に対して頭を下げる。
「……話はそれだけ、じゃないよね?」
「うっ」
やっぱりそれ聞きますか。
「あ~……やっぱ気になる?」
「あったりまえじゃない!! 裕哉が弱いって思ってるわけじゃないけど、それでもあんなに大勢いた相手に普通勝てるわけないじゃない! いったいぜんたい何したの? それに床から出てきたあのワンちゃんは何?」
そう言いつつベッドの上に伏せをしている影狼を手で示す。
茜に影狼に対する怯えは見られない。
普通こんなにでかい犬(本当は狼)が側にいたら恐いと思うんだが。しかも『ワンちゃん』って……
そう言えば
「私も気になる。この子もそうだけど、ハトとかカラスとかどうやって操ってたのか知りたいし」
ここにきて亜由美まで詰め寄ってきた。
「……はぁ……んじゃ説明するけど、多分信じられないと思うぞ?」
そう前置きして3ヶ月近く前に起こった出来事を話す。
所謂剣と魔法の異世界に召喚されて魔王&邪神と戦ったこと。その際魔法が使えるようになったこと。異世界で3年過ごして帰還したがこちらの世界では時間が進んでいなかったこと。帰還してからも魔法が使えて身体能力も維持されていることなどを非常にざっくりとだが説明した。
「んで、そこにいるでかい狼はシャドウウルフって幻獣で、俺の召喚獣。影の中に潜ることが出来る。今回危ない橋を渡りかねないから茜に付けてたんだよ」
俺のそこそこ長い話を聞き終えると、茜と亜由美は数度互いの視線を交わしながらも唖然とした表情で直ぐには言葉が出てこないようだった。
当然と言えば当然だが。
「と、言うことで俺の説明は終わり。別に信じるかどうかは好きにすれば良いけど。ってか、出来れば忘れてくれると嬉しいなぁ~っと」
ちょっと軽い感じで言ってはみるものの意味無いだろうなぁ。
「……正直、そんなライトノベルかゲームみたいな話とても信じられないけど、実際にこのワンちゃんがいきなり床から出てきたり、裕哉が何か呟いたと思ったらみんな倒れたりしたのをこの目で見たし、信じるしかないのよね」
「兄ぃが魔法使いになるのは10年後だと思ってたのに」
うぉい! 亜由美はいいかげんそのネタから離れろよ!
「まぁ、いきなりこんな話を信じろってほうが無理だろ。もし逆の立場だったら病院に連れてくだろうしな」
「ごめん。まだちょっと頭が混乱してるんだけど、裕哉は私の知ってる裕哉で間違いないんだよね? 6月1日生まれで、恋人居ない歴=年齢で、バイク好きで、タンスの3番目の引き出しにエッチな本を隠してる妹に頭が上がらない20歳の大学生なんだよね??」
「ちょっと待て!! なんでお前が俺の秘密の隠し場所を知ってる?! それに亜由美に頭が上がらないって何だ?!」
「亜由美ちゃんに教えてもらった」
俺は亜由美を睨み付けるが目があった途端にそっぽ向いてピューピュー口笛の真似をしてやがる。せめてちゃんと口笛くらいしろや。
「内容には多分に反論したくなるが最後の奴を除いて大旨その通りだよ。とはいえ、
そう答えると茜は何と言葉を返して良いのか判らないって顔をしている。
「鳥を操って変態オヤジ攻撃したのは?」
代わって亜由美が質問を投げかけてくる。
些か話題転換が露骨だが今回は乗ってやることにしよう。が、お宝の隠し場所の件はあとでしっかりと追求させてもらうがな。
「それは別の召喚獣の仕業。コイツだよ。ウィルガっていう魔獣で、名前はタマ」
そう言いながらデイパックに入れたまま放置してしまっていたタマを出してやる。
すっかり忘れてた。
「キュ!キュー!!」
抗議するように俺に向かって鳴きながら前足で俺の腕をペシペシと叩く。
