第23話 勇者の夏合宿Ⅴ
ザザーン……ザザーン……
波の音が響く。
目の前に広がるのは遠くまで続く長い砂浜。
太陽は既に高く、強い日差しが降り注いでいる。
「海だねぇ」
章雄先輩が呟く。
「海っすねぇ」
俺がそれに応える。
「夏っすねぇ」
後輩の相川が更に加わる。
「「「良いよなぁ」」」
3人の声がハモる。
俺達は今、秋田県の中部にある海水浴場に来ていた。
もちろん現在サークルの合宿真っ最中である。
ツーリングも初日こそ事故に遭いかけたりといったトラブルがあったが、2日目、3日目はコレといった問題もなく順調に行程を消化している。
昨日秋田県に入った俺達はこの海水浴場にほど近い旅館にチェックインして、本日は休養日として一日自由行動になっている。
となれば、当然繰り出すのは海である。
というか、この地域に宿を取ったのは海水浴場があるからなので当然である。
今は7月後半でシーズン真っ直中とはいえ、関東の
もちろんそれなりに海水浴客はいるのだが、人口密度が違いすぎる。
まぁ、平日なのもあるとは思うが、学生らしき人達もそこそこいるので寂れている感は全くない。
寧ろ、若い人が多くて実に良い。
何がって?
そりゃ当然!水着のおねーさん・おじょーさんである。
今も目の前をきわどいビキニを着た女子大生と思しき人数人が横切っていく。
素晴らしい!!
思わず章雄先輩、俺、相川で柏手を打って手を合わせてしまった。
有り難や、有り難や……
「何をバカなことしてるのよ!」
ドガッ
そんな罵声と共に俺のケツが蹴っ飛ばされた。
ステータスのせいか、痛みは無いし、つんのめる事も無い。
とにかく振り返ると、茜と久保さん、それに後輩の小林さんが居た。
3人の目が少し冷たい気がする。所謂ジト目という奴だろうかね。
「おおぉ!工藤さんと久保さん、小林さんも良く似合ってるよ!」
章雄先輩の言うとおり、3人も水着姿だった。
ってか、待ち合わせしてたんだけどね。
茜は大人しめの水色のビキニタイプ。
久保さんはパレオ付きのワンピースタイプ。
小林さんはスポーティーな黒のセパレートタイプ。
見た感じのサイズは茜>久保さん>小林さん。
敢えてどこがとは言わない。
勿論俺達男性陣も水着なのだが説明はしない。
男の水着なんぞどうでもいいっしょ?
改めて見ても3人ともそれなりにレベルが高い。
こちらにも章雄先輩と一緒に手を合わせておく。
「拝むなぁ~~!!」
茜が少し赤くなりながらタオルで叩いてくる。
うん、じゃれるのもこの辺にしておこう。
あ、初出のメンバーを紹介しておく。
まず、最初に俺と一緒にいた理学部1年の相川。乗っているのはYAMAHA セロー225。
んで、茜たちと一緒に来たのが経済学部1年の小林さん。乗っているのはスズキ GSX250FXである。
ちなみに相川と小林さんは付き合ってるそうだ。
クソッ!リア充共が!!
今日は自由行動なので比較的よく話すこのメンバーで遊ぶことにしたのだ。
他のメンバーも殆どは海に来るだろうが、まぁ、その時は適当に合流するなりすれば良いだろう。
中には昨夜飲み過ぎてダウンしてる奴もいるみたいだしな。
ちなみに岡崎先輩は俺達が出てくるとき、ロビーでビール飲んでた。
あの人ホントに平成生まれの女なんだろうか?
とにかく折角海水浴場に来たので早速海に入ることにする。
思ったよりも水が冷たいが、東北とはいえ今は真夏。日差しは暑いし非常に気持ちが良い。
女性陣もきゃいきゃい言いながら海に入ってはしゃいでいる。
そんな風に俺達は泳いだり、いちゃつく相川と小林さんの邪魔をしたり、章雄先輩を沈めたり、章雄先輩の水着を水中で引きずり下ろしたりしながら午前中を過ごした。
午後になり、海の家で食事をしていると神崎会長を含めたメンバー数人が合流してきた。
会長はまさかのブーメランパンツだった。
いや、似合ってるっちゃぁ似合ってるのかもしれんが、サングラスをした筋骨隆々の大男のブーメランパンツ姿ってのは妙な威圧感がハンパじゃないんすけど?
