第5話 勇者の魔法Ⅳ
「ふぅ」
俺は不気味な笑顔を崩さない白髪白衣の老人人形の横を通り過ぎつつ息を吐いた。
久しぶりだったんで食い過ぎたらしい。
やっぱバーガー+チキン6
ファストフードってガッツリ食べようと思うと結構な金額になるんだよなぁ。
この後服もいくつか買わなきゃならないのに困ったもんだ。
このあたりは街の中心街なんでバイクを適当に駐めて歩きで移動する。
そして、宝くじ売り場が目に入ったときちょっと試してみたい事ができたので寄ってみる。
「スクラッチくじ下さい、10枚」
そう言うと売り場にいた女の人が愛想良く出してくれるが、
「あ、すいません。選んでいいですか?」
「いいですよ~」
笑顔で応じて、10袋くらい並べてくれる。
俺は素早く『鑑定』を起動する。
『鑑定』
スクラッチくじ(10枚組)
特定の場所を削って確認するくじの一種
販売金額 2000円 当選金額 200円
うん、予想通り中身が判らなくても『鑑定』できる。
俺は怪しまれないように素早く確認していくと、
『鑑定』
スクラッチくじ(10枚組)
特定の場所を削って確認するくじの一種
販売金額 2000円 当選金額 50200円
BINGO!
目当ての物が見つかったので、それを選んでお金を払った。
くじを受け取った俺は売り場の横にある空きスペースでスクラッチを削ると、間違いなく1等50,000円、末等200円の当選くじが入っていた。
直ぐさま売り場に出すと女の人がにこやかに
「おめでとうございます。すごいですね!!」
と祝福してくれた。
「ありがとうございます」
お礼を言ってお金を受け取りその場を離れる。
すげぇ、これって、とんでもないことだよね。
貧乏学生にとっては5万円は大金だ。それだけのお金が一瞬で手に入ったことで思わず高揚するが、少しして上がりまくったテンションが冷めてくると途端に不安になってくる。
……でもこれって、『絶対バレ無い万引き』みたいなものと一緒じゃね?
値打ち物を見つける目利きに『鑑定』を使うならともかく、現金受け取る宝くじでズルは駄目だよなぁ。
うおぉぉぉ!そう考えると罪悪感ハンパねぇぇ!
うん!絶対に2度とやらない!!
何か、人として間違った方向に行ってしまう気がする。バレようがないってだけで、どう考えても犯罪だし。そこまで開き直って金儲けに邁進することはできそうにない。基本的に小心者だしね。
とはいえ、今回のは返すこともできないのでさっさと散財することにしよう。理由を説明できないし。
「忙しいって言ってるでしょ!どいてよね!!」
俺が自分の内面と葛藤していると、聞き覚えのある怒声が響いてきた。
あれま、茜と、あれは奈々ちゃんだっけ、2人がナンパと思しき3人組に絡まれてる様子が目に入る。
2人とも結構見た目が良いんでよくナンパされる。みたいなことを以前茜が言ってたけど、本当だねぇ。
ただ、今回はちょっと相手のガラが悪そうだ。
「よう!どうした?」
何気ない風を装って茜に声を掛ける。
俺と目が合うと喜色満面になり、
「裕哉!遅いよ!!」
そう言いやがった。この野郎、俺にコイツらの処理丸投げする気でいやがる。相変わらずいい性格してんな。
「んだよテメー!邪魔すんのか?あ?!」
ま、当然こうなるわな……
一応、念のために相手を鑑定してみる。
名前 佐藤一郎 種族 人間
レベル 8
HP 85
MP 4
力 40
素早さ 12
知性 20
体力 40
運 10
攻撃力 30
防御力 20
ステータス低!
マジ?こっちの世界の人ってこんな低いの??
一応念のため他の2人のステータスを見てもほぼ同じくらだった。
いくら
これじゃぁ、迂闊に喧嘩なんかしよう物なら軽く撫でただけで相手を殺しかねん。ヤバいヤバい、ぶるぶる……
とりあえずは荒事は抜きな方向で何とかしてみよう。
にしても、今時こんな時代錯誤な絡み方をする奴が
「まぁまぁ、そう言わずにこれ見てみ?」
そう言いつつ財布から500円玉を取り出して、茜たちから見えない位置且つナンパ野郎達からは良く見える位置に移動して、相手に見せつける様に三本の指で硬貨を握り潰す。
綺麗に二つ折りになった500円玉を見て固まるナンパ野郎共。
ところで、500円玉を曲げる握力って何キロくらいなんだろ?故大山倍達さんが10円玉を指で曲げたって話があったっけ?
