第2話 セフレ

「……それで?」

「ん。それがさ、死んじゃったんだよね」

「誰が? その、マユとかマナとかいう女性が?」

「いや、その子のカレシ、……てか、セフレ? だったのかな? たぶん」

「ふうん」

 タマグシは、まったく気のない返事をかえしてから、テーブルの上のコーヒーカッ プに視線を落とした。

 オレとタマグシのカップにちょっぴりだけ残っているコーヒーは、もうすっかり冷めてしまっている。

 それを飲む気にはなれなくて、初々しいウェイターさんから注いでもらったばかりのお冷をひとくち飲んで、オレは話を続けた。

「でさ、オレのスマホに電話がかかってきたんだよ」

「誰から? その、件の女性から?」

「いや、その死んだヤツから。すっかり忘れてたんだけど、そいつ、知り合いの知り合いでさ。オレ、前に番号教えてみたいなんだよね。死んだって話も、その知り合いから少し前に聞いてたからさ、電話かかってきて驚いた」

「ふうん」

 冷め切っていても、タマグシはかまわないらしい。残りのコーヒーをちびりと飲んで、「それで? 電話、出たの?」と訊いてくる。

 真っ黒で真っ直ぐなタマグシの前髪が、さらりと揺れた。いつも血色の悪い細面の顔がほんの少しだけ明るく見えたのは、気のせいじゃないだろう。

 口調は相変わらず素っ気ないけれど、いくらかは彼の興味を引けたらしい。

「うん、出た。話したよ。ちょっとだけね。……神社の話をしてた。カノジョが話してたのと、似たような話だったよ」

 伝票を指先でつまみながら、オレはおもむろに立ち上がった。

 この店でいちばん安いホットコーヒーを二杯、それだけの注文で、オレたちはもう一時間ばかりこの席に居座っている。そろそろ昼時で混んでくる時間だし、場所を移す頃合いだ。

「んじゃ、行こっか」

「どこに? その、死んだヤツのとこに?」

「もう死んでんだから、それはムリでしょ」

「でも、電話で話はしたんだよね? じゃあ、会って話すこともできるのでは?」

 なるほど、確かに。

 妙な男からの、妙に鋭い指摘で、妙に納得する。が、オレが此奴を呼び出したのには別の理由があった。

「アンタにさ、いっしょに行って欲しいとこがあんの」

「行って欲しいとこ? そいつが死んだところ?」

「いや、神社」

 どこの? とは、訊かれなかった。

 タマグシはぎょろりとした眼を爛々とさせて、ひとりでひょこひょこ店から出ていった。もう、居ても立っても居られないんだろう。

 オレは二杯分のコーヒーの会計を済ませてから、のんびりと彼の後を追った。

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