第17話 Side Story 男達のそれぞれの決意 前編
Side とある少年の決意
ボクはお母さんに連れられて妹といっしょに『びじゅつかん』という所にきていた。
お母さんがきたいって言ってたので、ボクはきょうみがなかったけど来ることになった。
ほんとうはお父さんもいっしょにくるはずだったのだけど、おしごとでこれなくなっちゃった。
でも、お母さんは楽しそうだったけど、ボクはつまらない。
妹はまだ小さいから手をつないで色々見てたけど面白そうなのは何もなかった。
やっぱり3DS持ってこればよかった。
ボクが妹と二人でじゃんけんをして遊んでいると、外から大きな音がきこえた。
花火みたいな音。
そのあとバクチクみたいな音がして、まわりの人たちがさわぎだした。
お母さんがボクと妹をよんで手をにぎった。
なんだろ?
妹がびっくりして泣きそうになってる。
ボクも妹が泣かないようにアタマをなでていると、パンパンパンって音がして大きなケンジュウをもったガイジンが入ってきた。
ガイジンは何か大きな声でさけんでいたけど、なに言ってるかわからない。
でもとってもこわい感じ。
ボクと妹はお母さんにだきよせられて部屋のすみに行った。
ほかの人たちもみんな同じようにすみに行く。
そこでお母さんにしずかにすわるように言われたからそうした。
しばらくそうしてたけど何もおこらない。
ガイジンはボク達の事をにらみながら大声でなにか言ってるけどぜんぜんわからなかった。
でも妹はそれがこわくて泣いてしまった。
ガイジンが近づいてきて大きな声でどなったけど、小さい子はこわいと泣いちゃうんだよ。
ガイジンは大人なのにそんなこともわからないみたい。
きっとこのガイジンはバカなんだと思う。
お父さんが言ってた学校の勉強をちゃんとやらなくて、テーヘンのしごとしかできないハゲになってしまったんだろう。
ガイジンはお母さんの手をつかんで引っぱろうとした。
お母さんがいたそうな声をだす。
ボクはお母さんをつかんでいるガイジンの手に思いっきりかみついた。
ガイジンは変な声をだして手をはなした。
ボクは男の子だからお母さんと妹を守ってあげないといけないんだ。
お父さんがボクにいつも言ってた。
ガイジンが大きな声を出して、ボク達にケンジュウを向けた。
ボクはいつかテレビで見たみたいにお母さんと妹の前に立ってりょう手を広げた。
こわくてぎゅっと目をつむる。
パンパンパンって大きな音がまたした。
でもどこもいたくない。
少ししてなにかが落ちるような音がして、アタマをお父さんがよくやるみたいにポンってたたかれた。
ボクが目をあけるとボクの前に仮○ライダーウィ○ードがいた。
びっくりした。
だって、あれは作り物のお話で、仮○ライダーなんて本当はいないってみんな言ってた。
ボクもそう思ってたのに、目の前にいる。
なんで?
ウィ○ードがもうだいじょうぶって言ってたからまわりを見たらガイジンが変なかおになってころがってた。
助けてくれたんだ。
あんしんしたらおしっこが出ちゃった。
ボクはお兄ちゃんなのにすごくはずかしい。
でもウィ○ードがまほうできれいにしてくれた。
まほうってすごい!
ぼくもまほう使いになりたい!!
まほうなんて物語の中だけだと思ってたけど、ほんとうにあるならボクにもできるかもしれない。
たしか、となりの家にすんでるお兄さんが30才まで『ドーテー』だったらまほう使いになれるって言ってた。
だからボクは『ドーテー』になるようにがんばろうと思う。
そしたらきっとボクもウィ○ードみたいになれるんじゃないかな?
