第9話 Side Story 彩音の妄想
「う~~~ん!!」
私はパソコンの画面から目を離し大きく伸びをした。
長時間の書類仕事で身体が強ばってしまっている。
今日はお店の方は特に問題なく回っているようで、事務作業が随分と捗った。
ファミレスのマネージャーなんて体の良い雑用係だ。
特に今はこの店の店長が新規店舗の店長も兼任していてほぼ不在の状況が続いている。
お陰で店舗の運営業務の殆どを私がしなければならない。
ファミレスの営業時間は長い。準備も含めて朝の9時から夜は日付が変わる頃まで誰か責任者がいなければならない。
その間に事務仕事もしなければならないし、人が足らなければホールに入って接客もこなさなきゃならない。
必然的に全て私がそれを担うことになってしまっている。
辛うじて週に一日だけ店長が来て私の休日が取れることになってはいるものの、週休2日なんてどこの世界の出来事かって感じ。
こんなんだからいくら社員が入っても短期間で辞めていってしまう。
だからこそ25歳程度の小娘である私が『マネージャー』なんてご大層な肩書きを付けられることになるのだ。
本社の連中は役職を付けておけば残業代を払わなくて済むと思って好き勝手に押しつけてくる。
たまに本社に出向けば好色な視線とセクハラのオンパレード。
ふざけんじゃないっての!
考えているだけでストレスでどうにかなりそうだった私は今日のシフト表に目を向ける。
「夜番のホールは、大森さんと三島さん、柏木君か。柏木君は久しぶりね。レポートとか言ってたっけ」
私は穏やかそうな表情をした大学生の男の子の顔を思い浮かべる。
彼は私がマネージャーになったばかりの頃店長が面接をして採用になった子だ。
大学生になったばかりだったかな?
とにかく真面目で仕事の覚えは早いし接客もそつなくこなしていた。今ではこの店の貴重な戦力だ。こちらの急な無理も都合が悪くない限り協力してくれる。それにちょっと可愛いし。
今回は急にレポートを提出しなければならなくなったとかでシフトを空ける事になってしまった。学生も大変だ。
気分転換が出来た私は再びパソコンに向かう。すると、
「おはようございま~す」
挨拶をしながら柏木君が入ってくる。予定より1時間も早い。
「お疲れ様です。柏木君随分早いのねぇ」
私が言うと、
「いや、ちょっとシフトが空いちゃってたんで忘れてないか不安で、早めに来てメニューとかの確認をしておこうかと」
そんなことを言いながら柏木君は恥ずかしそうに笑った。
本当に真面目な子だ。変に粋がってる所もないし、周りへの気遣いもできる。本当においしそ、じゃなくて頼もしい。
「相変わらず真面目で助かるわ。今日はホールをお願いね」
私がそう応じると、柏木君は返事をして着替えるためだろう更衣室に入っていった。
少しして柏木君が上半身裸で出てきた。
シャツのサイズが合わないらしい。
思わずその裸身に見入ってしまった。
着痩せするのだろうか、たくましい身体と古傷らしき跡がいくつも見える。
私の心臓が跳ね上がり、顔が赤くなっていくのがわかった。
別に男の人の裸を見るのが慣れていない訳ではない。まして上半身だけだ。
それでも彼には私の中の『女』を刺激するものが感じられた。
だからだろう、私は自分の欲求に押されるように必要もないのにサイズ合わせを口実に彼の身体に触れてしまった。
柏木君も照れくさいのか少し赤くなっているようだ。
サイズ合わせが終わると何とか身を離す。非常に名残惜しい。というかいっそ襲いかかりたい。ゴホン。
ひょっとして私は欲求不満なのだろうか。
そう言えば最近は男性とそういうことをしていない。柏木君を襲う前に何かで解消しなければ。
店内が忙しくなってきたので私もホール業務に入る。
全体を見ていると特に柏木君の動きが際だって見える。
素早いのに慌てる感じがしない、しなやかで流れるような動き。
彼ってあんなに凄かっただろうか。
見とれつつも仕事は進み、忙しさのピークも過ぎた頃私は事務所に戻る。
しばらく事務仕事をしていると、店内から怒鳴り声のようなものが聞こえてきた。
慌てて様子を見に行く。
夜も更けてくると酒が入っているのか理不尽なことでクレームをつけてくる客が時々出てくる。
そういった客の対応もマネージャーである私の仕事だ。
店内を見ると大森さんが泣きそうになっていて、柏木君がそれを庇うように下がらせているのが目に入る。
そこにいたお客さんを見ると明らかにガラの悪い風体の男性が4人いた。
本当なら責任者である私が行くべきだ。アルバイトの子に対応を任せるべきじゃない。
でも、足が動かない。
恐い。すごく恐い。
もし私が彼らの前に行ったらどんな言葉を投げつけられるのだろう。
それだけでは済まないかも知れない。いや、きっと済まないだろう。
きっと何かを要求されるに違いない。お金だろうか、それとも私の身体だろうか。
両方かも知れない。
そして私はどこかに拉致されてしまうんだろう。
そこで私はあの粗野な男達に欲望をぶつけられることになるのだ。
抵抗する私を力尽くで押さえつけ、私の服を無茶苦茶に引き裂き、卑猥な言葉を投げつけながらこの自慢の胸を荒々しく揉みしだいたりするのだ。
暴れる私の手を縛り付けて、刃物で脅し、そして私の……
Pi--------------------------------------------!
妄想が危険な水準に達しましたのでしばらくお待ちください
Pi--------------------------------------------!
私が我に返ると既にあの男達は店から立ち去るところだった。
柏木君が何か困ったような表情をしてこちらに歩いてくる。
何かあったのだろうか。殴られたりした様子はないが、因縁でも付けられたのだろうか。
「柏木君、大丈夫だった?なにもされてない?」
私は彼に問いかける。
店の責任者である私が彼に押しつけてしまったことを悔やむ。
「ごめんなさい!本当なら私が行かなきゃならなかったのに」
「あぁ、大丈夫ですよ。何ともありません」
苦笑いをしながら応じる彼の顔に悲壮感はない。
何事もなく解決できたのだろうか。
その態度を見てようやく私はほっと息を吐く。
「ただ、どうも漏らしちゃったみたいで、掃除をしないと」
その言葉を聞いて思わず私は彼の股間に目をやってしまう。
黒いスラックスのせいだろうか。見た目は特に何もないように見える。
「えっと、大丈夫?着替えとか、ある?」
私がそう問いかけると、彼は慌てて、
「違います!俺じゃないです!!あいつらです!!!」
そう言った。
なんだ、そうなのか。
もし彼が粗相をしてしまったのなら私が綺麗にしてあげようと思ったのに。
ちょっと残念な気がしたのは内緒だ。
けど、私の方は下着を替える必要がありそうだった。
それから数日は何事もなく過ぎていった。
そして、1週間程たった日。
柏木君がレジで接客をしていると男達はやってきた。
今度は6人もいる。その内の幾人かは確かに先週この店でトラブルを起こしたガラの悪い男達だった。
彼らは柏木君に何事か話すと、柏木君は彼らの先に立ってお店を出て行った。
窓から姿を追うと店の裏側に行ったようだ。
私はしばし逡巡する。警察に連絡するべきだろうか。
でも柏木君は随分と余裕がある様子だった。
私が決めかねてウロウロとしていると柏木君が戻ってきた。
私が問いかけると、
「大丈夫ですよ。ちょっとお話したら逃げちゃいました」
と苦笑いをしながら教えてくれた。
見かけによらないと言ったらいいのか。彼は随分と剛胆で男らしいと感じる。
どうしようか。
彼の腕に抱かれてみたいという欲望がひしひしと沸いてくる。
口惜しいが歳の差もあるから彼の女になるというのは少々厚かましいかもしれない。
結構モテそうな感じがするし、でも少しくらい私に手を出してもらえないだろうか。
出来れば少々乱暴なくらい荒々しく求められたい。
縛ったり叩いたりしてくれたりはするだろうか。
何とか計画を練ってみようか。
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今回はここまでとさせていただきます。
ここから以降は毎日17時更新となります。
もし、作品を読んで興味を持っていただけたなら、古狸の別作品、
「実家に帰ったら甘やかされ生活がはじまりました」
「2度目の異世界は周到に」
のほうも是非読んでいただけるとうれしいです。
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