第3話 勇者の魔法Ⅱ
「なんで魔法が使えてるの?!」
俺は思わず絶叫した。
いや、当然だろ?完全に想定外だよ!
OK,取りあえず落ち着こう。
まずは深呼吸だ。
「ヒー、ヒー、フー。ヒー、ヒー、フー」
うん、当然のようにベッタベタなラマーズ法だね。
大丈夫!ノリツッコミが出来る程度には冷静だ。
取りあえず、『ライト』以外の魔法が使えるかの確認をしよう。
部屋を燃やすわけにもいかないから、まず極々小さな『ファイヤ・ボール』を出してみる。
……出るな……
次に、風魔法を使ってみる。
……うん、机の周りがめっちゃくちゃになったね……
次に『鑑定』の魔法を親父が俺の大学入学祝いに海外で買ってきてくれた腕時計に掛けてみる。
『鑑定』
タ○・ホイヤーのリストウォッチ(偽物)
主にアジアやEU、中東等で出回っている粗悪品
軽くぶつけただけで防水機能は失われる。
取得額800$ 商品価値12$
うぉい!親父しっかり騙されてるよ!
相当大事にしてたのに。しかも価値が1200円かよ!
頼むから正規店で買ってきてくれよ……俺に渡したときのドヤ顔は何だったんだよ……
かなり落ち込んだがお陰でちょっとだけ冷静になれた。気がする。
気を取り直して自分のステータスを確認することにした。ってか、普通まず最初に気がつけよって感じだけどな。
「ステータス」
俺が小声でそう唱えると、ウインドウみたいな画面が視界の隅に入ってくる。
レベル 876
HP 8910/8950
MP 5475/5490
力 950
素早さ 900
知性 860
体力 965
運 450
攻撃力 730
防御力 655
スキル 魔法(火・水・風・土・光・闇・空間・重力・治癒・従魔・付与)
うん、とんでもないね。
俺の記憶よりもレベルが100近く上がってるが、これは邪神を倒したからだろうなぁ。
こっちの普通の人のステータスなんて判らないから数値は何とも言えないけど、スキルの魔法があるってだけで普通じゃない。
次にアイテムボックスも確認する。
アイテムのウィンドウも無事(?)開ける。武器防具やらポーションやら
いや、おかしくね?
テンプレ通りならこっちに帰って来たとたん力も失って、その内異世界の記憶も薄れて『夢だったのかもしれない』とか思いながら日常に戻っていく、ってのが普通だよね。だよね。
よし!何が切っ掛けか、異世界での記憶を掘り起こしてみよう!
えっと、まず、大学の部室に一人でいたときに召喚魔法で聖女様(メルスリア)が召喚、それに力を添えて『収納』と『鑑定』、『言語理解』だけで碌なチートもつけずに厄介ごとを押しつけたのが
……うん、さっぱり解らん。
そもそも、最初から最後までほぼ某有名RPG丸パクリなテンプレストーリーを踏襲しておきながら、エピローグでテンプレ外すってどういう事よ!
考えられるのはあのクソ女神がまた何かやらかしたっての位だけど、今となっちゃ確認のしようがない。
まぁ、魔法を使わなきゃ良いんだろうけど、
とにかく、魔法やアイテム関係を全部使えるかどうかとか、身体能力の検証もしておいた方が良いだろう。
どうにかして誰にもバレないようにしないとヤバそうだ。
けど、俺、嘘が下手なんだよなぁ、特に茜や
「はぁ~~~~」
とりあえず、今は考えてもどうしようもないから気分を変えよう。
まずは、部屋の電灯を着けて『ライト』の魔法を消す、散らかってしまった部屋を適当に片付けてから着替えるために服を脱いだ。
ハーフパンツを履いて何気なくクローゼットに付いてる姿見を見る。
久しぶりに自分の身体を見ると3年前とは明らかに体型(体格?)が違う。
全体的に引き締まって筋肉でビルドアップされてる感じ。
特に下半身と肩周り、腕の太さがヤバイ。ボディビルダーみたいな不自然な筋肉じゃなく、みっちりとしなやかな筋肉が覆っている。肉体労働者の筋肉に近いかもね。
しかも、身体のあちこちに傷跡が残ってる。魔力の消耗を避けるために動きに支障のない怪我はろくに治療なんてしなかったからな。まぁ、元々バイクでコケた傷も結構あったし、大して気にしない。男だし。
ナルシーの気は無いと思うんだけど、ちょっと自分の体格が格好良く見えた。見せる相手が居ないのが残念だ。
コンコン、ガチャ
ドアがそんな音と共に開く。
いや、ノックの意味がまるでないじゃんか。
入ってきたのは妹の亜由美だ。まだ梅雨も空けていないというのに黒く日焼けしている。いや、シ○ル・マツ○キほどじゃないけどね。
水泳部とはいえ、将来シミに苦しめられそうな気がする。どうでも良いが。
「兄(に)ぃ、お腹すいた」
開口一番そんなことを宣いやがったぞこの妹は。
「俺も帰ってきたばかりだからちょっと待ってろよ。それと、ノックと同時に入ってくるな!」
「兄ぃに彼女が出来たら考える。……10年後くらいに」
ちょっと待て。それは彼女が出来てから10年後に考えるって事か、それとも俺に10年は彼女が出来ないってことか、どっちだ?
