3rd_code irregular

う……ここは?寝ていたのか?

ぼやけた見知らぬ風景に辺りを見渡すと小汚い壁に囲まれている小さな部屋にいるようだ。

たしかAdminのやつらとやりあって……

そうだあの氷女と!

今すぐ焼きつくしてやる!

そう思い身体を動かそうと思ったのだがいくら力を込めても身体が動かないことに気が付く、何が起きている?!

目線を下に向けると手足は頑丈な金属製の拘束具のようなもので拘束されていた。

チッ、俺が負けたってことか。

そのような記憶はないが現状拘束されているのを見るに敗北したと考えるのが妥当だ。

氷女に何か致命的なものを食らった覚えはない。となるともう一人いた何をしたかわからねぇ男の方か。

どちらにせよ俺をその場で始末しなかったことを公開させてやる必要があるようだ。

こんなゴミみてぇな拘束はすぐに灰にしてやろう。

俺は右手に力をこめ拘束を焼き切るイメージをする。

しかし焼き切るどころか煙すら立たない。

くそっ!

そうして30分だろうか1時間だろうか拘束を破ろうと無理やり足掻いていると部屋に一つあった頑丈そうな扉がぎぃーっと重たく引きずったような音をたてて開かれた。

「やぁ起きたようだね」

開かれた扉から入ってきたのは中肉中背で白衣のような上着を羽織っている髪は男性にしては長い方だろうが寝ぐせなのか髪先はあちらこちらを向き整えているとは思えない。

首からはAdminと書かれたネームプレートのようなものを下げていることからやはりここはAdminの施設で合っているようだ。

となると、こいつはWorldHackerか?身なりからするとただの研究員という可能性もありそうだ

「てめぇ俺に何かしやがったな?」

今すぐにでも掴みかかろうと拘束の中で足掻くが拘束は緩みもしない。

「クソが」

「まぁまぁ、そうカッカしないで」

「一応確認ね」

「名前は赤神白兎、珍しい名前だねー。いや、いい名前だ。名は体を表すじゃないけどその右足の跳躍の力にピッタリだ」

こいつ俺のバグの内容を知っているのか!?

「寝てる間に簡単に調べさせてもらってね」

「続けるよ」

「よいしょ……うーん…うんあった」

しばらく両ポケットをあさっていた男はくしゃくしゃの丸まった紙を取り出すとそれを広げた。

「右手のかざす動作にburn()のバグ」

「右足の蹴る動作にleep()のバグ」

「で、合ってるね?」

動作もバグの詳細も合っている。Adminの技術力も流石といったところだろう。

俺は肯定も否定もせず強くにらみつける。

「右手のburn()は名前から推測するに何かを燃やす能力なのかな?」

「危なかったねぇ今は封じさせてもらってるけどそのままだったら今頃ここは火の海だ」

チッ、今すぐこいつを火だるまにしてやりてぇ。自然と右手に力がこもる。

「次に右足のleep()こっちは跳躍の能力であってるかな?」

「何かを蹴り飛ばしてもよし、自分に使うと大きくジャンプできるのかな?攻撃にも逃走にも使えそうないい能力だね」

こいつ、使い方まで正しく知っているのか?