でもこれ、うまく潰せたからいいけど、失敗してたらすっごく恥ずかしいよね。今度からはやる前に試してからにしよう。うん。
「そういうわけで、ここは勘弁してもらえるかな?」
言いながら、その内の1人の手の上に曲げた硬貨を落とす。
「はい!すいませんでした!!」
ナンパ3人組はすぐさま気を付けの姿勢で頭を下げると逃げるように離れていった。ようにってか、確実に逃げてるね。
うん、素直で実によろしい。
改めて茜たちに向き直ると、奈々ちゃんは純粋な感謝の表情を、茜は何やら胡乱げな視線を投げかけてくる。
「何したの?」
「ちょっとお話ししたら分かってくれたみたいだねぇ。いや~良かった良かった」
俺が茶化すように返すも、茜はさらにジト目で睨んでくる。
「で?な、に、を、し、た、の?」
誤魔化されてくれないらしい。っていうか、怖いです茜さん。
考えろ!頑張れ俺!
「い、いや、バイト先で知り合った、昔この辺でヤンチャしてたって人の名前出しただけ」
うん。何とか不自然じゃない言い訳をひねり出せた。
「ふ~~~ん。まあ、いいか」
まだ何か納得いかなげな表情をしつつも引き下がってくれた。
やれやれ。頑張ったな俺。
「あの、ありがとうございました」
奈々ちゃんが丁寧なお礼を言ってくる。
相変わらず大人しい娘だね。少しは茜も見習えばいいのに。って思ったら茜がスネ蹴ってきやがった。何故わかった。
「んで?アンタは珍しくこんな所でなにやってるの?」
「服を買いに来たんだよ。いつの間にやらサイズが合わなくなってるのが多かったからな」
「ユ○クロ?」
「ああ」
「選んであげようか?私達もヒマだし、ス○バで良いから」
たかる気満々かよ。
まぁ、でもそれも良いか。
「いや~悪いわねぇ~!晩御飯までご馳走になっちゃって!」
「たっぷり感謝しやがれ」
ご機嫌な茜にそう応じる。
「私まで出してもらって本当に良いのかなぁ。あの、せめて半分は出します」
「美味かった。満足」
奈々ちゃんは遠慮しないで良いからね。それと亜由美は少しは遠慮しなさい。たっぷり3人前とデザートまで2個も喰いやがって。流石にその食欲にビビったわ。
元々の人数よりも増えてるが、これは服を買った後適当にブラついてたら、茜と奈々ちゃんが今日は晩御飯をどこかに食べに行くという話が出たので資金に余裕があった俺もご一緒することに。
んで、亜由美に『金は後で出してやるから晩メシはどっかで食ってこい』とメールしたら、部活が休みだったらしい亜由美が強引に合流してきたというわけだ。
まぁ、たまにはこういうのも楽しくていいか。
まだ時間は7時を少しまわったところだがそろそろ帰ることにしよう。
ドン!!キキーーー!ガシャーン!!!
バイクを置いておいた場所に歩いていく俺たちの前方から凄まじい音が響いてきた。
俄かに周囲が騒然とする。どうやら交通事故のようだ。
人混みでここからだと見づらいが制服姿の女の子が道路に倒れているのが見えた。
一瞬逡巡する。今の音からするとかなりの怪我をしている可能性が高い。俺なら魔法で助けられるかもしれないが、周囲に人も大勢いるし茜達もいる。この状況で魔法を使うのはリスクが高すぎる。
しかし、使わなければもしかしたら死んでしまうかもしれない。少し見えた制服は亜由美と同じ学校の制服に見えた。もしかしたら亜由美の友達かもしれない。どうすればいい?
思考がゴチャゴチャとしてまったく纏まらない。
ええい!考えるのは後だ!!
今は自分に出来ることをする!
「亜由美と奈々ちゃんは救急車と警察に連絡して。茜は事故の相手の様子を見てくれ」
「ん、わかった」
「じゃあ、私が警察に電話します」
「こっちはわかったけど、裕哉は?」
「俺は怪我人を」
時間が惜しいのですぐに俺は歩き出す。
まず、自分に認識阻害の魔法をかけ、周囲の人間の意識に掛からないようにする。それから周囲を『探査』してケータイやカメラを向けている奴を確認。ってか、こいつら人が怪我してるってのに救急車も呼ばずにカメラで撮影って、どんな神経してんだよ!
