後編 *はい、チョロインです*

「毒なんて飲ませるわけ無いじゃないですか。それは緑茶と言うお茶です。こちらの世界の、この国の人達は、ほぼ皆が飲んでいるものですよ」


「す、すまない。そうだな、わざわざ毒を飲ませるわけもない……のか?」


 争いをするのが普通の世界で生きてきた人だからなのか、疑り深いな。

 ……面倒くさい。


「そもそも、この世界のこの国では、一般家庭に毒なんて無いですし、見知らぬ方を毒殺して何になるんです?」


「そうか。違うなら良かった。貴女があまりにも可憐だから、その妖精のような姿で惑わし、人の魂を取る魔女だったのかと、少し疑ってしまった……」


 さっきから妖精妖精って、私自慢じゃないけど普通の容姿だよ? 良く見積もって中の上ぐらいだよ? あれか? 海外だと日本人がモテる現象と同じなのか?


 それにしても、勝手に人の家の庭に現れて、挙げ句毒を盛っただの魔女だのと言われるとは……イケメンでも腹が立つ……でも話が進まなくなるので、とりあえずスルーの方向で。


 どうしてディランさんはここへ来てしまったのか、元の世界へ戻れそうなのか、話を聞かないと何にも分からないしね。


「私は普通の人間です。そして話を戻しますよ。ディランさんは何かしらの理由でこちらへ召喚されたのか、事故か何かで間違えて来てしまったのか、それが分かるだけでも全然違うと思うんです」


「そんなに可憐なのに、普通の人間なんだな」


 私を見つめて呟くディランさん。


 おおーい、褒めてくれるのは嬉しいんだけどさ、その後の重要な話聞いてますかぁ? あなたの今後を話したいんですけどー!


「ちゃんと聞いてますか? ディランさんは異世界へ来てしまったんですよ? もしかしたら、このまま、元の世界へ帰れないかもしれないんですよ?」


 その私の言葉に、考え込むディランさん。


「元の世界へ帰れない? …………っ!! 思い出した!」


 バンッと机に手を置き、勢いよく立ち上がるディランさん。


「えっ?」


「すまない、突然思い出した」


「なっ、何をです?」


「私は、メグミを迎えに来たんだ!」


 私の手を取り、まるで告白をするような甘い雰囲気でそんな事を言い出したディランさん。


 ぐはっ、顔が良い!! そして、無駄にキラキラさせてきたっ!!


 しかし、突然そんな事を言われても怪しすぎて、そうなんですねとは言えない。


「むっ、迎えですか? なっ、何の?」


 何とかキラキラビームに抵抗して、質問ができた。偉いぞ私。


「勿論、私の世界で一緒になる為だ」


 そう言いながら、ぐいっと抱き寄せてくる。


 ええええっ?! 何この状況?! ていうか一瞬で抱き寄せられてしまった! 力強っ! さすがマッチョ! って、そんな事はどうでも良くて!


「やっ、あのっ、は? ディランさんの世界で一緒になる? 私が? 何で?」


 疑問しかでてこない。


「聖女に言われたのだ」


「聖女??」


「聖女は稀に突発的な予言をするのだ。その予言で、私が異世界で運命の人に出会い、その人と結ばれると言われたのだ」


 はい? そんな予言? 迷言じゃなくて? てかそんなの信じてたの? 乙女なの?


「えーと、何故それが私なんです? もしかしたらこの後に出会う女性かもしれませんよ?」


「一目惚れしたからな」


「はぇ?」


 驚きすぎて、変な返事になってしまったぁ!

 一目惚れされてたのかっ?!


 そして抱きしめたまま、私の頬に手を添えるディランさん。


 何?! 何なんだこの状況っ?!


 そして、熱い眼差しで私を見つめてから、フッと微笑んだ。


 ぎゃーっ、イケメンの微笑みーっ!! 心臓がっっ! 胸がドキドキうるさいーっ!


 いや、そりゃ私も23歳、今まで彼氏も居たしアレやコレや色々してきたよ?

 しかぁぁしっ! 鎧のイケメンでマッチョな騎士に抱きしめられて、熱く見つめられるとか現実感無さすぎて、なんじゃこりゃぁ状態だし、顔が良すぎて混乱混乱ワケワカラン!!


「ふっ、可愛いな。メグミ、一緒に私の世界へ来てくれないか?」


「うひゃぁっ」


 ディランさんが顔を近づけてそんな事を聞いてくる。


 近い近いっちーかーいーっ! やばいっ、何かドキドキしちゃう、ときめいちゃうからヤメてー!


「やっ、私、異世界にずっと住むとか、それは無理……」


 キラキラなご尊顔に負けず、かろうじて理性が勝ち、自分の思いを言葉にできた。


 異世界で生活とか無理だよ。海外とは違うんだし、家族とも会えなくなるんでしょ? いくら私好みのイケメンに誘われても、それは無理だよ。


「それは大丈夫だ、こちらとあちら、好きに行き来できる」


「えっ?」


「初めての転移では、道が無く、私の身体に負担がかかったせいで若干記憶が混乱してしまったみたいだが、私が来たことでこちら側への道は繋がった。メグミが私と一緒に通れば、後は好きに行き来できる」


 えぇー、そうなのか。

 しかし、突然あちらの世界で結婚とか言われてもなぁ。


「それでも無理……なのか?」


 はうぅっ、そんな傷付いた様な顔で見ないでっ!


