和音
ハルナは戸惑いながら家を出る
あの日目指した場所へと
久しぶりの外は温かく
ホールの中は冷たかった
ハルナが努力を重ねた日々は
唯一ハルナが誇れるもの
それを無駄にしてまでも
ヒカリに夢を叶えてほしかった
全てを託してハルナはうたた寝
あの子に託されピアノの前に座る
少し息を吐き
鍵盤に手をのせた
何年も鍵盤を押してきた指
その感覚を少しずつ辛抱強く
叩き込んできた人は私ではない
あの子のお陰で私はピアノを弾ける
音を鳴らせば世界が広がる
それはまるで絵画のようで
あの子がつくったその絵に
私の色がうかぶ
私とあの子が繋いで紡いだ
想いが重なる瞬間
和音が響く
誰にも聞こえない
舞台裏で
私は最後の音をならす
サヨウナラ
たった一人の
幸せを願って
二度とピアノを弾けなくても
憧れのあの場所に立って以降
ヒカリは消えた
けれど彼女と奏でた和音は
いつもハルナの胸で響き続ける
もう怖くない
春名光
先生が点呼をとる声
嫌いだったその名を
今は誇りに思う
ヒカリが繋いでくれた音で
生まれ変われたのだから
和音 紫雨 @drizzle_drizzle
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