ムカついた俺はカメラ&ケータイ(スマホ含む)目掛けてピンポイントで『雷撃』を叩き込む。
途端にさけび声やら怒号やらが聞こえてくるが無視だ!無視!!
この程度の『雷撃』は目に見えないからな。バレやしない。
人垣を掻き分けて倒れている女の子に駆け寄るとすぐに怪我の状態を魔法で確認する。
まだ息がある。大丈夫。俺なら間に合う。
頭蓋骨骨折と内臓損傷、飛ばされた時に引っ掛けたのか顔と腕に深い切創もある。かなりの重傷だが幸い脳は大丈夫のようだ。
重傷の部分から『治癒』をかけ、顔と腕の傷もすぐに消える程度の深さまで『再生』させる。周りが血まみれになってるから完全に治してしまうのはマズい。けど、女の子に傷を残すのも可哀想だからね。
頭からも出血してるが見えない位置だし、内側は『治癒』したからこれはこのままでいいだろう。
「うぅ……」
少し意識が戻ったのか女の子が身じろぎする。
「大丈夫。すぐに救急車が来るからこのまま動かないで」
俺はそう言うと『認識阻害』を解除する。程なく亜由美と奈々ちゃんが近寄ってきた。……そういえば事故の相手は?
俺がそんな風に考えてると、
「あ~あ、ついてねぇなぁ」
そんなことを言いながら若い男が近づいてきた。
「あんたねえ!相手は怪我して倒れてるのよ!何考えてるの?!」
茜がブチキレてる。
「チッ!るせぇな、てメェにゃカンケーねーだろうが」
聞こえないようにだろう、小声で男が呟いたのを、生憎鍛えられた俺の耳はしっかりと拾っていた。
その瞬間、俺は男の胸倉を掴み、片手で吊り上げる。
「言いたい事は、それだけか?」
「な?!ぐっ……」
呻く男に構わずさらに殺気を込めていく。
男の顔は引き攣り真っ青になる。
「裕哉!落ち着いて!!」
大丈夫俺は十分落ち着いている。とりあえずコイツは一瞬で蒸発させてしまうとしよう。
「裕哉!!」
茜がしがみついてきて、その結果俺の上にポヨンと当たった胸の感触で少し意識が逸れる。コイツ意外とあるのな。
救急車のサイレンが近づいてきたので、無念だがが男を放す。
茜は少しホッとした顔をしている。ん~、ちょっと心配かけたか?
どうやら警察官も来たらしい。周囲の事故を目撃したらしい人たちが口々に状況を警官に話している。
曰く、「信号無視して減速せずに跳ねた」だの「止まっても車から降りずに電話してた」だの、ロクでも無いにも程がある。やっぱり殺っておくべきだったか。
まぁ、離す時にちょっとした罰は与えておいたけどな。
女の子は無事救急車に乗せられたらしい。まだ意識は朦朧としているようだが大丈夫だろう。
せっかく楽しく食事ができたのに最後に随分と胸糞悪くなってしまった。
さっさと家に帰って風呂でも入ろう。
俺はバイクで帰るので亜由美を先に帰らせようとしたが、ちゃっかりと予備のヘルメットを持ってきていたらしい。抜け目の無い奴だ。
スカートだったからタンデムは無理だと言ったんだが『キュロットだから大丈夫』とのこと。キュロットってなんだ?
バイクを車道まで出してから跨る。亜由美もタンデムシートに乗って俺の腰に手を回した。
「じゃあまたな。奈々ちゃんもまたね」
「あ、裕哉……」
茜が何か言いたげにしていたが結局何も言わずに笑顔になり手を振ってきたので、振りかえしバイクを発進させる。
10分程度の移動で到着。ガレージにバイクを停めて家に入る。
亜由美が部屋に戻るために階段を上りかけて振り返り、
「兄ぃ、かっこよかったよ」
そう言ってまた上っていった。
ちょっとだけ気分が良くなった俺は風呂の準備をするためにリビングに入っていった。
単純?そうかも。
そうそう、忘れずに母さんの食事も準備しとかないとね。
結局早くも街中で魔法を使ってしまったが、多分大丈夫だろう。気にしないことにする。
魔法を隠すためにあのまま放置とかしたらその方がよっぽど後悔することになっただろうし、細心の注意は払ったしね。あとは野となれ山となれだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます