第33話 明かされる真相と危険な元凶Ⅱ

 紫色の鎧を着た七玹騎士が自分自身のことを話し始めた。


「ワタクシは皇帝陛下に選ばれし七人の騎士が一人。紫騎士……パーピュア。当然、魂色は紫だ。覚えておきたまえ」


 緑騎士のヴァントと言い紫騎士のこいつと言い、何で七玹騎士は偉そうで自己中な奴らばっかりなんだよ。だけどこんな奴らを統率しているカミオンの皇帝はもっとヤバイ野郎に違いない。


 奴の魂色を知ったレイがおれに小声で耳打ちしてきた。


「紫の魂色は不味いかもしれないよ。珍しいのはもちろんだけど僕の橙の魂色の適正魔法と相性が悪すぎるんだ」

「どういうことだ?」

「紫の適正魔法は相手に状態異常や能力を下げる効果を与えるのが多いんだ。今の僕の適正魔法の実力じゃあいつの魔法を打ち消せずに不利になり続けるだけだよ」


 レイの魔法もダメだし、おれも七玹騎士に青の魂色の力を見せるわけにはいかない。ヴァントは報告しないという稀な例だろうけど奴はそういう訳にはいかないだろう。折角隠してきた魂色を知られてたまるか。


「奴はまだおれたちの魂色を把握していない。だからこそ、ここは撤退しよう」

「策があるんだね」


「どうしたんだい?ワタクシが答えてあげたんだから、礼儀作法的に次は君たちの番じゃないのかな⁉」


 そう言いながらパーピュアは腰に差さっている二本の剣を抜いた。片方の剣は片刃が櫛状になっていてまるでのこぎりみたいだ。もう一方の剣は先程の剣の半分ほどの短さで取り回しの良さそうなナイフのような見た目をしている。


 おれは時間を稼ぐためにパーピュアに単身で挑む。適正魔法が使えない以上、基礎魔法を使って応戦する。


「今のはグリンドかな?それにしてもよく鍛え上げられているグリンドだ。もっと魔術の本質を理解してその深淵に触れて練り上げることが出来ればより強い基礎魔法になるだろうね」

「何なんだよさっきから、アドバイスでもしてるつもりなのか⁉」

「そうだね、ワタクシも一応、七玹騎士の一人だから強い人間と戦うのは嫌いではないんだよ」


 おれが剣で斬りかかるとパーピュアののこぎりのような剣に挟まってしまった。次の瞬間、壊れていた剣は更にへし折られて壊されてしまった。この状態ではもはや剣とは呼べないじゃないかよ。一旦距離を取るために下がるとレイがこちらに戻ってきた。


「準備完了だよディール」

「カウントダウンで合わせるぞ」

 

「3……2……1……今だ!」


 おれの合図と同時にレイは魔宝具の小瓶から大量の水を出して、おれの方は一瞬だけ蒼炎を出して火力を調節しながら大量の水に直撃させる。すると水は一気に蒸発して水蒸気になり、奴の目からおれたちの姿を隠した。


「何も見えなくなった。これは……スチームか」


 パーピュアがおれたちを見失っている隙に気絶している商人を二人で抱えてその場からバウバウと一緒に逃走する。


「どうやら逃げられてしまったみたいだね……まあいいか、どちらにしても計画は成功しているんだ。エルフとダークエルフの素体が手に入るのも時間の問題だな」


 おれたちは一生懸命走りながらエルフの里を目指した。


「何でこんなに僕たちは七玹騎士に会うのかな」

「運命の相手だったりしてな」

「そんな運命は嫌だよ~」


 パーピュアが七玹騎士である以上はいずれおれが討たなきゃいけないんだ。おれは思い出していた。あの日、おれの故郷を襲った奴も似たような鎧を身に着けていたんだ胸にカミオン帝国の紋章を刻んだ鎧を。色は…………思い出せない。だが七玹騎士こそがおれが世界で最も憎むべき敵であり、家族の仇だ。そいつにたどり着くまでおれは七玹騎士を討ち続けてやる。