「まぁ、でもこの辺のバグは簡単に検査できるんだけど、さすがに記憶を解析するのはコストが高くてね」

「しってることを教えてほしいわけさ」

情報収集か。俺の生かされている理由はそれらしい。

「俺は何もしゃべらねぇぞ!」

「まぁまぁ、そう言わずに」

「僕のことも教えてあげるからさ、友達になろうじゃないか」

「舐めてんのかクソが!」

「まぁまぁおちついておちついて」

そういいながらなだめる様に両手を此方にかざし下げるしぐさをする。

「僕の名前は久世因幡、因幡っていったら白兎だよね。君の名前と相性いいと思うんだけどどうかな?白兎君?友達にならないかい?」

チッ!相手をしてやるのもムカつき、大きな舌打ちで返す。

「やったね無言は肯定ってことでいいよね?これからよろしく」

クソがどういう頭の作りしてやがる。

「まずは君の所属組織を知りたいなー?君はどこから来たのかな?」

「Exception?Irreguler?もしかしてMagicUsers?」

「うーん、MagicUsersは能力的に違うかな?」

「それじゃException?」

「Irreguler?」

チッ

「MagicUsers?」

ひとつずつ大きな抑揚をつけていてイライラさせられる。

「ん-反応の感じIrregulerかな?」

「は?ちげぇよ!お前の聞き方にイラついただけだ!」

「ほんとかなぁ?」

「まぁいいや、とりあえず今日は挨拶だけ予定だからまた後日ゆっくり話そうじゃないか」

「ふーむ、Irregulerか、となると最近の炎上事件はアイツの計画ではないのか……(ぶつぶつ)」

何やらぶつぶつ言いながら持っていた紙をまた元のようにくしゃくしゃに丸めるとポケットにしまい織田は部屋の出口へと向かう。

「おい!まて!」

「ん?もしかして何かしゃべる気になったかい?」

「トイレに行かせろ」

「なんだ、そんなことか。残念だよ」

がっかりだと両掌を上に向ける。

「おい早くしろ!」

「わかったわかった僕たち友達だもんね?」

「気づかなくて悪かったね」

「おーい、だれか白兎君をトイレに案内してあげてくれ」

片耳につけられた装置を指で何やら操作してそう呼びかけると、しばらくして別の職員が到着した。

「それじゃあ、またね。つぎはもっといろいろ話してくれると嬉しいな」


織田がそういって部屋を出てから新たに到着した職員に一時的に拘束を解かれ男子用トイレまで案内された。

もちろん職員は丸腰なんてことはなく拳銃のようなもので武装している。

「早く済ませろ」

と職員が扉の前で止まったのでトイレに入ると扉を閉めた。

急いで個室に入りカギをかけると手早く右耳からピアスを外し先端のキャップを外す。

左耳につけていたはずの同じピアスはどこかに落としたのか今確認するとそこにはない。

ピアスは綺麗な赤色の宝石のような石を金のフレームが囲んでいて先端には3つの細長い端子が飛び出ている形状だ。

俺は赤い宝石部分を右手で摘み左手に鋭利な端子を突き刺す。

しばらくして宝石部分が赤く光る。

undo()

元に戻す

このピアスに施されたバグの名称だ。

その名の通り端子を刺したインスタンスをひとつ前の更新状態に戻すことができる。

俺は必要ないと断ったのだが、もしものためにと組織から渡されていたのが功を奏したというわけだ。

はっ情けねぇ話だ。

もちろん何度でもなんて便利には出来てない。この小さいツールに付与できる処理能力は限られているのだ。

だが何らかの操作で能力が使えなくなったということはこのundo()の効果でburn()かleep()のどちらかの操作は解除されたはずだ。片方だけでもバグが使えりゃここを地獄に変えてやるぜ。

便器の水の上で右手をかざすが炎が発生することはない。となると使えるのは右足のleep()か。

ドンドンドン!

「おい、まだか?」

ちょうど催促がきたので俺は叩かれたトイレ出口の扉に思いっきり蹴りを叩き込んだ。

ドン!!

大きな音と共にトイレのドアが吹き飛んで職員を押し潰して……ない?

扉は少しへこみはしたが扉は閉ざされたままだ。

おかしいleep()が発動していない?

なぜだ?ピアスの動作は完了したはず!

「おい!おまえ!なにしてる!」

職員は突如行われた暴挙にドアを開け銃を構えながらトイレに入ってきた。

チッ、能力は使えねぇがやるしかねぇ。

俺は咄嗟に隠れた部屋の隅から飛び出すと、構えられた銃を右足で蹴りあげ弾き飛ばす。

蹴った時にちょうど足と銃の間に挟まれたのだろう職員は右手を左手で押さえている。

空かさず職員の後ろに回り込むと首に手を伸ばし、それを両手で締め上げた。

「ぐ!ぐががが!」

しばらくすると暴れていた職員も身体の力が抜ける。

なんとか成功か。

転がった銃を拾い上げて弾倉を外してみる弾は満タン。一見普通の拳銃だが何らかのバグが施されている可能性もなくはない。一応保険として持っていこう。それと職員の上着とズボンもいただいていくとしよう。このIDカードも必要になるかもしれない。

下着姿にひん剝いた職員をトイレの個室におしこむとドアに寄りかからせるようにしてドアが開かないように固定する。

先ほどまで職員が着ていた白衣のような服装を今の服の上から羽織ると首からIDカードを下げる。ズボンはちょっとデカかったがベルトがあったのでなんとかなった。着替えを終えた俺はトイレをあとにした。


施設内の出口を探して適当に捜索していた時だった。一つ隔壁をIDカードで越えた時ちょうど人気のない部屋を見つけたので入ってみることにした。

部屋の扉には資料室とプレートがはめ込まれていて、入口は頑丈そうな金属の扉でIDの読み取り装置がついている。つまりこいつの出番だ。

先ほどの職員から拝借したカードを装置にかざすとガチャと簡単に扉が開く。

中に入るとファイルが幾つも収められた大きい棚が並んでいて部屋の隅には一台のパソコンが置いてあった。

とりあえずパソコンを触ってみると資料の検索と閲覧を行うためのもののようだった。この施設の地図でもないだろうかと検索ワードに『施設 地図』と入力し検索を開始する。

“施設内図”

そう表示されたファイルを開くと画面いっぱいに施設の地図が映し出される。

その地図によるとどうやらここは地下らしく半分ほどを収監施設が占めており、もう半分が研究のためのもののようだ。先ほどくぐった隔壁はその間をしきる扉だったらしい。

出口は地上へのエレベーターが3基、研究エリアの奥に備え付けられている。

今いるところは研究エリアの一番端か。どおりで人通りがない。

他の出口は……エレベーター横に非常階段があるか。

どちらにせよ研究エリアを抜けていくしかないようだ。

施設内図を閉じて部屋を出ようとした時、Newのマークが付いた資料が目に入った。

“worldhacker_codedata_赤神白兎”

俺の情報か。開いてみると俺の情報?がプログラムのコードのような記述で書かれた資料だ。最新編集箇所が赤いハイライトでスクロールバー横に表示されている。

やはりburn()とleep()に細工がされてたのか。能力の行が編集された痕跡がある。

コメントアウトしてあるのか。そりゃあなんも使えねぇわけだ。

しかしこの二つはundo()で元に戻らなかった。

つまり最後のこの編集の箇所が元に戻ったわけだが……

なるほどバックドアか。

編集箇所を見ると外部からいつでもアクセスできるよう記述がなされていた。

つまりいつでも処分できる状態だったわけか。

この処理が一番最後に行われていたからundo()で元に戻ったはずだ。

最悪の状況は回避されたわけだが能力が使えないのもまた不便ではある。

他のnewのファイルは……

“worldhacker_codedata_草間時人”

あの謎だったWorldHackerが一体なにをしてくれたのか。

ファイルを開きコードの中身を見るとなるほど停止の能力か。俺からは瞬間移動したように見えたのは空間か世界に対して能力を行使していたのかもしれないが、それほどの力を使うには強大な処理能力が必要なはず……まぁいい。

あの時体勢を崩してから記憶がねえのはこいつに処理を止められていたのだろう。

ファイルの作成時間から見るに組織に入ったばかりか。

ふとコードのスクロールバー横に赤いハイライトが目に入った。

なんだ?こいつ何か編集を行ってる?

!?

なんでこいつのコードにこれが?!

そこには俺のコードに記述されていたバックドアの記述とまったく同じものが施されていた。

まさか?仲間にバックドアを?

そうか……いざと言う時用ってわけか。

おそらくAdminの意に沿わないようになった時の処分用ということだろう。

流石はAdmin。職員だって道具の一つってわけか。胸糞が悪い。

こいつは知ってて所属してるのか?いやそんな馬鹿はいねぇか。

まぁ、とりあえずここから出ねぇとな。

ビーーーー

ビーーーー

収監しているWolrdHackerが脱走しました。

警戒令を発表します。

職員の皆様は武装をお願いします。

チッ

流石に時間をかけすぎたか。

こうなると研究エリア奥のエレベーターに向かうのも一苦労だ。

どうする?強行突破するか?それとももう少し隠れておくか?

いや、悠長にやってってもジリ貧だ行くか。

ガチャと突然部屋の扉が開くと2人の男が入ってきた。

咄嗟に部屋の扉横にあった棚の影にしゃがんで身を隠す。

二人とも研究者なのか俺の羽織っている白衣と同じものを着ていて体格はそれほどごつくないがしっかりと拳銃で武装がされている。しかし二人のうち一人は左耳に特徴的な赤い宝石のピアスをつけていた。

あいつ!あの左耳についているのは俺のピアス!

あれがあればもう一度undo()が使える!

二人は部屋の中を二手に分かれて確認していく。

一人がこちらに近づいてくる今だ!

俺は職員が棚の影をのぞき込む瞬間に合わせて立ち上がると顎に一発拳を撃ち込んでやった。不意の一撃に脳を揺さぶられた男は抵抗の余地なくその場に崩れ落ちる。よし、まずは一人。

突然の鈍い音にもう一人の男が当然こちらを見る。男は慌てた様子で左手でこちらに拳銃を構え右手で耳の装置を操作している。

「目標発見、一人やられた。応援を頼む」

俺は物陰から飛び出すと、保険として持ってきていた拳銃を構え男に一発撃ち込んだ。

腹部に銃弾が命中した男は感電したかのように震えながら悲鳴を放つとその場に倒れこんだ。

なるほどこいつは非殺傷の鎮圧用ってわけね。

悲鳴を上げて震えながら倒れた男の耳からピアスを外すと先端のキャップを外し左手に刺す。しばらくすると宝石に明りが灯る。よしこれで。

部屋の外から大勢の気配がする既に扉の外には職員が集まっているようだ。包囲されているとかなんとかほざいてやがる。

左手をかざす……が反応はない。

「つまり」

ガチャ

金属製の部屋の扉が開かれ職員が雪崩れ込んでくる。

俺はパソコン用に置いてあったパイプ椅子を右手に持つと右足で職員めがけ思いっきり蹴りあげた。

瞬間パイプ椅子は急加速して先頭に入ってきた職員に命中、それに続いていた職員をまとめて通路まで吹き飛ばした。

「なんだ?」

「何が起きた?!」

「バグは利用できないのじゃなかったのか?!」

突然のバグ利用に職員たちは大きく動揺して口々に叫んでいる。

通路で転がる職員を確認すると通路に出た。どうやらまだ数人の職員がいるようだ。

俺がそいつらが銃を構えるより早く蹴り飛ばすとその後ろにいた職員を巻き添えに吹き飛んで通路に崩れ落ちた。

よし一通り片付いたか。ふーっと一息つくと研究エリアの奥を目指し走り出した。


研究エリアの奥、エレベーターまで来るのにそれほど時間はかからなかった。

資料室で地図を見ていたことが功を奏し迷うことなく来れたからだ。

しかしやはりというべきかエレベーターは動作を止められているようで現在の階層を表す文字や上下のボタンが点灯していない。

となると、非常階段を使うしかないとエレベーター横にあるはずの非常階段をさがす。

が、そこには扉や部屋などなく白い壁が存在するだけであった。

地図を思い出すが確かにここのはずだ。エレベーター横。迷いようがないはずだ。

今から他の出口を探すか?と考えていた時一基のエレベーターのランプが点灯した。

1,2,3,…

階層を表すランプが点灯しゴウンゴウンと動作の音がする。何か。降りてくる。

距離を取りスタンガンを構える。

チーンと音が鳴るとゆっくりと開かれた扉から出てきたのは織田と名乗った男であった。左手に持っている凸凹した青い塊は処理エネルギーの格納容器か?

「あらまぁ随分と暴れてくれちゃった見たいね」

「お前一人か?」

「そうさ。一応ぼくここの管理責任者だからさぁ」

「悪いけど簡単に帰すって訳にはいかなくてね」

「エレベーターはもちろんだけど階段もEnabledを変えさせてもらったってなわけよ」

階段の有効性も簡単に弄れるのか。つまり今ここからの出口はないわけだ。

「そういうわけだからもう一回お休みしてもらおうかな」

織田がそういいながらこちらに右手をかざす。何か能力かと身構えたが一向に異変は起こらなかった。

「ん?あれ?もしかしてもう解除されちゃったのかな?」

「てめぇバックドアのことか?当たり前だお前らに命を握られてるなんて冗談じゃねぇ」

「へぇしっかり準備してたのか予想外だよIrregulerの評価を見直さないといけない」

「じゃあまぁあまり気乗りはしないけど実力行使しかないかぁ」

再びこちらにかざされた右手からは一拍ののち白く光る稲妻が放たれる。

凄まじい速さのそれは咄嗟に右に身体をそらした俺の左頬を掠めちょうど後ろに置いてあった観葉植物の茎に当たりその辺りに茂っていた葉ごと散り散りに焦がした。

なんだこいつの能力?!雷を出す能力みたいだがこの距離からこれほどの威力を放てるのか?!

