普通

ふと目が覚めた。

部屋は薄明るく,重厚なカーテンからは光が漏れていた。

時計を見る,6時か。

僕が家を出る7時半には早すぎる目覚めだった。耳で部屋の外の様子をうかがうとお母さんはまだ起きていないようで父親が準備する音だけが聞こえた。

僕はベッドサイドランプに手を伸ばし明かりをつけた。

あの日,寝る前に置いたブ○ン錠の容器が机の上で光っていた。

はぁ……

僕はブ○ンのことを思い出すついでに,今日がテスト返却の日であることも思い出してしまった。憂鬱さから身を隠すように暑くてはだけていた布団にくるまりなおした。


特に音をさえぎる物のない簡素な僕の部屋に目覚ましの音が鳴り響いた。

結局あの後も僕は眠れることなくただ憂鬱さに溺れるだけで1時間を過ごした。


「行ってきます」

また僕は返事の返ってこない無意味な挨拶を投げた。

ズボンの左ポケットには50錠ほど入ったブ○ン錠の瓶が入っていた。




「今日は二時間目にテスト返しがあるぞー」

朝のHRでの担任の言葉だ。そして今一時間目が終わろうとしている。

僕の名前は蒼優太,名簿番号は文句なしの1番だ。

あと10分と少しでテストが返される。

勿論僕は今回も精一杯やったさ,自分の中では。でもまたきっと足りない。平均にすら乗れたことはないのだ。こんなに報われないのなら勉強をやめてしまおうと思った事なんて沢山あった,でも僕は意気地なしだから結局そんなことはできなかった。

どうせまたひどい点数で教師からも親からも小言を言われるんだ。。

まるで絞首台の前で準備を待つ死刑囚のような気持ちだった。

「よっしじゃあ返していくぞー,まずは蒼から!前ならべー」

「お前はもっと努力しろ!」そう言って渡されたのは43点の答案用紙

「はい,頑張ります……」僕は教室の一番後ろにある自分の席を見つめながら答案用紙を受け取った右手を強く握って一直線に歩いた。

席に着いた時答案用紙の端が少しクシャッとしてた。




帰り道,僕はあの事があってから寄り付いてなかったあのコンビニへ向かった。

もう決心はついていた。

ベンチに座りバッグから水筒を取り出した。

水筒,毎朝母がお茶を入れ飲み切れずに帰るとお得意の構文で愚痴を言われる水筒。

僕はほぼ毎日帰り道で飲み切れなかった分のお茶を捨てて帰る。ずっと同じ味のお茶

もういっそやめてくれたらいいのに。

結局は母は僕を通じて外に出る体裁を整えたいのだ。

その道具として自分が使われていると思うと,途端に水筒のお茶を飲む気が失せた。

最期くらい好きなものを飲もうと僕はコンビニに入り,母が言うには[添加物マシマシ]な缶ジュースを手に取った。きっと飲みづらくなるから炭酸はやめておいた。

そのままレジに進み,精算機がお金の計算をしている間ボーっと店員の後ろにある棚を見ていた。

コンビニから出て外にあるごみ箱に,ズボンの右ポケットに入れられた丸められたテストの答案用紙を捨てた。これであれはただの紙くずになった。

今度は左ポケットに手を突っ込みながらベンチに向くと,あの日見たまんまであの人がいた。

「あら,今度は死のうとしてる」

なんだこいつ

「すみません誰ですか」

「前も言ったじゃん。そこら辺にいるお姉さんだよ。」

やっと決心がついたんだ。ずるずると中学入学からの1年間死に損なってきたようなものだった。どれだけ努力しようとしても努力の仕方が分からなくなって,僕は何もできなくなってしまった。

「寄り道しちゃダメじゃんねー」

うるさいな

「そこ僕使いたいんですけど……」

「うーん,じゃあお姉さんの横座る?」

そうはならんやろ

「いや,そうじゃなくて…」

「だって君,私がいなくなったらどうせ前回みたいにブ○ンODするでしょ」「しかも今回は死ぬ気みたいだし」

「なんなんですか?なんでそんなにしゃべりかけてくるんですか?」

「一度助けた人に目の前で死なれちゃ気分わるいからねぇ」

なんなんだこいつ面倒くさい。僕を助けてくれるわけでもないのに

「じゃあ私と少しお話ししようよ。どうせ死ぬつもりなら時間あるでしょ?」

もういいや

「はぁ…」

「じゃあベンチ座って」


「さっき捨ててたのは?」「テストですね」

「学生だねー笑 なんで死のうとしてたのさ」「逃げたいんですよ」

「へぇなにから?」「学校からも親からも何もできない自分からも」

「家も学校もつらい場所なんだ?」「僕の居場所なんてどの場所にもないですよw」

「じゃあさ,今からウチ来ない?」「は?」

何言ってんだこいつ,ソッチ目的か気持ち悪い

「アッ違うよ!?あんたみたいな高校生食うほどじゃないから!!」

そんな否定されても冷たい目でしか見れない。

「取り敢えず来てみない………?」

普通だったらついていかないだろうな。でも死ぬ前に筆おろしくらいしてからでも遅くないか。それにどうせ気にしなくても僕なんてずっと普通にもなれない普通以下なんだから。

「いいですよ」

「えっ?なんで!!?」

なんやねん

「えぇ…」

「いや,うん,それじゃあ行こっか?」

僕はお姉さん(本名・年齢不詳)の後をついていくことになった。

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