第15話 勇者はヒーロー? 中編
まず状況を整理しよう。
今日の朝、亜由美が茜と一緒に東京でやっているペルシャ美術展を見に行くと言って出かけていった。
その展覧会は今日が初日でI国大使らが招かれて記念式典をする予定だった。
会場となっている美術館に武装した複数のテロリストと見られる人間が侵入した。
現在、亜由美と茜に連絡が付かない。
時間的に考えて人質となっている可能性が高い。
うん。
マズいよね。これってどう考えても。
一応誤報の可能性を考えて他のテレビ局もチェックする。
他局も一斉に特番組んで報道してるみたいだ。
例外的に一局だけテロップのみ流してB級ホラー映画放映してるけど。まぁ、これはいつものことなので置いておく。
まず、亜由美と茜の所在を確認する事と、もし人質になっているのなら助け出す。
これは決定事項だ。
次に、やむを得ない場合を除き、出来るだけ俺の力は秘匿したい。
これからの俺の平穏な人生のためには必要不可欠だからな。
となると変装するしか無いわけだが、今俺の目の前にはコスプレ用のヒーロー衣装(っていうか仮面)がある。
よし!
これ借りよう。
んで、勿論斎藤に理由を話すわけにいかないので『
僅か5秒で斎藤が崩れ落ちるように眠ってしまった。
床に倒れ込んだ時に斎藤の頭から『ゴン!』って音が聞こえたけど気にしないことにする。
夕方くらいまでは目が覚めないはずだから、さっさと片付けて衣装を返しに来る事にしよう。
流石にこのままだとあまりに可哀相なので斎藤の頭の下にクッションを置いてやる。
その際斎藤のスマホが目に入ったので起動してみるとロックが掛かっていない様なので亜由美の怪しい写真が入ってないかチェックしておく。
勘違いしないように言っておくが、これは兄としての義務である。
特にきわどい写真は無いようだ。斎藤と亜由美のツーショット写真があるがこれは俺もその場にいた時の奴だ。何となく面白くは無いが許してやる。
茜の胸チラ写真が有ったので俺のスマホに転送してから削除しておいた。
いかんいかん!
余計な時間を喰ってしまった。
俺は素早くまたラ○ダーのマスクを被る。
このまま普通にこの部屋を出て行く訳にもいかないな。
誰かに見られるかもしれないし、斎藤を眠らせておいて鍵も掛けずに俺が居なくなるわけにもいかんだろ。
なので『転移魔法』で移動する事にしよう。
とはいえ、転移魔法は転移先に俺が事前に指標となる魔方陣を埋め込んでおく必要があるので美術館に直接転移することは出来ない。
魔方陣が準備されている所まで転移で跳んでそこから移動だな。
俺は緊急用(遅刻防止用)に魔方陣を設定しておいた大学校舎屋上に転移した。
この校舎は鍵は開いているものの学生が来ることは殆ど無いし、下からも死角になっているので転移用に設定したのだ。
さて、これからの移動だが、公共交通機関は論外として地上を移動するのは時間も掛かるし人に見られるリスクもあるので『飛行魔法』で飛んで行こうと思う。
『認識阻害』の魔法を併用すれば殆どの人は気付かないだろう。
念のため周囲を確認してから魔法で浮かび上がる。
一旦真上に上昇して地上から視認し辛い高度まで上がってから都内へ向けて移動を開始する。
地上を走ればバイクでも4~50分ほどかかる距離でも空を飛べばそれほど時間が掛からない。
15分ほど飛び続けると美術館のある公園が見えてきた。
美術館の上空で一旦停止し考えを巡らす。
まずは亜由美達の所在を確認しなければならないが、亜由美は俺が作った魔法付与のネックレスを身につけているので探査魔法を使って探すと直ぐに判った。
どうやら一カ所だけ連なっていない側の建物の中にいるらしい。
その他にも大勢の人がいることが探査でわかった。おそらくその中には茜もいるはずだ。
殆どの人が入り口から離れた壁側に集まっているようだが、これは襲撃犯の指示かもしれない。
ただ、残念なことに俺の探査魔法は平面的にしか見ることが出来ないので亜由美達が何階にいるのかまでは判らなかった。
真上からだとこれが限界だが、建物の斜め上方から探査すればより正確に把握できるはずだ。
俺は救出の段取りを考える。
とはいえ、取れる選択肢は多くはない。
結局入り口から武装した襲撃犯を無力化しつつ人質を解放するしかない。
隠密系のスキルでも持っていたら違うのだろうが、生憎そんな便利なスキルは持っていない。学ぶ機会も無かったしね。
そもそも隠密系のスキルを持ってるような奴なんて
俺は真面目に勇者をやってたんでそんな連中と親しく付き合う機会もその気もなかったんだよ。
認識阻害は使えるが、これはそもそも認識されづらいのであって認識されない訳じゃない。
注目されていれば効かないし、人によっては効果が薄い場合がある。特に相手が警戒している場合はほとんど無意味に近いだろうね。
結局の所、力業で一気に行くしかないわけだ。
それにもう一つ。
ニュースでは爆発があったと報じられていたから、相手が爆弾を持っている可能性がある。
テロリストと言えば爆弾のイメージがあるしね。
そう考えて念のため周囲に爆弾が仕掛けられていないか探査する。
……あったよ。よりによって駅側にある噴水の脇のベンチの下に置かれているらしい。
テロリストが立てこもっている建物周辺は警察による規制線が引かれているようで、周囲に野次馬らしき人が大勢いる。
勿論噴水周辺にも多くの人がいる状況だ。
まず先にアレを何とかしないと、いつ爆発するか判らない物をそのまま放置して死傷者が出るのはマズい。
俺は噴水脇のベンチの横に降り立つ。
突然現れた(ように見える)俺を見て周囲の人達が騒然とする。
まぁ当然だよね。いきなり空から仮○ライダーウィ○ードのコスプレした奴が現れたんだから。
しかも現在進行形で直ぐ側の建物をテロリストが占拠してるのをここにいる人達は知ってるはずだし。
自分で言うのは何だけど、怪しすぎる。
とはいえ、今はそんなことに構っている暇は無い。
直ぐにベンチの下にある爆弾を『障壁』で包み込み、とりあえずアイテムボックスに放り込む。
アイテムボックスの中は時間が停止してるから、この爆弾が時限式だろうが遠隔式だろうが起爆しない。
そもそも爆弾処理なんか俺に出来るわけないし。
爆弾って液体窒素に入れて処理するみたいなことを昔何かで読んだけど、あれって電気回路や稼働部品が低温で動作しなくなるだけで爆薬自体無力化出来るわけじゃないらしいし、起爆装置の解体なんてそんなスキル持ってない。
ってか、ただの大学生にそんなこと出来るわけ無いじゃん。
なので、後で警察の人に渡して処理してもらおう。
さて、これから後はスピード勝負だ。
周囲の人の騒ぎを聞きつけたらしい警察官が数人ものすごい形相でこっちに走って来てる。
とりあえず捕まるわけにもいかないので、お巡りさん達が到着する前に再び飛び上がる。
そして、件の建物の斜め上方から内部の様子を『探査』。
人質達とテロリストの位置を確認する。
まず、ロビーとなっている所の地下入り口付近に小銃を持った男が1人。そのフロアには人質はいないようだ。
次、一階部分の入り口と展示室中央付近に各1名ずつ。フロアの壁際にコの字型に人質らしき人達が集められている。
その上の二階部分、入り口に1名、フロア内に2名。ここが一番人質も多いようだ。どうやら亜由美達もこのフロアにいるらしい。
確認が終わった俺は直ぐに行動を開始する。
周りの人達が何人か俺の方を見て指さしているのが見えるが、入り口にいるテロリストは気づいていないようなので、一気に内部に突入する。
