居場所

駅から見てコンビニをちょうど通り過ぎたところの曲がり道を左に,そのあと踏切を超えて次の信号を右に曲がって少し歩いたところでお姉さんは立ち止った。線路沿いの古びた3階建てのアパートだった。

「ここなんだけど…上がって大丈夫?」

なにをいまさら

「はい,お邪魔します」

再びお姉さんの後から階段を上り2階角部屋の前についた。表札に名前はなかった。

「はーい狭いけどどうぞ」「おじゃまします」

中に入ると意外と整った部屋。真ん中のちゃぶ台のような机には四角の灰皿が置かれたいた。

「ほら座って」

僕は机の前に三角座りした。

お姉さんは僕と対面になる形で座って,手元のコンビニ袋からタバコを取り出した。

「あー…ごめんごめんベランダで吸ってくるわ くつろいどって」

しまった。顔に出てしまっていたのだろう

タバコを吸う父を毎度庭まで追い出す異常なほどまでの禁煙家である母の面影を自分に感じて嫌になる。


「ごめんね待たせて,どうした?そんな苦い顔して」

僕はそんなに顔に出やすいタイプだったのだろうか

「結局自分にも親の嫌なところは受け継がれているのかなと思って。」

「そりゃそうでしょ家族なんてそうなるような環境になってるんだから。

 人格形成期は3歳から20歳,君は何歳だい?」

「15歳です…」

「じゃあまだ高校1年生といったところか,それにその制服はいいとこの公立校だろう?」「どこにも居場所がないってことは学校が嫌で家では親の顔をうかがわないといけない,,,親の顔をうかがって親の好きそうなことばかりしていると親に似てくるのは仕方がないことだよ」

知ったようにしゃべりやがって

「じゃあ僕が悪いって言うんですか」

「いや私も状況は違うにしろ似たようなことをしてたから。

 うちは父親がゴミみたいな人間でね昼間はパチンコ,夜になって帰ってきたかと思えば酒に酔って母親と私に暴力をふるうような人間だった。せめて母親には嫌われないように,情緒不安定なお母さんの顔色を常にうかがって喜ばせるように尽くしてた」

「そんな家庭なんて学校では腫物扱い。ひどいいじめを受けても教師も見て見ぬふりでね,家に帰っても親の機嫌取りか独りぼっちかの2通りで,友達も作れない私は高校に入ったころには感情はほぼ死んでたね笑」

「ちょっとしゃべりすぎちゃったかな,次君の番だよ」


思ったより壮絶なお姉さんの半生にびびって僕は自分の不幸が吹っ飛んでしまった。

「えっとー…」

「あっ!話したくないんだったら無理にとは言わないから!」

お姉さんの気づかいは優しいが,ここで話さないのは不作法というもの

「うちの親は毒親ではないと思うんですけど,親が期待する私立の難関校に受かれなくて,そこから僕に対する扱いがどんどんひどくなっていって。罵声はともかく軽い暴力やご飯を抜かれたりするようになって。多分僕の努力が足りないんだと思います。親の期待に沿えなくて,」

ここまで言って目に涙が出てきた。めったに最近泣けることなんてなかったのに

「毒親じゃない,か…」

「お姉さんのおうちと比べたら全然ですから笑  でもちょっとだけ辛くて…」

「ちょっとじゃないと思うよ。死のうとしてる時点でちょっとなんかじゃないよ」

「そうなのかな…?」

僕はもう何が何だか分からなくなっていた。どうせ全部僕が悪いのだろう,そういう見方でしか物事を見られないようになっていた。

お姉さんは僕にティッシュをくれた後,少し考えるようにうつむいていた。



「君がいいなら,ここを居場所にしてもいいよ。」

「へ?」

「だってどこにも居場所がないんでしょ,隠れ家的なさ。辛い時はここに駆け込んで泣けばいいよ。」

僕は何と言えばいいか分からなかった

「鍵はポストに入ってる,私はあんまりいないかもしれないけど好きに出入りしていいから。」

「?ありがとうございます」

「うん,じゃあ今日はもう帰りな。その御家庭の様子じゃあんまり帰りが遅いと君が危ないもんね」

「わかりました。。」時計を見るともう7時は過ぎていてハッとした

僕は荷物をもって玄関まで向かう

「アッ!ちょっと待って。そういえば君名前は?」

「蒼優太です。」

「そっか,気を付けて帰りなね」


そう言ってお姉さんは僕にお菓子を持たせてくれた。

せんべいによく分からんちっちゃいゼリー状の包みにキャラメル,おばあちゃんみたいな菓子選で少し笑ってしまった。

そういえばお姉さんの名前聞くの忘れてたな…

泣いた分だけまだ少し笑える気がした

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逃亡 桜靖 @ousei777

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