第45話 JCが統治する国

 マレブランケを倒しこそしたが、問題は山積みだった。


 王都から市民たちは真っ先に逃げ出して、残るのは重症者や動けない者たちばかり。


 治安を維持するべき軍隊は壊滅し、兵士たちは逃走。

 彼らはいずれももう少し時間が経てば、いくばくかは戻ってくるだろう。


 しかし、王都としての機能は完全に崩壊している。

 おまけに、民を導く女王は幼児退行していた。


「どうすりゃいいんだコレ……」


 大介も半壊した街を見て、途方に暮れていた。


 少しだけ力を回復していたホルシュによって、ちょっとだけ癒してもらい、痛みはするものの、動くには問題ないくらいにはなっている。


 だが、だからといって何ができるわけでもない。


 よい案はないかとばかりに、サキュレ、ホルシュ、ルサシネ、ギマリリス、ポロリュテー、カナの方に視線を向ける。


 アーク・メーヴェもいはするが、幼児退行した今では数には含められまい。彼女はあり合わせのローブを纏って、ホルシュの後ろに隠れている。女王の方が大柄なのではみ出しているが……。


 そこでドンと胸を叩いたのは、ポロリュテーであった。


「な~んだ、そんなことか。オレに任せてよっ、ダーリン」


「え?」


「オレがここを仕切ってやるさっ。これでもアマゾオンの女王やってるんだ、統治くらい朝飯前だからさっ」


「それアリなの? 侵略じゃないの?」


 ルサシネが呆れるのも無理はない。


「こちとら、やせてもかれても誇り高きアマゾオンの女王さっ! 人の留守にねぐらを乗っ取るようなマネはしないよっ!」


「じゃあ、どうすんのよ」


「本国に戦士団を送るように使いを出すのさ。前線の部隊は全滅したけど、本国には、まぁだまだ戦士はいるんだ。そいつらを用心棒代わりにここに駐屯させればいいさっ。まさかオレらの前でふざけた真似は出来ないだろうしさっ」


 自信満々のポロリュテー。


「なるほどな。それもアリかもしれない」


 大介も他にアテがあるわけではない。


「うーん……でもどうでしょうか。実際は違うとしても、アマゾオンに侵略されたと思われるのではないでしょうか……」


 おずおずと言ったのはホルシュ。


「そこは問題ないさ。しばらくは勇者マカナをリーダーに立てとけばまとまるさっ」


「はぁ!? ウチ!? ちゅうか、マカナじゃなくて倉嶋カナだし!」


 大声を上げるカナだが、ホルシュの方は笑顔を浮かべて両手をポンと叩いた。


「ああ、それなら安心です~。みなさん、勇者さまに絶大な信頼を置いていますから」


「ちょい待ち! そんなんウチに向いてないわ! ごく普通の中学三年生なんよウチ! なぁ大介はん、あんたからも言うてえや!」


「ああ、関西弁聞くのも久しぶりだから、なんかほっとするな」


「アカン、ポンコツや……」


 がっくり肩を落とすカナ。


「覚悟きめなっ。オレの方は別に恨んじゃいねェが、操られたとはいえ、滅茶苦茶やっちまったんだ。責任とって復興手伝う方が、あんたの方も気が楽じゃないかっ?」


「確かに……そうかもしれんね。うん、それはあるわ」


 ふぅ、とため息をつくカナ。


「しゃーない、この街の復興までウチが暫定的にリーダーやりますわ」


『JCが統治する国……悪くない』


「とすると、残る問題は、女王アーク・メーヴェをどうやって元に戻すかだな」


 当の本人は大介がちらりと視線を向けると、サッとホルシュの後ろに隠れてしまった。


「心の問題ですから、魔法では治せませんしねぇ……少なくとも私はそんな魔法聞いたことがありません……」


 ホルシュが悲しそうに顔を伏せたせいで女王が、


「ママ? だいじょうぶ?」


 と心配そうに袖を引っ張った。


「あ、ごめんなさい、ママは大丈夫ですよ」


『完オチしてんじゃねーか』


 もう完全にママである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る