第46話 今度こそ後悔しねえようにするんだな
「サキュレ、なんかいいアイデアないか?」
『描き込んだ相手を支配する『淫紋』能力使って操るってのはどうだ?』
「却下」
『13の祝福』はこんなのばっかである。
「フフフ、下名にいいアイデアがある」
『これはダメそうなフラグ』
思わず吹き出しそうになって口元を押さえる大介。
「元・魔族四天王の一人に、精神に関わる魔法に関しては天下一の者がいる。変わり者でその術の研究がしたいと軍を抜けて、一人で北の氷河山脈に籠っていたはずだ。そいつに治してもらうというのはどうだ?」
「なるほど、良さそうだな」
「ぶふぉっ! いや、待ちなさいよ! 魔族が協力する前提なのおかしいし、氷河山脈ってことは、魔族の占領地帯の向こうじゃない!」
ルサシネが豪快に噴き出した。
「え? そうなの……?」
「うぅん、そうですねぇ。女王さまを直接連れていくというには危険すぎるような……」
「勇者もポロリュテーもしばらくはここに残るんでしょ? ってなると、あんたとあたしと……女王はホルシュから離れないからホルシュと、ギマリリスを入れてもたったこんだけでそんな危険地帯に行くなんて……」
「アイツはサキュレ神の信奉者だし、危険については護衛に下名がついている。心配は無用ゆえ、こんな下の下の腰抜けは置いて行けばいい」
大介の肩を抱くギマリリス。
「なによっ!」
ルサシネがそこに体をねじ込んだ。
強引に割り込んだために、また上をポロリしているが、気づいてない。
サキュレだけが気づいてなんか嬉しそうにしていた。
「誰が行かないっていった? あたしの剣は絶対に必要でしょ! ね、ダイスケ?」
「え? あ、うん」
「ほら!」
「下名には歯切れが悪く聞こえたが……」
「気のせいよ!」
また始まった、と思いつつ、大介も悪い気はしない。
「もちろん、オレもこっちが落ち着けば、すぐ追いかけるさ、ダーリン。待っててくれ、すぐに安定させるからさっ」
「……まぁ、ウチも、あんたには借りがあるしな。これでも勇者やから戦力になると思うし、先いっとき。すぐ追いつくから」
それから、小さい声で「ファーストキス奪っといて、逃げるのは許せんからな」とつぶやいた。
ともあれ、結局全員行く気まんまんなのである。
「そ、そうなんだ……だったら善は急げ、早く出発の準備するわよ!」
慌てて、遠くを指さすルサシネ。
「あのー……そっちは南なんですけどぉ……」
ホルシュの指摘に、無言で反対を向く。
「さぁ、善は急げよ!」
「やりなおすんかいっ!」
思わず大介も突っ込んでしまった。
それから、不意に笑いが止まらなくなった。
ああ、いいな。
大介はそう思ったのだ。
自分の人生で、こんなに女の子たちと話した記憶はない。
諦めかけていた青春の火が灯ってきたように感じる。
だから、自然と笑いは零れてきた。
みんなも釣られて笑いだす。
ここには笑顔しかない。
そんな大介の耳元で、サキュレが呟いた。
『イヒヒ、なんかアニメみたいだなって思っただろ』
「雰囲気ぶち壊しにすんじゃねえよ」
『とんとん拍子に話が進んでいくのは、優柔不断なお前にとって都合がいいよなあ。イヒヒ』
「ぐっ」
次から次に、図星だった。
自分が目標を決めなくても、どんどん先が決まっていく。
TVゲームでRPGを遊んでいる時のようだ、なんて考えていたところだったからだ。
そしてそれは、大介の性分にぴったり合っていたのだ。
「本当に……夢じゃないよな……」
誰も彼もがまっすぐで、だけど自分のように、すねていた人間が同じ場所にいる。
いていいのか。
いていいのだ。
それは幸せすぎて、現実感がない。
『今際の夢だったらどうだって言うんだ? それで諦めるか?』
「いや……今度は違う。もう……自分の、人生を諦めない」
こんなにまっすぐ生きているみんなを見て、いじけたり斜に構えるのは、違うと思うのだ。
もう、そういう生き方はしたくなかった。
『お、おう』
真面目に返されたのが予想外だったのかサキュレが鼻白む。
『……ま、旅ってのはいいもんだ。お前が無駄に過ごしちまった青春をやり直すチャンスなのは間違いねえ。今度こそ後悔しねえようにするんだな』
サキュレの言葉は、いつになく優しかった。
いや、考えてみれば口調が荒いだけで、この女神はずっと優しかったのかもしれない。
だから、その言葉を胸に刻み、大介は頷いた。
「今度こそ、ちゃんとやるさ……」
エロ能力を使うという意味じゃなく。
ちゃんと女の子たちと向き合って、ちゃんと恋愛して、そして――
「童貞を卒業してやる」
サキュレが、これ以上ないというほどに、にっこりと笑った――
第一部 完
異世界転生でエロ同人にしか使えない能力を押し付けられた件 がっかり亭 @kani_G
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます