逃亡

Sky(桜靖)

帰路

「何もしない人に食べさせるご飯はありません!」

「もう少しマシな成績にならないか」

「反抗的な態度ばっかり」「しねばいいのに…」

僕は学校からの帰宅路を歩きながら日々浴びせられる罵声に思いをはせていた。家に帰りたくない,そう思うのは必然的なものだった。

「どこ行ってたの⁉」「また○○くんと一緒に遊んでたの?」

家に帰ったら聞かれるであろう質問を考えるだけでもううんざりだった。

僕は駅前のコンビニでホットスナックを買い外のタイヤ止めに座りながらボーっと走る車を眺めた。

俺の人生これからずっとこうなのかな。僕だって精一杯頑張っているのに…

これから先同じような苦しみを抱き続けるくらいなら今楽になってしまおうと思った。その考えに行きついた瞬間僕は薬局に駆け込みブ○ン錠を買っていた。もう一度コンビニに戻り今度は併設されているベンチに腰を下ろした。そして僕は人生で初めてODをした。

甘い。ふわふわする。ねむくなってきた。

僕はそのまま意識を手放した。



肩をたたかれる感触

「ねえ,きみ。こんなところで何してんの?」

やばい警察か?いま親に連絡されるとだいぶマズイぞ。僕は必死に意識をかき集めた

目を開けると大学生くらいの女性がベンチに横たわる僕の横に座っている。

「あっ起きた」

誰なんだ一体

「きみさぁー家帰りたくないんだ?」

「…誰ですか?」

「そこら辺にいるお姉さんだよ」

質問の答えにはなっていない

「ODなんてして……家帰んなよ」

「もう帰りたくないんです。。」

「でも家帰んないと大事になっちゃうよ?」

「どうせ僕に興味ないですから」

親は僕が高校受験に失敗してから僕という存在に対しての興味を失った様だった。失敗と言っても親の望む超難関私立校を落ちてその下の難関公立校には入れたのだ,それでも親は僕を失敗作と見なし見限った。僕は所謂燃え尽き症候群となり夏頃から成績はすっかり低迷していた。

「興味なさげに見えるじゃん?でもあいつらって私らが勝手な行動をしたとたん被害者ヅラしてくるんだよ」

「なんなんですか?」

僕は両親への怒りを交えて相手に質問を投げかけた。

「いや,別に。とりあえず家には帰んなよ」

「はい。」

これ以上人と話していたくなくなった僕は相手の言葉に同意した。

そろそろ家に帰らないと…少し遅くなったが部活をしていたと言えばまだ怪しまれるだけで済む時間帯だろう。

僕はベンチから立ち上がり駅の方向へ歩き出した。



電車に乗って3駅。

そのあと徒歩で15分。

家にはすぐ着いてしまった。

「ただいま…」

「なにしてたの?」

「部活だよ…」

「今日遅くない?こんな遅く帰らせる部活なら学校に連絡して早めてもらおうかしらね!?」

きた。お母さんヒス構文だ

「イベントが近くてたまたま遅くなっただけだよ。」「ところで今日の晩御飯何!」

「ビーフシチュー」

「やった,シャワー浴びてきます」

会話を強制終了させた。正直ODのせいか気分も悪くご飯は食べたくないけど,せめて態度だけはお母さんの理想の息子じゃないと……


「いただきます。」

「テストはまだ返ってきてないのか?」

なんでお父さんはテスト事情をすべて把握しているのだろう。

「まだです」

「どうせ隠しても見つかるんだから返ってきたらすぐ見せるんだぞ」

「はい。返ってきたらちゃんと見せるね」

こういう時お母さんは絶対に喋らない。


「ごちそうさま。」

自分の食器をシンクに運び洗い物を始める。これも両親の理想の息子像だ。

いつもより早いけど今日はもうしんどいから,これを終わらせたら歯を磨いて寝ることにした。

蛇口を閉め洗面所で歯を磨くと,両親のいるリビングに顔を出して言った。

「おやすみなさい。」

僕のその言葉に両親を動かす力はなく,同じ言葉は返ってこなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る