ゴメンってば。後でクッキー買ってやるから勘弁してくれ。
「きゃー! かわいい!! 何コレ」
亜由美がいつものキャラをかなぐり捨ててタマを掻っ攫い抱きしめる。
かなり驚いたのか丸まろうとするも亜由美の腕があるので巻き付くように身を縮める。それがまたツボに嵌ったのか亜由美はますますしっかりと抱きついた。
「ま、まぁそう言うわけで色々と思うところはあるかもしれないが、基本的に俺は俺だから、これまで通りにしてもらえると助かる」
話が進まないので強引に終わらせる。
「あ、あのさ、その、前に会った『レイリアさん』って、もしかして、その異世界の人、だったり?」
……そう来たか。そう言えば茜も亜由美も会ってたんだよな。それも家に泊まってたし。
「あ~、確かにそうだよ。ただ、人、じゃないんだけどな」
「え?」
「レイリアは人間じゃなくて、黒龍。所謂ドラゴンって奴。こっちに来てたときは人に変化してただけで、本当の姿は大型トラックよりでかいよ」
「……マジで?」
「マジで」
茜が絶句する。確かに信じられないよね。
「ってことは兄ぃレイリアさん呼び出せる?」
タマを抱いたまま亜由美が聞いてくる。
「呼び出せるっちゃぁ呼び出せるが、他の召喚獣と違ってレイリアは俺に従属してる訳じゃないから余程の事が無い限り呼ばないよ」
本当は2ヶ月に一度呼ぶ約束をしているのでそろそろ呼ばなくてはいけないのだがそれは言わない。
「……会いたい。兄ぃの話が本当か確認したいから会わせて」
「そんなことで気軽に呼べるか! レイリアはレイリアで
冗談じゃない。この状況で呼び出したら絶対ロクな事にならない予感がビンビンしてる。これだけは何としてでも阻止せねば。と考えていたら亜由美がスッと俺の耳元に顔を寄せてボソっと呟いた。
「仮○ライダー」
「!!!」
「茜さんは気がついてないみたいだけど、まさか兄ぃがあんな『恥ずかしい格好』して『ポーズ』まで決めてたなんて、ねぇ」
「お、脅す気か?」
「……レイリアさんに、会いたいなぁ」
お母さんご免なさい。僕は弱い子です。
翌日、俺は茜と亜由美を連れていつもの山中に転移で移動してきた。
もちろん亜由美の脅迫に屈して仕方なくレイリアを召喚するためにである。
茜と亜由美は部屋で靴を履いたと思ったら次の瞬間に山の中、それもそこそこ上った森林限界よりも高い場所にいきなり移動したので面食らっている。
せめてもの意趣返しで何の説明もしなかったからな。
巻き添え喰らった茜には悪いが、ちょっとスッとした。
二人が落ち着くのを待ってから、改めて召喚の魔方陣を形成しレイリアを召喚する。
以前と同じように巨大な魔方陣の上に魔力光が収束し、そして巨大なドラゴンが姿を現す。
「ふむ。どうやら約束は忘れなかったらしいの。しばらくであったな主殿。にしても……やはりアカネとアユミに話したようじゃの」
俺の困ったような表情と俺の後ろにいる茜達をみて事情を察したらしいレイリアが言う。
肝心の二人はやはりレイリアの本当の姿である黒龍を見て完全に固まっていた。
まぁ、いくら話を聞いて想像していても実際にこの姿を見ると驚くよな。
とりあえず心がこっちに戻ってくるまでそのままにしておくことにして、レイリアに事情を話さないといけないだろう。
「レイリア、あのな……」
「ユーヤさま~~~!!!!」
言いかけた俺の胸に金茶の柔らかそうな毛並みが飛び込んできた。
ぴょこんと飛び出た猫耳に虎縞のしっぽを持った猫獣人。
「ティ、ティア?!」
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