"魔法剣士ジョー"

「俺はまだ、この世界に居たい」


 ジョーはしっかりとゼイルの方を向いて言った。ゼイルは俯いたままでいた。


「俺はクラウスさんにもゼイルさんにも何も返せていない」


 クラウス夫妻は、こちらの世界で餓死寸前だったジョーを救った老夫婦である。ジョーに勉学や教養を施したのも彼らである。


「クラウスさんやゼイルさんに出会わなかったら、野垂れ死んでるか、騙されて犯罪の片棒を担いでいたと思う。それに魔法剣を習得出来たのだって、ゼイルさんに教えてもらったからだ」


「それはジョーが努力したからだよ」


 ゼイルは目を合わさないまま、頬を緩めた。

 の魔法は、かなりの知識を必要とした。魔力を変換・放出するだけの魔法に比べると、魔法剣はより高度な知識と訓練が必要になる。


「九九すらまともに言えなかった俺にずっと付きっきりで教えてくれたことは、感謝してもしきれない」


 ジョーは少し俯いた。風が吹き、瓦礫から砂が舞う。


「こんなこと言ったら不謹慎かもしれないけど、俺この冒険が楽しかった。そりゃ死にかけたり辛いこともあったけど、生まれて初めて心の底から生きてて良かったと思えたんだ」


 涙が、床に染みを作った。月に少しだけ雲がかかる。ゼイルの表情が見えなくなる。


「俺には夢がある。孤児院を作って、俺みたいな境遇の子供達を全員養って勉強を教えたいんだ」


「ジョーなら出来るさ」


「俺は、ゼイルさんにも手伝って欲しいんだ」


 ゼイルは、何も言わなかった。ジョーも何も言えなかった。懐中時計が針を刻む音が、痛いくらい耳に響いた。


「ねえ……」


 アイラが、おずおずと手を挙げた。


「私も、元の世界には帰らない」

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