第41話 『服の上からブラジャーを外す』能力

 大介は相変わらず逃げていた。

 後ろからは表情を変えず、マシンのように迫るマカナの姿。


『おい、勝算はあんのか?』


「サキュレの祝福を上手く使えば、行けるはずだ!」


 そう、大介はあらかじめサキュレに『13の祝福』について全て聞いていた。

 ほとんどが戦闘に使えるようなものではないのだが――


『一応言っとくけど、『感度三千倍』は石化した奴には効かねーぞ』


「わかってる!」


 そう言っている間にも、マカナは間合いを詰めてくる。

 大介とて学生時代は柔道部で走り込みをしていた。


 運動不足の大人たちよりはよっぽど動ける方ではある。

 だが、ノルマリス神の祝福により、身体能力が強化されたマカナはそれをはるかに上回る。


 なんとか逃げられているのは、命令の自動実行の精度が低いからだろう。

 攻撃してくる相手を「敵」と認識するために、逃げ回る大介は敵と認識しづらいのだ。


 そんな消極的な追撃でさえ、マカナの突進力は脅威だった。


『そっちは袋小路だぞオイ!』


「わかってる!」


 サキュレの言葉通り、左右は崩壊した家々、正面は城壁という、逃げ場のない場所に入り込んでしまっている。


 大介は振り返りざま、両手を開いた。

 それは彼の好きな漫画の必殺技を放つシーンによく似ていた。というより、意識的にそうしていた。


 その方が、効くような気がしたからである。

 一方、大上段に剣を持ち上げようとするマカナ。


 次の瞬間――


「キャストオフ!!」


 大介が叫んだ。

 開いた手のひらからは、別に何が出るでもない。


 マカナの動きも止まることは無い。

 両手を彼女が上げた瞬間――


『ジャックポット!』


 スルッと何かが落ちた。

 セーラー服の下から、ブラジャーが落ちてきたのだ。


「『服の上からブラジャーを外す』能力……!!」


 猿が木から滑り落ちるように、マカナのブラジャーが落下し、腰から太ももにかけてひっかかっていた。


 上段の構えから踏み込もうとしていた彼女は、ブラジャーに太ももを引っかけてしまう。


 しかも石化したブラジャーだ。

 それは硬質のリングが被せられたに等しく、思い切りつんのめってすっころんだ。


 人間の意思がないゴーレムの思考では、身を守るという発想もない。

 聖剣はすっぽ抜けて遥か前方に吹っ飛んでいった上、正面の大介に向かって直立に近い形で倒れこんできた。


「よし、ここだっ!」


 大介はその石化したセーラー服の襟元を掴みつつ、腹に足を当てて自分の体も沈ませた。


 相手の転倒する勢いを一切殺さず――


「巴投げじゃいっ!!」


 昔取った杵柄、柔道技を炸裂させた。

 しかも、マカナが吹っ飛ぶ先は城壁だ。


 彼女が壁に命中する刹那、大介は更にサキュレ『13の祝福』を行使した。


「『壁尻』能力!!」


『おおっ!!』

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