第43話 彼氏も出来たことないのに死にたくないー!!

 ポロリュテーの方へ、ギマリリスとルサシネが駆け寄ってきた。


 その後ろからは、女王の手を引いてホルシュが走って来ているが、その動きは運動会の親子リレーのように緩慢で、到着にはまだかかりそうだった。


「仕留めたのか?」


「ああ、あんたがギマリリスさ。そんでそっちがルサシネだったかな。さっきホルシュから聞いたさ。ええと、仕留めたかって? そうさ。手ごたえははっきりあったねっ」


 そう言って、岩塊で押し潰された黒衣のミイラを指し示した。

 最初の投擲の衝撃で背骨がへし折れるだけでなく、胴体から真っ二つに裂けている。


 その上からもう一度岩塊を叩きつけられており、頭も骨が砕けててひしゃげてしまっていた。


「……なるほど、下名の手で仕留めたかったが……逃がすよりはいいか」


「待って。あれ、動いてない?」


 ルサシネが慌てて剣に手をかけた。


「そんなわけないさっ。いくら魔族だからって、これで生きてるはずが……」


「ンフフフフフフフフフ」


 ポロリュテーの声を遮るように、岩塊の下の死体が跳ね上がった。

 上半身だけで一同の頭上に浮かんでいる。


 もちろん顔は上半分ひしゃげ、口だけが笑っている。

 三日は夢に出てきそうな有様だ。


「あんた何で生きてんのよ!!」


「ンフフフフ……生きてはいませんよ。腹立たしい話ですがね。話は簡単ですよ。私は死体を操ることができる。だからあらかじめ、自分が死んだときに、自分を操作するための術をかけておいたのですよ」


「そ、そんな手があるとは……!」


 ギマリリスすら驚いているのだ。

 間違いなくマレブランケの秘術であろう。


「無論、死体を操る術は蘇生ではない。この言葉も、術によるかりそめの人格の発言に過ぎない。そう、もうマレブランケは死んでいるのですから」


「だったらとっととあの世に行きなさいよ!」


「ンフフフフフフフ、マレブランケという男が、そんなに殊勝な者だと思いますか? 彼はね、勇者マカナを操れば、魔王の座すら奪えると考えてたようですよ? そんな野望を打ち砕いた君たちに、彼だったら最後に何をすると思います?」


 かりそめの人格とは思えないほどに、マレブランケは顎だけをカタカタと揺らして愉快そうに笑った。


「自爆ですよ」


 言うや否や、マレブランケの体が風船のように膨らんだ。

 傷口から赤い光が漏れ出している。


「まずい! 凄まじい魔力を感じるぞ! くそっ、こんな時のために貯めこんでいたとしか思えん! なんと性根が捻くれた奴だ! ここに留まるのは下策! アレはあたり一面丸ごと吹き飛ばすほどの威力があるぞ!!」


 至近距離で火球の爆発を受けて生きていたギマリリスが血相を変えるなどただ事ではない。


 それが伝わったか、ポロリュテーとルサシネが反転して走り出した。


「ホルシュ!! こっち来ちゃダメよ!!」


「えぇ~!?」


 間の悪いことに、ホルシュはアーク・メーヴェを連れて、かなり近くまで駆け寄ってきてしまっていた。


「アイツを撃ち落としたら、止められないのさっ!?」


「やめろ!! ヤツの爆裂魔法は衝撃を与えたらその瞬間に破裂する!!」


「あんた空間を割いて移動できるんじゃないの!?」


「あれは自分の傍に引き寄せる魔法だ!」


「もう! なによそれ!」


 少しでも離れようとする一同だが、嘲笑うかのようにマレブランケは空を駆けて離れない。


「ンフフフフフ! さぁ、みんなで死にましょう!! 死は平等! 生まれながらに恵まれた者も、そうでない者も死ねば同じ! 貴方たちもマレブランケの野望と同じように滅びなさい! ンフフフフフフフ!」


 マレブランケの体内の火球が膨れ上がっていき、体を引き裂き始めた。

 もう本人にすら止められまい。


「くそっ、これまでか……」


「ごめんっ……みんな……ダメな女王で……」


「ヤーダー! あたし、彼氏も出来たことないのに死にたくないー!!」


「私だって結婚もしないで死にたくないですよぉぉ!」


「ママー、こわい……」


 全員の脳裏に、死が過ったその瞬間――


「来ぃや!! 炎の聖剣フェニックス!!」

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