31歳フリーター、異世界カフェ開業記

@menmen_itsuka

第1話 夢は夢のままに

 僕は31歳、定職にも就かずこの年まで生きながらえている男、井沢 真澄。フリーターのままのらりくらりと毎日を過ごしているように見える俺ではあるが、こう見えて自分の目標である「カフェの開業」のために、色々と勉強をしたり、さまざまな料理や、バー営業をできるようにお酒を飲み、いつか出す自分の店の商品を考えながら毎日必死に生きているのである。

 

 今日も午前中で仕事を切り上げ、午後からは朝の番組で取り上げられていた隣の県にあるカフェの視察に行く予定だ。

 どうやら隣県にあるカフェでは、季節もののスイーツを提供するのはもちろん、マスターがソムリエ資格を持っていることから、そのスイーツにあった飲み物やワインなどをセットで提供してくれるという。カフェといえば、やはり顧客が飲みたいものと食べたいものを個々で選び、ナポリタンとメロンソーダ、なんていう純喫茶ならではのカオスを濃縮したようなセットを提供するところがほとんどではあると思うが、そこのお店は半ばフレンチレストランの如く、飲み物も食事も、全て店側のタイミングで提供されるのだという。


 なんてデートにぴったりのお店なのだろう。顧客のニーズに合わせすぎてメニュー量が膨大に膨らみ、挙げ句の果てにはよくわからない横文字だけが羅列されているようなメニューが置いてある、そんな古き良き喫茶店が好きな僕でも、店側が主導を握り手綱を引いてくれるようなカフェは是非とも体験してみたいものだ。


 まだ見ぬカフェを求めながら、スマホの画面に入力されているマップをもとに駅から歩いていると、住宅街を抜けた先に、花屋かと見紛うほどの佇まいのあるカフェが見えてくる。

 「まもなく、目的地に到着します。」

 スマホのナビが案内を終了し、店前に目をやる。花壇で待ち列が区画されており、何組ものカップルが順序よく並んでお店の外で並んでいる。これは長くなりそうだ。と思いながらも、耳にワイヤレスイヤホンをはめ込んで動画を見始める。

 画面の向こうでは、いつも見ているワインの解説をしているソムリエの動画配信者が、今日仕入れてきたワインの解説を、飲み方や合わせる食べ物とともにテンポよく紹介している。

 しばらく動画を見ていたら、集中しすぎて気が付かなかったのだが前との感覚が空いていることに気がつき足を進める。その際、僕は何かに躓いた感触を覚え、転ばないように強く躓いた足とは反対側の足を強く踏み込む。

 

 すると、次の瞬間僕の踏み込んだ先にあったタイルが崩れ、地面に空洞ができ、僕はその中に転落してく。

 「うわああああ!だ、誰か助けて!」

 叫び声も虚しく、僕はその穴の中に吸い込まれるかのように落ちて行ったのだった。



 「いってぇ…。」

 どうやら僕は落下していた時に気を失っていたらしく、目を覚ましたら薄暗い空洞の中に自分が落ちていたことに気がついた。

 「掘ってる途中のトンネルにでも落ちたのか…?」

 妙にひんやりとした空気が漂う中、自分が落ちてきたであろう天井方向を見る。しかし見上げたところで上には何もない。どうやら横滑りをしながら落ちてきたのだろう。何もない空洞に落とされた僕は、このまま同じところにいるよりは、風が吹いているからどこかに抜けられそうだし動いたほうがいいのだろう。きっと出口近くまで歩いたら救助の人と落ち合うだろう。と楽観視しながら風が吹き抜けてる方向に歩みを進める。

 壁伝いに少し歩いていたのだが、さすがに視界が悪いこともあり何かあって転ぶのは避けたいと考え、僕はスマホをポケットから取り出すと周囲を照らした。

 「なんだここ、洞窟…?」

 掘削途中のトンネルにしては妙に狭く、そして湾曲していて、まるで戦時中に掘った防空壕のような場所であった。

 「なるほど、防空壕に落ちたのか。」と一安心しながらも、僕は霊的なものを信じているわけではないのだが、妙にその場にいるのが居た堪れずにどんどんと前に進んでいく。3分ほど歩いたところで、明かりが漏れていることに気がついて、僕は先ほど以上のペースで歩みを進め向かっていた。

 明かりが漏れているところに行くと、簡素な木製のドアがあった。ずいぶん開閉していないらしく、かんぬきがなかなか抜けないで四苦八苦していると、外から足音や人の声が聞こえることに気がついた。「そこまで捜査隊が来てるんだ!」と嬉しくなり、僕は残された力を振り絞るようにドアをこじ開ける。

 

 ガコッと勢いよくドアが開き、反動で転がりながら飛び出す。ああ、恥ずかしいところを見られてしまった。と顔を紅潮させながら、僕は恐る恐る顔をあげ、周りを見渡した。

 そこにいたのは救助隊ではなく、騎士のようなコスプレをした男たちだった。

 

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