第42話 勝負下着かもしれねーぞ
瞬間、マカナの体が、壁をすり抜けた。
上半身だけ。
『イヒヒヒ、いい眺めじゃねえか!!』
そう、マカナの尻が、壁から突き出ていた。
これこそ、サキュレ『13の祝福』のひとつ『壁尻』。
読んで字の如く、相手を壁に挟み込み、尻だけ突き出させるという、最低の拘束スキルである。
マカナのミニスカートも真後ろからでは尻を隠せない。
下着に至るまで大理石の艶をもった美しい彫刻の尻が、そこにはあった。
あと何気に下着はレース柄であり、大理石の荘厳さを感じさせる。
『イヒヒ、けっこう、おませさんだな。勝負下着かもしれねーぞ』
いつになく嬉しそうに、サキュレが言う。
マカナは足をもぞもぞ動かして起き上がろうとしているが、石化が禍いして、石壁と体が完全に一体化してしまい、全く抜け出せない様子だ。
何しろ王都を取り囲む城壁なのだ。
いかな剛力とてそれを丸ごと持ち上げることはできない。
「よし、後は裏に回れば……」
一度袋小路から出ようと、大介が振り返った瞬間、猛スピードで黒衣の塊が突っ込んできていた。
「まさか勇者マカナが無力化されるとは……っ!! させませんよぉ!! アレは私の野望の核! こんなところで……」
これまでの余裕が全く感じられない必死さで、ミイラの如き魔族四天王が大鎌を振りかざして迫る。
「し、しまった!?」
左右は瓦礫、背後は壁。
逃げ場が、無い。
『く、くっそおおおお!! せっかくここまで来たのに!!』
サキュレも頭を抱えて絶叫する。
マレブランケの背後からギマリリスとルサシネが追いすがるが、組体操のように折り重なった死体兵に行く手を阻まれてしまっていた。
助けは間に合わない。
せめて戦う意思を見せようと大介はファイティングポーズをとった。
「ンフフフフ!! 死になさい!!」
大鎌が振り下ろされようとした、まさにその瞬間!
唸りを上げて巨岩が飛来した。
そして――
「ごはあっ!?」
マレブランケに背骨をへし折らんばかりの勢いで直撃、自動車事故のような衝撃とともに、その体を地面に叩き落とした。
あまりの威力に、岩も粉々に砕けたうえ、地面を抉りながらの落下であった。
「な、なにが起きた……?」
その答えはすぐにわかった。
「大丈夫さ! ダーリン!!」
崩れた城壁の一部であろう巨大な岩を抱えた、ポロリュテーが走って来ていたからだ。
なんと、瓦礫を吹き飛ばしながらショートカットして突っ込んできている。
とんでもない力業であった。
「そっちこそ、大丈夫なの!? いきなりそんなでかい岩持って!?」
「はっはっはっ。あの世から追い返されちまったみたいでさっ! だったらひとっぱたらきしないとねっ!!」
岩を抱えたまま、豪快に笑い、倒れるマレブランケを普通に踏んづけながら歩いてくる。
先ほどまで呼吸が止まっていたとは全く思えない。
おまけとばかりに石をマレブランケに叩きつけてから、両手を広げて大介のもとに駆け寄る。
「ダーリーン!!」
「え?」
がっしと両腕で掴むや、
「向こう側に行きたいんだろっ! 送るさっ!」
と、反転、相撲で言うところの居反りの体勢で大介を放り投げた。
「うわああああああああああああああ!?」
大介の体はいとも簡単に宙を舞い、城壁の反対側へ投げ飛ばされ、王都の中にいる面々の前から姿を消した。
慌ててサキュレが追いかけて城の外へ飛んでいく。
バキバキバキと枝の折れるような音がし、やや遅れて、どすん、と鈍い音がした。
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