俺が
「兄ぃ、何かヤバい薬でドーピングでもした?」
「するか!」
微妙に鋭いようなそうでもないような事をのたまう亜由美に表面上なんとか繕いながら言う。
これ以上この事を引っ張られるのも困るので、さっさとTシャツを着替えて夕食を作るために部屋を出た。
家(うち)は母さんが看護師なんで不在な事が多くて、昔から家事なんかは俺がすることが多かった。
特に料理は中坊の時から母さんが準夜、夜勤の時は俺の仕事だったからな。
台所に立ち、取りあえず冷蔵庫の中を確認する。
牛肉とタマネギ、他に味噌汁の具になる食材を取り出す。ご飯もしっかり炊けてる。
よし!簡単だけど牛丼にしよう。ご飯を食べるのも3年ぶりになるからテンション上がるね。
準備をしていると、亜由美がダイニングテーブルに着きながらじっとこっちを見て出来上がるのを待っていた。手伝う気は全くないらしい。考えてみればコイツはそう言う奴だったっけ。兄として妹の将来が不安になる。
「先に風呂でも入ってきたらどうだ?」
「シャワー浴びてきたから」
俺の薦めに亜由美がそう答える。何か非常に誤解を呼びそうな返答だが、コイツに限ってはソレは無いな。
微かな殺気を感じて視線を上げると箸を投げつけてきやがった。
人差し指と中指で受け止める。
「あぶねぇな!」
「すっごく失礼な事を考えてた」
「勝手に心を読むな!」
「フン!」
亜由美は不満げな表情で俺を睨みつけるとそっぽを向いてテレビの電源を入れた。
まったく、危うくとっさに北○神○二指○空把を食らわすところだったぞ。身体にも色々と染みついていそうだから油断できないね。
それにしても、この性格さえ何とかすれば彼氏の一人や二人すぐにでも出来そうな気がするんだがねぇ。まだ中坊とはいえ結構見た目は悪くないんじゃないかと思うんだが、身内贔屓かね。
食事が出来上がり亜由美の向かい側に座って食事をする。
ヤベェ、美味すぎる。泣きそう。
表情に出さないように必死に堪えながら牛丼を頬張り味噌汁を飲む。
戦後じゃあるまいし、食事で泣くわけにはいかん。これ以上妹に変な人を見る目で見られたくはない。いや、今も戦後っちゃ戦後だけども。
亜由美の学校の愚痴やら部活の話を適当に聞きながら食事を終え、風呂に入ることにする。
一応洗い物は妹が担当なんで丸投げする。
終わったら後は適当に過ごすだろう。
あっさりし過ぎ?いや、兄妹なんてこんなもんだろ?家はわりと家族仲が良い方だとは思うがね。親父は知らんが。
部屋で明日以降の予定を確認してから大学の勉強の復習に手を着けていると、母さんが帰ってきたので牛丼と味噌汁を温め直して出してやった。
母さんは特に俺に違和感は感じていないようだった。よしよし。
『眠れない』かなと思っていたのに、ベッドに入って直ぐに記憶が途切れた。
うん、どうやら結構疲れていたらしい。主に精神的にね。
取り敢えず明日は大学を自主休講して魔法とアイテムボックスの検証をしてみよう。
どうせ今の状態じゃ講義についていけないしな。
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