第3話 騙り上手

「その神社、ここから近い?」

 店を出たすぐに在る真っ赤な郵便ポストに寄り添うように、タマグシはぼうっと突っ立っていた。

 陽のもとに出ると顔色はますます悪いし、見るからに陰気だし、パッと見た感じは地縛霊の類いかと思うような生気の薄さだけれど、オレを見るなりそう訊いてきたその声音はやたらと生き生きしている。

 そもそも、こちらの発言に対してではなく、タマグシから自発的に質問してくること自体がかなりめずらしい。

 よっぽど、この話に興味があるんだな。そう思いながら、オレは鷹揚に肯き返した。

「んー。まあ、たぶんね」

「たぶん? 正確な場所を、知らないってこと?」

「んー。まあ、そうね」

 本当のことを言うと、その神社の正確な場所どころか、神社の名前すらわかっていない。

 カノジョの話に出てくる神社についての情報は『無人』で『小さい』ことくらいだったし、そもそもが寝物語程度の戯言だと思っていたオレはカノジョの話を聞き流してしまっている。

 ただ、死んだ男の家の近所にも、オレんちの近所にも、無人の神社は存在しなかったから、例のカノジョと知り合った店の近辺で神社を探すしかなく、そのためにタマグシをわざわざここまで呼び出したのだ。

 カノジョと知り合ったのは、その日たまたま目について入ったスナックで、あれ以来、一度も行ってない。というより、オレはあれ以来、あの店を見つけることができない。

 死んだはずのあの男と話してすぐ、カノジョに連絡を取ろうとあれやこれや手を尽くしたけれど、カノジョのSNSはすでに削除されていて、電話もメールも繋がらなくなっていた。あらゆる伝手を頼ってあちこちに声をかけてみたのに、住所や勤め先はおろか本名すらわからなかった。

 おそらく、もう「はじまっている」んだろう。

 そしてオレは、早々に詰んでしまったってワケだ。

 文字通り、神隠しにでもあったかのように消えたカノジョの行方を追っている余裕は、もうない。

 オレは一刻もはやく、件の神社を見つけなければならなかった。

 正直にすべてを話せば、オレに匹敵するくらい怠惰で面倒くさがりなタマグシは、神社の場所がわかってから連絡してくれと曰ってさっさと帰ってしまうだろう。

 それがよくわかっているから、オレは曖昧な返事で誤魔化しながら、さくさくと彼の前を歩き出した。

 タマグシはそれいじょう言及してくることはなく、意外にもおとなしくオレの斜め後ろをついてくる。

 目玉だけはきょろきょろと忙しなく動いているのが、今日ばかりは心強かった。

 天気の良い昼日中とはいえ、神主のいない旧い社は、すぐ目につかない場所に在るものが多い。

 うっかりと自分が見過ごしてしまっても、そこに実在しているものならば、タマグシの目に必ず止まるはずだ。

 オレは期待を込めてタマグシを窺いつつ、街の中を歩き回った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

オンナも抱くし、オトコにも抱かれる、性的にだらしなく怠惰な男が、怪奇的な事案に遭遇したり巻き込まれたりする話 まきたろう @mmmakitarou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