しかも頭部を狙っていたのか?左頬が少しひりつくのを感じる。危うく観葉植物のように頭がはじけ飛ぶところだった。

「おーいい反射神経だねぇ」

くそ、何度も避けれるような代物じゃぁねぇ!

そうならばこちらからも攻めるしかない!

「おら!食らいやがれ!」

植物部分が飛び散った観葉植物の鉢植えを掴むと織田をめがけて蹴り飛ばす。

足元で急加速したそれは織田の頭めがけ飛来すると大きな音とともに先ほど飛び散った植物以上に激しく砕け散った。

「おっと!運がわるいな!ちょうど頭に命中か!」

……!?

飛び散った土煙の中、織田は微動だにせず立ったままだった。

常識では考えられない。あの重量のものがあれほどの速度で頭部に命中すれば間違いなく即死だ。当たり所なんて問題ではない、それほどの確定事項なのだ。

それでもやつは立っている。そのような事態はつまり何らかのバグの影響であろう。

「いやーほんと運が悪かった」

「ぼくじゃなけりゃ頭が吹き飛んでてもおかしくない、即あの世逝きだったねぇ」

相変わらず調子を崩さず飄々としゃべりやがる。

「でも残念ぼくには効かないんだ」

「対策しているからね」

土煙が少し晴れると織田は全身についた土埃をパンパンと手で払いながら

「どうだいすごいだろ?」

と、右手を顎に当てると自慢げにしている。

鉢植えが命中したであろう頭部には陥没や裂傷など本来ならあってしかるべきものがないどころか小さなかすり傷さえ無いように見える。

「さあてじゃあ次はこれで」

「やらせねぇ!」

右手を再びかざそうとする織田に俺は右足で地面を踏みつけ大きく跳躍して懐に入ると右手を思いっきり振り抜き拳で鳩尾を撃ちぬく。

が、織田の身体はやけに重くビクともしない。代わりに右手はひどく痛む。

こいつ頭部だけじゃなく全身こんな感じなのか。

痛みで怯んでいるところに織田は右手で剣でも握っているかのように握り振り下ろしてくる。嫌な予感がした俺は大きく後ろに飛びのくと先程まで立っていた床が削り取られ大きな斬撃跡を残した。

「おお、よけたねぇ、カンもわるくない」

あぶねぇ。どうやら能力は一つじゃないらしい。雷撃に斬撃どちらも食らえば致命ってとこだな……さらに物理的な攻撃は効かねぇときてる。逃げるにも出口はない……ダメ押しだな。

いや?本当に脱出は困難か?物理的な出口はなくとも俺も空間にleep()を使えば……

一か八かやってみる価値はありそうだ。

「お?まだ頑張るかい?」

「今度は何を見せてくれるのかな?」

右足に力を込めて蹴る!!

再び大きく跳躍すると織田の左側を大きく飛び越えた。そのすれ違いざま身体をひねり左手で織田が持っているエネルギー格納容器を握る。格納容器から左手へ力を引き込むイメージで。地上をイメージして右足で空間を強く蹴る!!!

視界が一瞬ホワイトアウトしたかと思うと身体は大空に放り出されていた。

ふう

一息つく

どうやら成功したらしい。少し跳びすぎたが地中に出るより遥かにましだ。

やがて地面が近づいてくると地面にぶつかる前に上方向に軽く跳躍をしてすとんと地上に足をつけた。

辺りを見渡すと、どうやら知っている駅の近くのようだ見たことのある店が並んでいる。

少し目立ちすぎたらしく通行人が何人か足を止め驚きの顔をこちらに向けていたがギッっと睨み付けると目をそらしてそそくさと歩き出した。

はぁーつかれた。

ふとポケットから財布を取り出し開けてみたがタクシー代には少し心もとない。

仕方ない最寄りまでは電車移動だ。

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