第4話 勇者の魔法Ⅲ
翌日早朝、魔法を検証するためには人に見られる訳にもいかないので、人の住んでいないだろう山の中にバイクでやってきた。
ちゃんと亜由美と母さんの朝食は用意しておいたから問題は無いだろう。
奥多摩近辺の山道をバイクで行けるところまで上り、道が途切れた所からは徒歩でさらに登ってきた。
やっぱりフィジカル面がおかしな事になってるな。
相当な早さで道のない山の中歩いても息一つ切れないし疲れもない。ってか、気を付けないと力を入れて踏み込んだ時に地面が抉れて大穴が開く。身体強化してない状態でこれってヤバ過ぎるだろ。
この分じゃ
Wow!!オリンピックで金メダル総ナメに出来るな。確か、100メートルの世界記録がトップスピードで時速40キロちょいだっけ?今の俺なら平均時速60キロ以上で数十キロは余裕で走れるし、垂直跳びで5メートルはいける。
うん、間違いなく人間辞めてるね。
微妙に鬱な気分になりながらさらに進むと木々が低い灌木になり見晴らしが良くなる。森林限界っていったっけ?
急に高い木が無くなって岩肌が剥き出しの所も多い。標高はどれくらいなのかね?
麓や山道から死角になる場所を探す。
尾根と尾根の谷間になっている丁度良さそうな場所を見つけたのでココで検証をしてみようと思う。日陰になることが多いのか岩ばかりで植物がほとんど無いのも都合が良い。環境破壊は良くないからね。
……既にこの時点で魔法が使える事を前提として考えてるのが、何とも……
まずは、足場を確保するために地魔法を使って地面を馴らす。
そして重力魔法で一抱えはありそうな岩を3メートルほど離して設置。
『ファイヤアロー』『アイスランス』『ウォーターバレット』なんかを一通り試す。
「はぁ~~~~~~……」
盛大にため息を吐いた。
いや、何かさぁ、ラノベとかだと地球は魔力?魔素?とかそう言う物が殆ど無いから魔法が殆ど使えないし、使えても威力は低い~、みたいなそんな感じでしょ?
俺もソレを期待してたわけよ。
確かにね。そりゃ俺だって必死に、それこそ死に物狂いで身に付けた魔法が使えなくなったりしたら、結構寂しいよ?
でもさ、明らかに日本(こっち)じゃ魔法なんて過ぎた力だよね。
日常生活は科学の力で
魔法が使えるのは便利かもしれないけど、もしバレた時のことを考えるとリスクが大きすぎる。完全に信じる奴は少ないかもしれないけど、それでも騒ぐ奴はいるだろうし、利用しようとする奴も出てくるに違いない。
いくら強くて魔法が使えても、俺が一人で出来る事なんて高が知れてる。家族や友達も巻き込む事になるだろうし、法律や情報技術の進んだ現代社会じゃ、
よし!魔法は出来るだけ使わないようにしよう!!
……え?最初と変わらないって?……世の中そういうもんよ?……
若干肩を落としながら次にアイテムボックスの確認をする。
ウインドウに表示される物の中から大きい物から小さい物まで適当に出し入れするとこちらも
アイテムの効果なんかは検証のしようがないけど、使う事なんてまず無いだろうから、まぁ、いいか。
だって、武器なんて持ってるだけで捕まるだろうし、甲冑やその他の防具に至ってはコスプレか末期の厨二病患者認定間違いなしだろうね。イタ過ぎる。
他にもドラゴンの鱗や牙等の魔物素材、ミスリルやオリハルコンの
宝石や貴石、金貨・銀貨、その他の宝物もあるし、地魔法の錬成を使えば加工も出来るだろうけど、入手方法を説明&証明出来るわけが無いから文字通り宝の持ち腐れにしかならん。売る事が出来たら数億~数十億円位になりそうなんだけどなぁ……少量ずつ加工してネットで売ればバレないかな……
ポーション類や毒消し、状態異常解除薬、エリクサーまであるけど、これも使い道はないだろう。こんな怪しい薬を飲む奴が居るとは到底思えない。怪我をした動物とかが居たら使ってみるのも良いかもしれないけどな。一応効果だけは機会があれば試してみたいとは思う。
もしエリクサーなんかをこっちの材料で創ることができたらノーベル賞確実に獲れるだろうね。何せ瀕死でも全快できるんだから。いや、試さないよ?ちょっと想像してニヤニヤするだけで。
取り敢えず殆どの物はアイテムボックスの肥やしにすることに決定。
出すにはヤバ過ぎるものばかりだし、収納量にも上限ないから不都合はないしね。
どうやらこっちの世界の物品も出し入れすることが出来るようだから、バレなければかなり便利なんだろうけど、どうするかね。
一通りの検証が終わったが、最後に検証しておかなければならない魔法が残っている。
『召喚魔法』
俺が
『召喚魔法』とは『従魔』と『空間』の複合魔法で、
その中で万が一召喚できても影響が少なく分かり易い奴を召喚してみよう。
流石に世界が異なるから召喚魔法だけはうまくいくとは思えないが念のためだ。
魔力を操作し召喚の魔方陣を描く。
「
魔法を唱え、しばし待つ。
二秒、五秒、一〇秒、三〇秒・・・
一分近く経っても変化は訪れない。
うぉ~~!!何か厨二チックで恥ずい!