「神崎と柏木君と一緒にいると俺が物凄い貧相に見えるから凹むよ」
章雄先輩がぼやく。
大丈夫っすよ。先輩が貧相に見えるのはそれが原因じゃないですから。
メンバーが増えたことで更に賑やかになり、ビーチバレーをしたりビーチフラッグをしたりして盛り上がる。
やっぱり海は大人数だとテンションが凄い。
みんなで大騒ぎをしていると、当然喉も渇く。
頃合いを見計らって、俺と章雄先輩で飲み物を買いに行く事にした。何故か会長も付いてきてくれる。
というか、会長全然海入ってない気がするんだけど、いいんですかね?
まぁ、特に不満は無いので手伝ってもらうことにする。
実際、袋を持ってきてないので自販機で人数分飲み物を買うと人数が多い方が助かるしね。
「私達サークルで来てるんだからほっといてください!!」
「ちょっとくらいいいじゃん!俺らとも楽しもうよ!」
俺達が戻ると茜たちが数人の男達に囲まれるようにして何やら言い争っている。
他の男性メンバーは困惑した顔で立ち尽くしていた。
ナンパか?
随分とガラが悪そうだけど。
「どうした」
相変わらずの渋い声で会長が茜たちに声を掛ける。
「裕哉!神崎先輩!」
茜がホッとした顔でその声に答える。
「んだよ!邪魔すんじゃ……」
囲んでいた男達がこちらを向きながら文句を言おうとするが、俺と会長を見て勢いが無くなる。
まぁ、気持ちは判る。
凄んでビビらせようとしたら、相手は片やシ○ワちゃんばりガチムチの大男、片やそれよりは低いものの十分長身で鍛えられた体躯の俺、チャラ男の章雄先輩は……会長の後ろに隠れてるな……
「ウチのサークルメンバーに何か用か?」
会長の低い声が響く。
男達は顔を見合わせると、形勢不利と見たか踵を返す。
「チッ!行こうぜ!」
「キャァ!」
あろう事か、舌打ちして退散を促した男が茜の胸を鷲掴みしていきやがった。
今の茜は魔法具のネックレスをしていない。迂闊だった。
「野郎!」
「柏木!」
追いかけようと一歩踏み出した俺の肩を会長が掴んで引き留める。
「会長!アイツ一発殴らせてください!」
「落ち着け!」
制止を振り解こうとするも会長は更に力を込めて俺を止める。
ってか、全力では無いとはいえ、俺の力を止めるって、会長どんだけ力あるんだよ。
「裕哉ダメだよ!私は大丈夫だから!!」
茜も俺の前に来て止める。
「ッチィ!!」
これじゃあ俺が堪えるしかない。
俺は立ち去っていく男達を忌々しく睨み付けた。
「すいません俺達何も出来なくて」
相川が俺と会長に謝ってくる。
「相手のほうが人数も多かったししょうがないさ。気にすんな」
俺はとりあえず苛立ちを飲み干して相川達を慰める。
「誰も怪我とかはしていないな?」
会長が皆に確認するが大丈夫のようだ。
「直ぐに先輩達が来てくれたので大丈夫です」
久保さんもホッとしたように応じる。
「じゃ、じゃあ、飲み物買ってきたからみんなで休憩しよう」
章雄先輩が空気を変えるように明るい声を出す。
先輩、ちょっと情けないっす。
それでも多少の効果はあり、さっきの男達の愚痴を言い合いながら飲み物を飲んで少しするとすっかり雰囲気は元に戻る。
それからみんなで遊びを再開して夕方まで楽しむことが出来た。
夕方になり無料のシャワーを浴びて着替え、宿に戻る。
あれからは先程の男達が姿を現すこともなく、宿で値段の割には豪勢な海の幸を頂き、ゆっくりと風呂に浸かって疲れを癒す。
そしてタイミングを見計らって宿の外に出た。
何でかって?
当然、昼間の男達に仕返しをするためだ。
よりによって茜の胸を掴むなんざ許し難い。
アレは俺の……じゃないけど、とにかく、奴らには自分の罪をしっかりと償ってもらうことにしよう。
多分今の俺はかなり悪どい顔をしてるんだろうな。
だが、非モテ男の心の狭さを思い知るがいい。
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