オンナも抱くし、オトコにも抱かれる、性的にだらしなく怠惰な男が、怪奇的な事案に遭遇したり巻き込まれたりする話
まきたろう
第1話 前戯
「そのへんにあるちっちゃい神社ってさあ、デンキついてないからさあ、夜とかめっちゃ暗いじゃん?」
「ん? んー。まあ、そうね」
「ね。なんでデンキつけないんだろ? デンキ代とか、キビシイんかなあ。でもさ、暗かったらお客さん来なくない? 夜の神社ってさあ、フツーにコワいじゃん。お客さん来なかったらさ、おサイセンもらえなくなるよね? 神社、続けらんなくなるのにさあ」
……いや、無人の神社って、地元の町内会とか近所の人が掃除とか管理とかしてくれたりして、基本はボランティアで維持されてるもんじゃないの? 賽銭が多少増えたところで、いくらも足しにならんでしょ。てか、お客さんてなんだよ。飲み屋じゃあるまいし、お参り行くヒトのことお客さんなんて言わねえよ、フツーは。
とか、いろいろ思ったけど、黙っておいた。
そんなの、どう考えたってセックスの後にするような話じゃない。
もちろん、そのくらいは向こうだってわかっているだろうから、こんな話を振ってきた時点で、オレだって察してるワケだけど。
「んー。まあ、そーかもねえ……」
スマホの画面をチラ見しながら、適当に頷いた。
二十二時、八分。夜としては、まだ浅い時間だけど、オレとカノジョの夜はもう終わったようなもんだ。
おそらくオレと同意見なはずのカノジョは、オレがろくな相槌をしなくても一向にかまわなさそうだった。
「神社ってさあ、神さまが住んでんだよね? そもそもさ、あんな暗いとこにムリヤリ住ませといてさ、五円とか十円でお願い叶えてくださいって、お客さんもお客さんだよね。アツカマシくない? デンキくらいとっととつけて明るくしてあげたらいいのにさあ。ケチくせーの」
最後の、ケチくせーの、は、オレに対する当てつけでもあるっぽかった。
行きたいホテルがあるとしつこくねだられたのをシカトして、うちの安アパートに連れ込んだのを根にもってるのかもしれない。
カノジョは神社の照明に対してひとしきり苦言を呈すると、そんじゃね、と軽い口調であっさりと出ていった。
カノジョが握ってたスマホがずっとチカチカ光っていたから、別の誰かのところ、たぶん、ここよりいくらかマシな場所に行くんだろう。
まあまあかわいかったけど、名前、なんつったかな。マユ? いや、マナだっけ? まあ、どっちでもいい。少なくとも、オレから連絡することはもうないし。
……でも、いきなり神社の話してくんの、面白かったな。
事後のシャワーで湿った肌と、口紅が落ちた白いくちびる。
血の気の薄いそのくちびるが語った頓狂な話を思い出して、オレは少し、笑った。
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