今の自分の言動と何も起こらない現実に羞恥心がMAXになる。
いや、無理だとは思ってたよ?寧ろ成功しない方が良いんだよ?
それなのにこの、やっちまった感は何だ?今のを誰かが見てたとしたら、俺はそいつを存在ごと消滅させる自信があるね!俺の中にこんな黒歴史はいらん!!
そんな風に俺が悶えてると、そのままになっていた魔方陣が突然起動し、2メートル程の黒い影が表れる。
影は直ぐに集束し大きな狼の形をとる。
その狼が俺の姿を見るやしっぽをブンブン振りながら俺にのし掛かり顔を舐めまくってきた。
「ハ、ハハハ……」
こんなのアリ??
俺は乾いた笑いを浮かべながらしばし呆然とするしかなかった。
どのくらいの時間呆けていたのかは判らないが、いつまでも茫然自失って訳にもいかない。
そうでなくても2メートル近い巨大な黒い狼に顔中舐め回されてデロデロになってる。
しかもコイツ当然歯なんて磨いてないから結構唾液が臭いんだよ。勘弁してくれ。
とにかく狼を引き離して、水魔法で顔を洗う。
俺はなんとか気を取り直して改めて狼を見やる。
2メートル程の巨大な黒い狼。『シャドーウルフ』と呼ばれる幻獣の一種で異世界でも相当強力且つレアな魔物だ。
影の中に身を隠す事が出来、影の中に居るときは攻撃不可能。影から影へ一瞬で移動することも出来るという凶悪なスキルを持っている。知能もかなり高く、話こそ出来ないが人語を解することもできる。
魔王の造った迷宮に居たのを何とか倒して従魔契約をした。その時に『影狼(かげろう)』って種族名そのまんまな名前を付けてからの付き合いだ。従魔の中では最古参となる。
影狼は少し離れてしっぽをフリフリしつつ大人しく座ってこちらを見ている。
「あ~、悪かったな、急に呼び出して。別に用があったわけじゃ無いんだが、こっちの世界に帰って来ても呼び出せるか試しててな」
「キュ~ン」
影狼は『問題ない』と言いたげにしっぽを振りながら鳴く。
威圧感のある外見とは裏腹に仕草は大きなワンコそのものでかなり可愛い。
「
「ガゥ!」
俺がそう切り出すと、影狼は不満気に唸る。
まぁ、契約解除しなくても元に送還すれば従魔達も普通に生活?出来るんだが、どうせなら契約を解除した方が
仲間達にも可愛がられていたから今更人を襲ったりはしないだろうし。
普通は従魔と契約者の間には魔力的なパスが作られて繋がりが知覚できる。相手迄の距離や生死などは召喚するまでもなくお互いに判るらしい。
今回は別の世界からの召喚だったからかパスを知覚できなかった。
だからこそ召喚魔法は成功しないと思っていたのだけど、どうやら違うらしい。
召喚までに時間が掛かったのも単に世界が異なるからということになるんだろう。
どちらにせよ、迂闊にその他の召喚獣を呼ぶわけにはいかない。特に他の奴はやたらでかかったりちょっと問題あったりするからなぁ。
アイテムボックスに入っていた乾し肉を影狼の大きな口に放り込んでから送還する。
呼んだばかりで直ぐに帰すのが不満そうだがしょうがない。また機会とバレない場所を見つけたら呼んでやることにしよう。
全ての検証が終わり、周囲の状態を元に戻して帰る事にする。
何か一気に疲れた気がするので、『転移魔法』でバイク近くの森に移動し、誰にも見られていない事を確認してからバイクに乗り込む。
スマホで時間を見るとまだ昼前だった。
途中でケン○ッキーでも寄って昼食にするとしよう。
その後は服を買いに行かなきゃならない。随分と服が着られなくなってしまったからな。
はぁ、金が……
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