明日からがんばろう。
Side とある警察官の決意
「ふぅ~……」
報告書を入力する手を止め、大きく息を吐く。
私が今居るのは警視庁組織犯罪対策部のオフィスだ。
私の名は
当然、名探偵ではないし、知り合いに疫病神のごとく殺人事件に巻き込まれる名探偵の孫もいない。
私が今頭を悩ませているのは先日起こった『ペルシャ美術展襲撃事件』の報告書の事だ。
事件自体は既に解決済みで襲撃したテロリスト6名と連絡員1名、支援していた犯罪組織も粗方逮捕できている。
だから私が悩んでいるのは事件それ自体ではない。
事のあらましはこうだ。
あの日私は今と同じくこのオフィスで事務処理を行っていた。
午前11:03、私の元に緊急通報の連絡が入った。
都立美術館で爆発があり同時に複数の武装した外国人の集団が館内に乱入。
式典の為に訪れていた大臣と事務官、I国大使をはじめとして、一般客多数を人質に立て籠もっているという内容だった。
テロ事件として警視庁組織犯罪対策部に出動要請が掛かったわけだ。
私はオフィス内に居た捜査員を全員連れて現場に急行。
状況を鑑みて警備部に爆発物処理班を含む機動隊と特殊急襲部隊(SAT)の出動を要請した。
こういった組織犯罪は初動こそが一番重要だ。
人員の逐次導入など事件の解決を遅らせることにしかならない。
現場に到着した私は直ぐに周辺を封鎖。
周辺の建物内にいた人を全員避難させる。
封鎖が完了した直後、人質の一人が解放され犯行グループの要求が我々に伝えられた。
要求はI国に逮捕拘束されている国際テログループの幹部を解放することだった。
テロリストと交渉しないのは国際常識ではあるが、その判断は我々がすることではない。
私は上官に連絡を取り要求を伝えた。
無論私の仕事に変更はない。
解放された人質の聴取によるとテロリストの人数は想定よりも少なく10名は居ないようだった。
だが建物内に多くの人質がおり中の様子も伺えない。
事件解決には時間が掛かりそうだった。
現場の指揮を私が執ることになり、主立った者達に取り敢えずの指示を出していると背後の公園が何やら騒がしい。
「どうした?」
私は騒いでいる現場に向かいながら近くの警官に尋ねる。
「不審な格好をした者が空から降ってきたとか……」
あまりに曖昧な返答に眉を顰める。
子供じゃあるまいし、空から降ってきたはないだろう。
私がそう考えていると、
「け、警視!あれを!」
別の警官が指さす方向を見てみると、確かに人らしき物体がテロリストが立て籠もる建物の斜め上空に浮かんでいる。
少し距離があるためはっきりとは見ることが出来ない。
だが人間が道具もなく空を飛べるはずもない。
ドローンのような物なのだろうかと考えていると、その人影が建物のロビー入口に向かって飛び込んだ。
私たちは慌てる。
誰の悪戯かは判らないが、人質が居る現在の状況で下手にテロリストを刺激しては不味い。
かといって後を追って突入するわけにもいかない。
取り敢えず入口付近の包囲を狭め不測の事態に対応できるように体制を変更する指示を出す。
何かが飛び込んで僅か数十秒後、人影が入口に現れ人を放り出した。
放り出された人物の服装容姿は解放された人質のテロリストに関する証言と一致する。
死んでいるのか生きているのかは判らないが動く気配は無い。
放り出した方の人物は一瞬しか見えなかったが黒いコートのような物を着た比較的背の高い男のように見える。
だが顔は覆面のような物を被っているようで確認できなかった。
私は直ぐに指示を出して物陰から近づきテロリストと思われる人物を確保させる。
我々が確保に成功した直後、更に一人放り出されてきた。
今度は我々も入口近くに居たため、放り出した人物をはっきりと確認する事が出来た。
「あ、あれは、仮○ライダー?」
誰かが呟く。
確かに所謂特撮ヒーローの格好をした人物に見える。
無論この場にいる人間でアレを本物の仮○ライダーだと思う者など居るわけもない。
我々にとってはテロリストと同じく不審人物としか見えない。
どうやらテロリストと敵対している様子ではあるが人質の安全を考慮してくれると楽観することは到底出来なかった。
そもそもあの人物はどうやって建物内に侵入したのだろう。
建物の出入り口は非常口や配管用通路まで全て監視している。
空から何かが中に飛び込んだのは確かだが、まさか本当に空を飛んだとでも言うのだろうか。
ともあれ、今は答の出ない事を考えている余裕はない。
中の様子を伺っていたSATの隊員がロビーに人がいない事を確認する。
そして15名の隊員がロビーに突入して行く。
残りは建物周囲と非常口付近に待機している。
後は専門の訓練をした隊員達と隊長に任せるしかない。
階級が高かろうが所詮私には現場が効率よく動ける環境を作ることと責任を取ることしか出来ないのだから。
中の様子がわからず不安を表に出さないように苦心すること数分。
入口の内部が俄に騒がしくなる。
包囲している警官隊に緊張が走る。
固唾を呑んで見守っていると、SATの隊員1人が先導する形で人質となっていたであろう人たちが次々と出てくる。
皆一様に不安そうな表情を浮かべているが、警察官の姿を見ると大きく手を振ってくる。
中には崩れるように座り込んでしまう人もいた。
呆然と見ていた私は我に返ると直ぐに民間人の保護を指示する。
勿論テロリストが混ざっていないかの確認も併せて行わせる。
「誰か状況を説明できますか?」
警官の問いかけに1人の男の子が
「仮○ライダーウィ○ードが助けてくれたんだよ」
そう言った。
「あ、あの、仮面○イダーのコスプレをした人が銃を持った男を倒して私達を解放してくれたんです」
別の男性も証言してくれる。
おそらくは先程の人物の事だろう。
もしかしたら悪い人物では無いのかもしれないが、それでも専門の訓練を受けているわけでない人物が勝手な行動をされるのは非常に困る。
何事も無く終わることを心から願った。
それから更に十数分後、再び人質達がSATの隊員に先導されて出てくる。
その中にはI国大使と大臣の姿もある。
どうやら事件が無事解決したらしい。
SAT隊員の表情を見る限り怪我人も居ないようだ。
私がそう安心していると部下が私を呼びに来た。
「警視。突入班の丸山隊長から緊急連絡です」
私は直ぐに緊張を取り戻し無線に応答する。
丸山隊長からの内容は、テロリストを制圧した人物がその者達が持ち込んだ爆弾を回収したので処理を依頼するとの事だった。
いったいどうやって回収したのか疑問は尽きないが、いずれにせよそのままというわけにはいかない。
幸い、爆弾処理班も体制は整えているので防爆壁に誘導するように指示を出す。
待つこと数分。
1階非常口からコスプレした人物が出てきた。
事前に周囲の警官達には短絡的な行動をしないように命令してある。
今のところこの人物は協力的なようだし武装したテロリストを1人で制圧した事を考えても何らかの武器を所持している可能性が高い。
更に、現在の所明確な犯罪行為は確認されていない。
無理をすれば公務執行妨害を適用することも出来るだろうが、警察に対して協力する姿勢を見せているのに無闇に刺激するのは得策ではないだろう。
だが、簡単にご協力ありがとうございましたとして解放するわけにも行かない。
最低限身分の確認と事情聴取はする必要がある。
爆弾を防爆壁の中に置いた後、出てきたコスプレの人物をSAT隊員が囲む。
当然、明確な犯罪者というわけではないから銃は向けていない。
「ご協力感謝する。申し訳ないが聴取のため警察署まで同行願いたい」
丸山隊長が話しかける。
「あ~、申し訳ないですけどそれは勘弁してください。それじゃ、俺はこれで失礼します」
初めて聞く若い男の声だった。
しかし、隊員達に囲まれたこの状態でどうするというのだろうか。
私がそう考えているとコスプレ男の体が僅かに光ったように感じられた後、忽然と姿を消した。
勿論私が瞬きをしたわけではない。いや、もししたとしてもこのような一瞬で消えることなど出来るはずがない。
隊員達もまわりや上方を見渡しているが何も発見できないようだ。
自分の目の前で起こったことが信じられない
確かに腕の良いマジシャンならば瞬間移動や消えることだって出来るだろう。
しかしそれは種も仕掛けもある状況だからこそ出来ることであって、それも観客からは見えないように一旦覆いなどをするものだ。
今回の場合は仕掛けなど出来る状況ではないし、周囲を囲んだ者達の見ている前で消えたのだ。
今のは幽霊だったとでも言うのだろうか。
もっとも私は幽霊すら信じていないのだが。
私は事件を振りかえり終えると再び大きく息を吐く。
あの後防爆壁の中には確かに爆弾が置いてあった。
