第6章 見える景色は

あの女性が去った後僕はまた一人音楽を聴いていた。あの女性との会話で少し疲れてしまった僕はいつの間にか眠りについてしまっていた。

目を覚ますとあたりはもう真っ暗になっていた。この電車はどこまで進んだのだろう。誰もいないような駅に色の褪せた青いベンチがぽつんと古びたライトに照らされていた。ホーム全体もまた錆びれてしまっている。

僕もこういうところで静かに生活したいものだと思っているともう電車は発車してしまう。今度またこの電車に乗る機会があったら降りてみようかなと思う駅だったなと思いながら絶え間なく変わる景色を眺める。

きっとああいう街では皆静かに微笑んで生きているのだろうか。

そういった駅を見ていると海が遠くに見えてきた。遠くの方から眺める海はただ真っ暗で少し寂しい気持ちにさせられる反面自分もその海の中に沈んで全てを投げ捨てたくなるような魅力もあるのだった。

やはり夜は人が人生を投げ出したくなってしまうのであろうか。以前友人が夜は朝から過ごしてきた記憶が寝る前にフィードバックされるからきっと色々気に病んでしまうんだよと言っていた。彼は何気なく言っていたが、僕が彼のその言葉を忘れることはないだろう。

街の明かりが点々と見え始めた。もうそろそろ到着する時間かとこの長い電車の旅に別れを告げる寂しさとこの電車を降りてしまったら僕はどうなってしまうんだろうかという不安に駆られた。サラリーマン達や家族で来た人達が次々にトランクを荷台から降ろして降りて行く。

僕は特に何も降ろすことはなく、ポケットの中に財布と煙草とライターがあることを確認してポケットに手を入れて電車を降り、一人暗い夜空を明るいホームから眺めているのだった。

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逆光 @iii-iii-iii

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