「や、性急すぎというか、今さっき会ったばかりですし、それに行くのは異世界ですし……」


「大丈夫だ、私がメグミをずっと幸せにすると約束をする。何なら魔法の誓約書を作っても良い」


 え、何故そんな事を言い切れる? ちょっと引くわ。


「魔法の誓約書?! いやいやいや、人の心なんて変わるものですよ? そんな大層な――」


 私が否定の言葉を投げかけてる途中、見上げていたディランさんの輪郭がぼやけた。


 …………近い。


 ……いや、近いとかではなくゼロ距離だ。


 うわー何コレ、マジかよ。


 ディランさんが私の唇を塞いだのである。勿論唇で。マウストューマウス、接吻、キス、ちゅー、つまりそういう事である。


「んんーーーーーっっ?!」


 私の口の中でディランさんの舌が縦横無尽に……って、いきなり激しいな! おいっ!!


 返事もしてないのに何故こうなった?!

 そりゃ確かに少し……いや、普通にときめいてしまっていたが、ディランさんには好きともなんとも言ってないよね??


 暴れようにも、私を抱きしめているムキムキな筋肉はびくともしない。暫くされるがままになっていたらやっと解放された。


「とっ、突然何するんですか?!」


 離れた瞬間、恥ずかしさと息苦しさで、赤面しながら問い質す。


「えっ? 精査スキャンだが」


 すごく普通に返事をされた……。

 は? スキャン?


「はっ? 今のはキスでは」


「あぁ、そうだな。メグミが不安そうだったから、相性を精査スキャンして、数値として出せば安心するかと思ったのだ」


 そう言うと、ディランさんの掌から光る紙が出現した。


 なんだコレ、えーとこれも魔法か?

 ……そして紙を見せてくれたが、文字が読めない。


「やはり聖女の言う通り、メグミは私の運命の相手だな」


 光る紙を見て、嬉しそうにそう言うディランさん。


 ちょっと待って! 一人で話を進めないでっ!


「や、ディランさん、私の気持ちとか意見とかは……」


「ん? メグミの気持ちはここに出ているぞ、私の顔が好みで身体きんにくにも興味があり、強面なのにたまに出る笑顔に惹かれている――」


「ええっ?! ちょっ、えっ? それマジですか?! それが私の気持ち?!」


「自覚が無かったか? それとも恥ずかしくてとぼけているのか?」


 自覚も無いし身体に興味があるとか、普通に恥ずかしいわ!!


「私は先程言った通り一目惚れだが、メグミとの会話も楽しい。ここに書いてる通り相性も最高だ。だから、な?」


 だから、な? じゃないわ!


「文字が読めないので分かりませんっ!」


「あぁ、そうか」


 ディランさんはそう呟いて、光る紙を手で撫でた。




*―*―*―*―*




 それから半年が経った。あの後、翻訳魔法により、光る紙にはディラン(呼びすてに変わった)の言った通りの事が書かれていた。

 それで私は、自分の気持ちを自覚したが、とりあえずいきなり婚約は性急すぎるので、まずはお付き合いをしましょうという話になったのだ。


 それでも良いと喜んだディラン、帰り方は分かっていたようで、一旦私を連れて異世界へ行って道を固定し、翌日から逢瀬が始まった。


 逢瀬というか、ディランが毎日こちらへ来たのだ。


 一応ディランは、あちらで騎士団長をしているらしいんだけど……。

 いや、仕事忙しくないの? 何で毎日来るの? 暇なの?


 不思議すぎてディランに聞いてみたら、ディランは今まで恋愛ごとには無関心で、心が無いとまで言われていたらしい。

 だが、私と出会って別人のようになったという事で、何故か騎士団の副団長が喜びまくり、私との仲を取り持つため、忙しい時は率先して仕事をしてくれているという事らしい。


 心が無い? 今もとろけるような笑顔で、私を見つめているディラン。


 『妖精の様に可憐だ』とか『可愛らしすぎて心が苦しい』とか『君だけを愛している』とかこっちが恥ずかしくなる事を言ってくる、この人の心が無い……だと? これもラノベによくあるテンプレ現象か?


 そして、今のところディランはとっても紳士で、初日の精査スキャン以来、抱きしめることはあっても、キスやその先の事はしてこない。

 因みに、初日の精査スキャンは、別にキスをしなくても手を触れるだけでできたらしい……。あの時は我慢が出来ずにそうしてしまったと謝ってくれたし、この半年一緒にいて分かったが性格も優しくて私好みだった……。


 顔も好みで性格も好みだったわけだ。しかも騎士団長という、あちらでは高給取りな職業だ。

 なのでそろそろ婚約してもいいんじゃないかなと……えっ? 何っ? チョロインって!? うるさいわ!! こんな好物件こっちの世界にもそうそういないでしょ!!


 という事で婚約の話をしたら、あれよあれよと話が進み、数か月後には結婚、こちらの家はこのまま置いといて、異世界で新婚生活をする事になった。


 うん? 流されまくったけどこれで良かったのかって?


 まぁ、ムッキムキの筋肉は意外と触り心地がよく、毎日触っていても飽きないし、ディランは優しくて毎日甘々だ。


 家族も異世界を海外気分でとらえていて、全く心配しておらず、私もディランも幸せなので、とっても良い出会いをしたと今では思う。



〜ボーイミーツガール・池からイケメンマッチョ編 完〜



第2弾も書いてますのでよろしくお願いいたしますーm(_ _)m

ボーイミーツガール〜押し入れから推し編〜

https://kakuyomu.jp/works/16817330668858562501

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ボーイミーツガール〜池からイケメンマッチョ編〜 川埜榮娜 @sa-ka-na

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