地下に向けて大きく開いた場所から入り口手前まで一気に飛び、着地と同時に中に突っ込む。
突然目の前に俺が現れて反応できず棒立ちになっている男に跳び蹴り。形としては完全にラ○ダーキック。
体の前に構えていた小銃を狙い蹴り飛ばす。
小銃がひしゃげる感触を確認しつつ、直ぐさま『雷撃』を打ち込む。
「ウガァッ!!」
一瞬うめき声が聞こえたが男は倒れたまま動かなくなる。
ちょっと体から煙が出てるが黒こげにもなってないし、頭もアフロになってない。
うん、大丈夫そうだね。一応確認したら心臓も動いてるみたいだし。
ほっといて復活されても面倒なので、襟首掴んで入り口から外に放り投げる。
後は周りを囲んで監視してるお巡りさん達が捕まえてくれるでしょ。
いっぱいいるみたいだし。
改めてフロア内に足を踏み入れる。
手前側に展示の案内パネルが設置されていて奥側に少し展示物が見える。その先が上に上がる階段のようだ。
どうやらメインの展示は上の1,2階になっているらしい。
ところで、今気づいたんだけど、ここの展示物ってひょっとしなくても物凄く高価なんじゃないだろうか?
わざわざ日本まで持ってきて展示する位なんだから、日本で言ったら国宝とか重要文化財みたいな?
ってことは、戦闘で壊したりしたらマズイよね?
万が一俺の正体がばれたりして、損害の請求なんかされた日にはこの先の人生詰むんじゃね?
いやいやいや、マジでそれだけは勘弁して欲しい。
いっその事、一気に亜由美と茜の所に突っ込んで2人連れて転移でバックれるか?
でもその場合、高い確率で俺の正体ばれるよなぁ。
結局亜由美と茜を助け出して且つ正体もばらさずに済まそうと思ったら
しかも、相手に銃を使わせないor使ったとしても人にも展示物にも被害を及ぼさないようにする。
うん、難易度爆上がりですね。
やるしかないとはいえ、めんどくせー!!
まぁ、愚痴ってても状況は進展しないし、ここまで来たら後はやるしかないんだけどな。
とにかく
となると、あまり派手には出来ない。
一カ所に立て籠もられても困るし人質を盾にでもされたら更に面倒なことになる。
一つのフロア毎に『遮音障壁』を張って他の階に気づかれないようにしよう。
そう段取りを決めて慎重に1階へと続く階段に近づく。
すると上から誰かが降りてくる気配がした。
俺は階段から死角になる位置に身を隠して様子を伺う。
程なくして小銃を構えた男が俺のいるフロアに警戒しながら入ってきた。
俺は男がフロアに入ると同時に『遮音障壁』を展開し、直後に男に向かって走る。
距離としては10メートルほどだが身体能力が人の限界を軽く凌駕している俺にとっては一足の距離でしかない。
一瞬で間合いを詰める。
男の顔が驚愕に引きつる。
男にしてみたら突然黒ずくめで仮面の何かが目の前に現れたようにしか見えなかっただろう。
が、そんなことは知ったことではない。
俺は念のため小銃を掴んで銃口を下に向けると、引き金に指を掛けている方の腕を殴りつけて骨を砕く。
更に相手が声を上げる間も与えずに鳩尾に掌底を叩き込む。
その一撃で男は意識を刈り取られその場に崩れ落ちた。
これで2人目。この建物内にいる
白目を剥いて倒れている男を先程と同じく外に放り出す。
さてと、それじゃあ上に行きますか。
俺は音を立てないように慎重に階段を上る。
フロアの入り口手前で先にフロア全体に『遮音障壁』を張る。
そして中の様子を確認するためにそっと覗き込む。
そこで俺が見たのは、今にも小銃を発砲しそうな男とその前にいる男の子の姿だった。
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