 おれの心の……魂の奥底に生まれた強い復讐心が燃えて、おれ自身に復讐という新しい目的を与え、血に塗れた闘争の道へと駆り立て始めていた。


 おれたちは商人を連れてようやく世界樹の根元に到着した。するとそこは既にダークエルフたちが占領していてツタの籠に入れそうになかった。おれは何とかして商人を上へ運ぶためにダークエルフたちを説得するために話すことにした。


「たむろしてる所悪いんだけどさ、おれたち上に行かないといけないんだよね。だからどいてくれないかな」

「ここは誰も通さないようにダークエルフの女王であるエルローラ様から仰せつかっている。それに人間がエルフの里に何の用があるというんだ?」

「アンタらの命運もかかってるんだよ!通してもらうぞ」


 バウバウが吠え散らしながら道をつくってくれたのでおれたちは半ば強引にツタの籠に乗り込んでバウバウと一緒に里に戻った。


「急がないと、商人とパーピュアが言ってたよね。エルフとダークエルフを仲違いさせるって。それに作戦は成功してたって」

「あいつら火をつけようとしてたし、相手の女王が出てきてるぐらいだ。エルや女王もピンチになってるんじゃないか。このままだと夢の通りになるぞ」

「その未来だけは絶対に回避しよう!」


 バウバウについて行っておれたちはネウィロスの爺さんの所に帰ってきた。


「ネウィロスの爺さん、犯人捕まえてきたぞ!」


 おれたちが帰ってきたことに気づいたネウィロスの爺さんは慌てた様子で喋り出した。


「よーやったぞ坊主ども。ついさっき会議に出ていたエルフから伝言があっての。今、会議室でダークエルフの女王によってセルシスがダークエルフ殺しの容疑者として連れ去られようとしておるぞ。急いでワシらも向かおうぞ」

「「お――――!」」


 おれたちは次にネウィロスの爺さんについて行って商人を地面に引きずり回しながら会談が行われている会議室へと直行した。会議室に向かうまでの間にネウィロスの爺さんが会議の大まかな内容をざっくり話してくれた。そうして会議室の扉の前まで行ったおれたちは手が空いていなかったから走った勢いのまま扉を蹴り飛ばして開けた。


「「ちょっと待ったああぁッ‼」」


「邪魔するぜ!」

「里を混乱に陥れた事件を解決しに僕たち英雄二人が参上ってね!」


 エルがおれたちに気づいて歓喜の声を上げる。


「レイ!ディール!」


 突入の少し後にひょっこりとネウィロスの爺さんが顔を出した。


「ワシもおるよ」


 おれたちが会議室に突入したのを見て、頭に金のティアラを被った偉そうなダークエルフが冷静に話す。


「そなたたちは何者だ。今は私たちの種族間における重要な会議中のはずなのだが、いつからここの警備隊は不審な侵入者を許す里に成り下がったのだ」

「アンタらは騙されていたんだよ」

「何だと……ここにきて人間までも私たちを侮辱しようというのか」


 どうやら一から説明しないとダメみたいだ。おれは場にいる全員に見えるように琥珀のネックレスを掲げながら話し始める。


「騒動の発端はこの”琥珀のネックレス”だ」

「そんなネックレスが何だというんだ」

「いいから黙って聞けよ‼」


 おれは何となく七玹騎士を想像しながらダークエルフの女王に凄みを利かせた。効果はあったようでダークエルフの女王は口をつぐんだ。その場にいる全員が固唾をのんでおれだけを見つめている。ちょっとだけ緊張してきた。


「セルシスが商人に渡されたこのネックレスには魔法がかけられていたんだ」

「その魔法についてはワシから説明しよう」


 おれの緊張感を感じ取ってくれたのかネウィロスの爺さんが助け船を出してくれた。ネウィロスの爺さんは前に出るときにおれに向かってウィンクして小声で話す。


「今の内に心の中で何を話すか整理しておきなさい。ただ事件の真相を話すだけじゃ解決には至らんぞ。エルフでもダークエルフでもない他種族だからこそのお主の言葉が……想いが深い溝を埋める魔法になるはずじゃ」


 おれは心の中で必死になって伝えたい想いことと願いを考えた。

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