第44話 エロゲかなんかのタイトルかよ……

 涼やかな声が響き、遠くに落ちていた聖剣が、その声に呼応して勝手に浮き上がって飛んだ。


 そしてそれは、猛スピードで壁を突き破る。

 炎が空中に尾を引くさまはまさに不死鳥フェニックスを想起させる。


「な、なんです? ええい、なんでもいい、もうこのまま爆発――」


「よくも好き勝手やってくれたな!! おまけにウチのファーストキス、こんな形にしてからに……絶対に許さへん!!」


 城壁を打ち破って飛び出してきたのは、セーラー服の少女であった。

 そして、その勢いのまま飛び上がり、剣を大上段に振りかぶる。


「お、お前は勇者マカナ――」


「ウチは倉嶋カナや!!」


「バッ……」


 馬鹿なとでも言おうとしたのだろうか。

 だが、その言葉ごと炎の聖剣がマレブランケを断ち切った。


「食い! フェニックス!」


 ミイラの肉体を打ち破り、弾けようとした炎の塊は、聖剣に吸い込まれていった。

 これこそ、炎の聖剣フェニックスの真なる力。


 炎を支配下に置く能力である。


 妄念の込められた炎を失い、乾いたミイラの破片と、黒衣の切れ端だけが、ぱらぱらと地上に降り注いだ。


 そして、勇者マカナ――倉嶋カナが炎の尾を引きながら、地上に舞い降りた。

 まさに神代の英雄といった神々しささえ感じさせる降臨であった。


 一方、マカナが空けた壁の穴から、よろよろと這い出してきたのは、高所からの落下で体がガタガタになっている大介である。


 向こう側に街路樹があり、その上に落ちたことと、受け身が取れたことから、なんとか重傷は避けられていたが……


「……なんか釈然としない」


『だから言ったろ。お前は主役じゃねえって』


「確かにそうかもな……」


 マカナの姿は、大介から見てもあまりにも勇者そのものだった。


 彼女は、勇者という役割を突然振られたにも関わらず、それをちゃんと受け入れているということだ。


 そして、あんなに「正しく振舞えて」いる。

 戸惑って流されて、いまだに心ひとつ決められない自分とは違う。


 自分よりずっと年下の少女が、まっすぐ理不尽と立ち向かっているというのに。


 それでも。


 そんな彼女を救えたのだから、自分がいる意味があったのだろう。

 大介の胸の中が少しだけ温かくなった気がする。


 何か初めて何かを成せたような――


『だから竿役の自覚を持てよな。童貞』


「ふん、童貞だって世界を救えるんだ……ぶふっ」


 自分で言って、大介は笑いだしてしまった。


「エロゲかなんかのタイトルかよ……」


 まぁ、これもアリか。

 痛みは体中を元気に走り回っているが、大介は独りごちた。

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