第32話 明かされる真相と危険な元凶Ⅰ
ディールたちが会議室の扉を突き破る数刻前まで話は遡る。
おれたちはネウィロスの爺さんに琥珀のネックレスにかけられた魔法を調べてもらっていた。ネウィロスの爺さんは慎重にネックレスを扱いながら調べている。
「どうだ、何か分かりそうか?」
「焦るでない、黒髪の坊主!魔法の痕跡を調べるなんぞエルフでも出来るのはワシか女王ぐらいのもんじゃわい」
おれとレイがネウィロスの爺さんの部屋の中にある黒板の隅を使って絵しりとりをしながら待っているとようやくネウィロスの爺さんが魔法を解析した。
「坊主ども、このネックレスにはどうやら”精神干渉型”の魔法の内の一つである”パッペレイト”【愚かなる傀儡】がかけられていたようじゃの」
「つまりそれをかけた者は術者に操られてしまうということでしょうか」
「サラサラ髪の坊主、良い勘をしておるの。まさに言うた通りじゃ。それにしても道具に魔法をかけて相手を操るなんぞとんでもない力を持つ輩じゃのお」
確かにネウィロスの爺さんの言ったことが本当ならこのネックレスには精神干渉型と設置型の両方を組み合わせていることになる。
「このネックレスをセルシスに渡した奴を探したいんだけど、どうすればいい?」
「商人たちが来たのは一昨日の明朝じゃったから、この森を通って帰る限り、まだ幻覚の森のどこかにはいるかもしれんぞ」
「よし!そいつを探し出して締め上げてやる」
「ちょっと待ってよディール!」
おれはレイに呼び止められた。
「手がかりもないのに探すのは無謀すぎるよ」
「それもそうだな……」
おれたちが困っているとその様子を見たネウィロスの爺さんが口笛を鳴らして犬を呼び寄せた。犬はやって来るなり後ろ脚で器用に立ち上がり爺さんに持たれながらの顔をぺろぺろと舐めまわしている。長く伸びた毛のせいで目は隠れており犬にしてはかなり大きめでネウィロスの爺さんと変わらないぐらいだ。
「この”バウバウ”はワシのペットでの。鼻がいいからよく植物を探してもらっとるんじゃ。これだけ鼻が良ければネックレスの元の持ち主を探し出せるはずじゃ。連れていけ」
「ありがとうございます!」
「このネックレスを持っていた奴を探してくれ、セルシスの花の匂いじゃないぞ。商人の男の臭いだ」
「ヴォフヴォフ……!」
「分かったのか。追ってくれ!」
おれがバウバウに琥珀のネックレスの臭いを覚えさせるとバウバウはボフボフしながら里から下りるためのツタの籠まで一直線に走っていった。おれたちも置いていかれないように後をついていく。
世界樹の根元まで降りるとバウバウはその場を2~3周してから再び臭いを辿り始めた。俺とレイは追いかけながら会話する。
「なんでネックレスに精神を操作する魔法なんてかけられていたんだろうね」
「おれも理由が分からないんだよな。もしかしたら商人は知らずに渡してた可能性もあるな」
「いや、それは無いんじゃないかな。少なくとも魔法は発動していたんだから」
おれは別の可能性も考えてみた。
「じゃあ、セルシスを自分のものにするためだったとか?」
「だとしたらその人は悪趣味だね」
「どちらにせよとっ捕まえて理由を聞き出せば全部分かるだろ!」
バウバウが走るのをやめた。どうやら何かを見つけたみたいだ。おれたちは木の陰に隠れて様子を窺う。するとそこには褐色の肌で銀髪のエルフみたいな人たちが大勢いた。
「おい、誰だあいつら?」
「あれはダークエルフだね。エルフの親戚みたいなものだよ」
レイが教えてくれたおかげで謎の人物たちの正体を知ることが出来た。だけど何でこんな所にいるんだ?まさか親戚同士の集まりでもあるのか?おれたちは時間をかけるわけにはいかなかったの気づかれないようにダークエルフたちから遠ざかろうとしたが気になる会話が聞こえてきた。
「エルローラ様は本気なのだろうか。いくら信頼している人間の商人にそう言われたからといって世界樹を燃やそうなどと」
「女王様が選択した道についていくのが我々、民の務めだろうが。信じるほかないだろう」
「私も信じられない。世界樹が消えたらまた新しい世界樹が生まれるなんて。世界樹は世界に一つだけでしょう」
おれたちはどうやらとんでもない所に出くわしてしまったみたいだ。世界樹を燃やすだって⁉それじゃあの日の夢と一緒じゃないかよ。そのエルローラとかいう馬鹿野郎を止めないとたくさんのエルフが死んでしまう。ここはネックレスの商人の追跡をやめてエルたちに教えに行くべきか?おれはレイに相談する。
「どうするレイ。このままだと世界樹が……里が危険だぞ」
「分かってるよ。でもここは琥珀のネックレスを渡した商人を探すべきだと思うよ。ダークエルフが言ってたでしょ商人がどうとかって。きっとダークエルフとネックレスの商人は何かで繋がってるんじゃないかな」
「確かにな……よし、先に商人を捕まえてからにするか」
