渦巻文様
県の南部にあるY古墳から西に三十分ほど車を走らせた場所に、新たな古墳とみられる遺跡が発見された。壁画や埋葬されていた遺物などから、年代や埋葬されている人物の特定を試みているところである。
埋葬品が発掘された石室内部には壁画がみられた。石室は長方形をしており、天井となる部分はドーム型のように盛り上がっていた。その空間には三角の模様がいくつも続いており、丸い天井をぐるりとまわっていた。中央のもっとも高い部分に向かうにしたがって、三角はしだいに大きくなっていく。模様は天井をおよそ三周している。赤い顔料で描かれており、一部が剥がれ落ちていた。詳しい成分は不明である。これは同県のN一号横穴と呼ばれている装飾古墳と似た特徴を有している。
石室最奥部の壁には人の顔とおぼしき絵が描かれていた。だいぶ荒いものではあるが、輪郭、目、鼻、口とパーツがそろっている。目に関しては、何度かぐるぐると色を強く塗りつけてあったとみられる。厚みのある顔料が壁から剥がれ落ちていた。当初は相当な量の顔料を塗りつけていたようで、顔料が垂れ落ちていた形跡もあった。顔が描かれていることから、この壁側に頭を向けて遺体が安置されていたのではないかと考えられている。
前述の頭の向きが石室最奥側だとすれば、埋葬された遺体にとっての右手側にも絵が描かれていた。大きく目をひく渦巻文は、同県I四号横穴などで発見されているものと類似点が多い。その文様の意味については現状不明である。一説によれば古代中国神話における太陽を描いているのではないかとの指摘があるが、大陸の神話の影響がこのような土地にまで及んでいたかについては不明である。古墳の年代も調査中である以上、あくまで参考程度にとどめておく。仮に太陽だとしても、県内で発見されている壁画は渦巻文の個数が多い。
今回発見された渦巻文は、中心から時計回りと反時計回りを二周した円が、お互いの終わり部分をくっつけて隣り合っている。各々の渦の中心部分には丸がひとつ塗りたくられている。この特徴は県内、国内の古墳まで範囲を広げても類似したものはみられない。この点においては古墳の年代、埋葬された人物、描いた人物、描いた理由などがほかの古墳との差として強調される。
埋葬されていた遺物に関して述べると、農工具である鎌がニ、鏡が一(砕けていたが、破片を集めたたところ円形の鏡一つとなった)、勾玉が六、発見されている。種類も数も、もっとも近くにあるY古墳をはじめとした県内、また東北から関東まで範囲を広げてもかなり少ないといえる。発掘間もないため、このあと数が増える可能性も残っているのでここでは鎌と鏡にのみ言及する。
被葬者が身に着けていたものが埋葬されていたと考えると、刀剣類は今のところ見つかっておらず、勾玉が採掘されているところを鑑みるに、埋葬されているのは女性ではないかと考えられる。古墳に埋葬されるほどの人物となると、その土地の酋長が一般的である。女性の酋長だとすれば珍しい事例であるため、埋葬されていた遺骨の調査の続報が待たれる。
なお遺骨の取り扱いは慎重に行われたが、骨盤より下の骨が発見されていない。埋葬後、野生動物に食い荒らされた可能性もある(鼠、猪の頭骨は発見されている。胴体内部には蛇の抜け殻が複数確認された)。床に散らばる枝が脚の骨の欠片ではないか、今一度確認が必要である。
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