我々全員が白昼夢を見ていたわけでは無い事が確認できたがそれが良いのかどうなのか。
確保されたテロリスト達はほとんどが重傷だった。
特に最上階に配置していた3人の内2人が重度の凍傷で結局1人は片腕、もう1人は両腕を切断することになった。
残る1人は睾丸破裂。怪我を見た隊員と警官、救急隊員全員が暫く内股になってしまったほどだ。
1階にいた男は両手足の複雑骨折と顎の粉砕骨折。
残りは骨折やら火傷やらでどちらにせよ重傷だった。
確かに怪我は酷い状態だが、この件に関してはやり過ぎとも言えないだろう。
全員が自動小銃で武装しており拳銃やナイフも隠し持っていた。
事実子供に向けて発砲しているとの証言もあった。
加えて爆弾もかなりの規模の爆発が想定されるものを仕掛けている。
それをたった1人で、しかも人質に1人の怪我人も出さずに鎮圧している。
あの後SATの丸山隊長にそんなことが可能かどうか聞いてみた。
「テロリストの配置が正確に把握できて、入口から犯人まで一瞬で移動するスピードがあり、一撃で戦闘不能にすることが出来るのなら可能でしょうね。それも他の階の仲間に気づかれることなく、ですが」
と苦笑いしながら答えてくれた。
それは実質不可能ということではないだろうか。
だが、事実あのコスプレ男はやってのけた。
さらに、目撃者の証言によると彼は一切の武器を使用していないらしい。
だがそうなると凍傷やら火傷やらの理由がよくわからない。
凍傷に到っては医師の話では完全に凍結していたらしく、そんなことは液体窒素にでも一定時間以上浸けなければ不可能との事だった。
しかし目撃者の話では一瞬で凍り付いたらしい。
その他にも発射痕があるにもかかわらず何処にも着弾した形跡のない弾丸が見つかったり、プレス機でも使わない限り不可能なほど変形した自動小銃があったりと、もう訳がわからない。
ただ、彼のことをそのまま放置することもできない。
どのような方法を用いたにせよ彼のしたことは危険すぎる。
勿論彼を罪に問うことは難しいだろう。
テロリスト達の怪我にしても状況を考えれば刑法上の緊急避難と見なされるだろうし、相手が死んでいない為に過剰行為とはとても言えない。
警官が封鎖している建物内の侵入に関しても彼を制止した事実が無い以上、公務執行妨害にもあたらないし、一般に開放されている施設のため不法侵入にも該当しない。
強いて言えばチケット代を払わずに展示室内に入ったこと位だが、どう考えてもテロリストの撃退という行為に対して軽微にすぎる。
せいぜい任意で事情聴取に協力してもらうのが精一杯な状況だ。
だがそれでもせめて身元とどのような手段で攻撃したのかだけは把握しておきたい。
万が一、今後彼が犯罪者となったとき、今のままでは対応策が思い浮かばない。
そもそも周囲を取り囲まれた状況で消えてしまうことが本当に出来るとしたら拘束できたとしても意味を成さないかもしれないのだ。
衣装から身元が割り出せないか調べてみたが、本物の撮影に使われた物は保管されており持ち出された形跡は無い。イベント等に使われていた物も同様だった。後はマニアが個人で模倣して制作した物だがこれは完全に追跡不可能だった。
完全にお手上げである。
私は思考が堂々巡りになったことでこれ以上考えるのを止める。
仕事を再開しなければならない。
そう、事件の報告書だ。
これまで作成した報告書を自分で読み返してみる。
要約すると、仮面○イダーの格好をした男性と思しき人物が空から入口に侵入。その後武器を一切使わずに立て籠もったテロリストを全員排除し、人質を解放。ついでに建物内外に仕掛けられた爆弾を回収して警察に提供した。ということだ。
自分で作成しておいてあまりの馬鹿馬鹿しさに呆れる。
もし部下がこんな報告書を出してきたら迷わず転職か病院を勧めるだろう。
しかし今は私が報告書を作って上司に提出しなければならないのだ。
しかもこれらは裁判資料の作成にも使われる。
一体どうするべきか。
いっその事あのコスプレ男が上司に提出してくれないだろうか。
こんな状況を作り出したコスプレ男を逆恨みと判ってはいるが憎たらしく思う。
必ずあのコスプレ男の正体を暴いてやる。
私はお門違いの怒りを込めて誓った。
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