おれたちは上手いことその場を離れてバウバウについて行った。しばらく走っているとバウバウがようやく目的の商人を見つけたみたいだ。商人はのんきにも馬車を引きながら帰る途中だった。おれは無傷で捕らえるために魔宝具のロープを使って巻き付くように念じた。
ロープはスルスルと音を立てずに伸びていき商人の全身に巻き付いて見事なミノムシが完成した。主を失った馬は暴走しながら森のどこかへ走って消えてしまった。捕まった商人は身体をうねうねとさせながら逃げようとしている。おれたちは商人を逃がさないように囲んだ。
「お前がセルシスにこの琥珀のネックレスを渡した商人だな!」
おれが琥珀のネックレスを見せると商人が目を丸くして驚いていた。
「それは……何でお前らみたいなガキが持ってるんだ⁉作戦は成功したんじゃないのか」
「作戦が何だって?」
「お前たちに行ったら俺の命が危ない。言えるものか!」
商人の態度にレイが脅しをかける。
「今の状況もあなたにとっては相当不味いと思うんだけど……どうかな?」
レイは短剣を鞘から抜いてギラリと刀身を光らせると商人はビビり散らして終いにはギャーギャー泣き始めてしまった。
「……します……話します話します話します、話しますから殺すのだけは勘弁してください!」
「お前の作戦とかいうやつの内容次第だな」
「そ……そんなぁ」
おれたちは商人から琥珀のネックレスの真相を聞き出すことに成功した。
「実はこのネックレスは俺の物じゃないんです。とある人物が物凄い額を金を出して、『誰でもいいからエルフに渡すように』って脅してきたんです」
「渡してきたって誰なんだ?」
おれが誰かを聞こうとすると商人は顔を真っ青にして汗をダラダラと流しながら拒否した。
「それだけは言えません。言ったら殺される」
このままだと何もしゃべらなくなりそうだったので深くは質問しないことにした。
「分かったよ。さっきの話を続けてくれ」
「作戦としてはそのネックレスでエルフを操ってダークエルフを殺して両者間を仲違いさせるのが目的だって言ってましたあ。本当なんですよー旦那ー信じて下さぃ」
「泣かずに話せよ」
「ずびばせん~でもしくじったらあいつに殺されちゃうよ」
「つまりお前の話が本当ならそのネックレスを渡してきた奴が仕組んだことなんだな!」
「そうです、俺は脅されて渡しただけなんです。本当に俺はただ花を仕入れるだけのしがない商人なんですよぉ」
ネックレスの事件の状況を大体把握したおれたちは泣き叫ぶ商人を一旦黙らせるために口にもロープを巻き付かせて猿ぐつわのようにした。とりあえずこいつを運ぶためにレイの補助呪文で強化して軽く持ち上げようとした時、背後から凄まじい殺気のようなものを感じると同時に恐怖心のようなものも芽生えた。一体誰なんだ⁉こんなのを放っている奴は。おれが勇気を出して振り返るとさっきまで誰もいなかったはずの場所に謎の男が立っていた。
同様に姿を確認した商人は泡を吹いて気絶してしまった。おれとレイは急いで武器を構える。謎の男はこちらに近づきながら話し始めた。謎の男は紫色の鎧を身に纏っていて腰元には剣を二つ差している。顔は切れ長の目に紫色の瞳を持っており、小さめの丸眼鏡をかけている。
「先ほど、ダークエルフの連中を見かけたが……どうやらワタクシの作戦は成功したみたいだな」
「お前がネックレスを作った張本人だな!」
「その通りだ。まさか君たちのような子供がネックレスの魔法を解析するなんてね。実に興味深いよ。時間があれば研究してあげたいな」
全身に立つ鳥肌が止まらない。この身の毛もよだつような感覚にあの奇抜な色付きの鎧……まさかとは思うが。
「お前はもしかして七玹騎士か⁉」
「最近の子供の推理力は素晴らしいな!まさかこちらの地方にもワタクシたち七玹騎士の名が広がっているとは。それとも君たちもサンアスリム地方の生まれで七玹騎士のファンなのかな?」
「そんなわけないだろ。お前が七玹騎士っていうならおれはアンタを討つだけだ」
「随分と熱心なファンだね。サインならまた今度にしてくれよ。ワタクシは皇帝陛下の大切な政策の内の一つを任されていて、その成果がようやく出そうな所なんだ!」
政策ってのはこの間ヴァントが言っていたやつの事だろう。世界をひっくり返すとかなんとか言ってたっけ。でも今はそんなことはどうだっていい、目の前に憎むべき相手がいるんだ。おれは容赦なく壊れた剣で七玹騎士に斬りかかった。おれの攻撃を七玹騎士は難なく躱し続けた。
「活きがいいね、剣も壊れてこそいるけど素晴らしい太刀筋じゃないですか。才能がありますよ。君の生まれ故郷は?魂色は?今まで戦った中で誰が一番強かった?」
何だこいつは……戦いづらい。さっきから変なおしゃべりばっかりで気が散る。反撃してこないのが余計に不気味さを増加させている。
「質問ばっかりじゃなくてアンタの事を教えてくれよ」
「ワタクシに質問してくるなんて珍しいですね。いいですよ、教えてさしあげましょう」
七玹騎士はそう言いながら眼鏡をクイッと上げた。
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