第28話 決戦!究極の力 緑騎士のヴァントⅡ

 おれは壊れた剣に魔法をかける。


「もう一度だけ一緒に闘ってくれ!”フレイムブレード”【蒼炎の刃】」


 剣の欠けた部分に炎が纏われたことで壊れた剣はもう一度戦うための力を得た。ヴァントの一撃を両手の剣で受け止める。互いの剣が激しくぶつかり合う。だけど相手の方が技術も駆け引きも何枚も上手だ。おれは炎の剣で敵の剣を受けきってから短剣を逆手に持ち替えて相手の首元を狙う。しかし、おれの一撃はヴァントの剣の柄頭の部分で受け止められてしまった。


 ヴァントが横に切ってきたがおれは攻撃を跳んで躱してから脳天目掛けて剣を振り下ろす。決まったと思ったが風の魔法で吹き飛ばされてしまい背中から床にぶつかってしまった。ヴァントはすかさず追撃に入るが奴の背後に位置どっていたエルが弓に矢をつがえる。


「レイ、もう少し右に半歩移動して」

「了解!」

「レイ!首を左に傾けて」

「了解‼」


「確実に射抜く!””ニガジュラスアロー”【黒幻樹の剛矢】」


 エルの矢は確実にヴァントの姿を捉えていたが奴は後ろを振り向くことなく矢を剣で弾いた。まるで後ろに目がついているみたいだ。


「3対1なら少しは楽しめるかもな~えぇ~ディール君⁉」


 このままだと勝てない、それにおれが放った炎が周りの本や柱に引火して火の手があがっている。戦いは再び魔法の乱打戦になるが魔力の底が尽きそうなおれはデカい威力の魔法を打てずに数で押し切るしかなかった。当然、ヴァントはものともしないがおれたちの連続攻撃に段々苛立ちを感じ始めているはずだ。証拠に眉間にはシワが寄り、片目を眇めている。奴も完全無欠じゃない、どこかに隙があるはずだ。


「魔法は組み合わせることによって性質も効果も変わるって知ってるか?”フーラン”【突風】+”プロシルド”【防護壁】」


 ヴァントは片手に風の魔法を生み出してから自分の周囲に球体上の防護壁を張る。


「”サークルフーラン”【嵐の円舞】」


 ヴァントが呪文を唱えると奴の周りに風が防護壁を覆うようにして風の膜が出来た。この感覚はまさか……。おれは走ってレイたちを守るように前に立つ。ヴァントが膜の中の何もな場所で剣を振るう。すると微かに見える程度の風の斬撃が飛んできた。おれは風の斬撃を切り裂いて破壊する。


「よく今の攻撃が見えたじゃないか!次行くぞ~」

「レイはおれの後ろにいてくれ」


 ヴァントは膜の中で剣を高速で振って無数の斬撃を作り出して飛ばしてきた。おれは全ての斬撃を正確に真っ二つにして身を守る。このままだと押し切られる。おれは少しずつだが前に進み始める。走って風の斬撃を切り刻み奴の元へと近づく。近くまで来たところで飛び出して風の膜に炎の剣を突き刺す。


「あの斬撃の中を走って突っ込んでくるなんて狂ってるな~お前」

「貫いてやる!この防護壁もお前の高いプライドごと!」


 おれが剣に込める力を強めると防護壁にひびが入り始める。ダメ押しでひびの入ったところにグリンドを撃ちこむと防護壁は粉々に砕かれた。おれは短剣の方でヴァントに斬りかかる。しかし、おれの攻撃は鎧を傷つけた程度で終わってしまった。その後はまたヴァントと打ち合いになった。いくらおれがレイの魔法で強化されていても奴には実力が届いていない。


 ヴァントに勝つには三人の力を合わせるしかない。それにもう時間が無い、燃焼が進む仙郷の大図書館は柱が倒れて上の階層の通路が落ちてきている。おれはもう一度レイたちの所に下がって最後の策を伝える。


「レイは残りの魔力を使っておれの身体硬化を捨てて残りを力と速度を割り当てて底上げしてくれ」


 レイは険しい表情を一瞬だけ見せたが渋々了承した。


「分かったよ、君の策に乗る」

 

「次にエルはおれが全力の魔法を撃ったタイミングに合わせて火力を上げるための風魔法を使ってくれ。もっと強い炎が出れば奴にも消せないはずだ」

「あなた死ぬ気じゃないわよね」

「大丈夫。おれが戦うときは勝って生き残れる策しかとらない」


 おれは二人に作戦を伝え終えるとヴァントの方へと歩き出す。


「どうした~作戦会議は終了か?」

「次の一撃で決着をつけてやる。覚悟しろヴァント!」

「最高にワクワクさせるじゃないか~来いよ、青のガキ」


 さっきよりも身体に力が漲って軽くなった気がする。レイが魔法を調整したからだろう。おれは最後の賭けに出る。それを察したヴァントも指をパチンッと鳴らして最後の魔法を繰り出してきた。


「”クレイゴッド・ストーム”【狂った嵐神の息吹】」

「”バーンアサルト”【蒼炎突貫】」


 ヴァントの周りから無数の暴風が生み出されて鞭のようにしなり周囲のものを簡単に砕いて破壊していく。おれの方は全身に蒼い炎を纏いヴァントに向かって突進する。おれの蒼炎とヴァントの風がぶつかり合う。しかし、奴の風の方が勢いが強くおれの皮膚が鋭利な刃物で切られたように全身に傷がつく。おれは競り負けないように身体の底から魔力を捻りだして炎に変える。もっとだ!もっと強い炎を。


「”ブリモルズ・フーラン”【心地良きそよ風】」


 背後からエルの魔法を唱える声が聞こえた。次の瞬間エルの魔法がおれの炎の火力が上がった。同時に強風の中を貫いて目の前にヴァントが見えてきた。


「俺の最強最大の技を無理矢理越えてくるなんてな~。こんな強敵は久しぶりだ」

「アンタは必ずここで倒して見せる!」


 おれはヴァントを吹き飛ばして追撃する。


「竜のように駆け上がり万物を断ち切れ!”双竜斬”」


 おれはヴァントの腹部目掛けて両方の剣を突き刺し、足に思い切り力を込めて真上に飛び上がる。突き刺さった剣はヴァントの鎧ごと切り裂いていき奴の肩まで到達した。初めてヴァントの身体に傷がついて血が噴き出す。しかし、流石は七玹騎士だ。悲鳴の一つもあげない。


「やるじゃ……ねえか。ガキのくせに……これが青の魂色の力かよ」

「まだ終わりじゃねえぞヴァントオオォォッ‼」


 おれは空中で短剣を逆手に持ち替えてヴァントの顔面を斬りつけた。ヴァントは防ぐことが出来ず顔を反らしたことで端正な顔立ちの右頬に縦一直線に傷が出来た。ヴァントは後ろに跳んでから予言書が自分の手元にあるのを確認する。


「残念だけど遊びはここまでだ、任務は果たさないといけないからな。お前たちが脅威になりうるのはよ~く分かった」

「逃げるのか!七玹騎士ともあろう奴が」


「そうだよ、逃げるさ!それはつまりお前たちを認めたってことだよ。誇れよ!仲間の七玹騎士以外で俺に傷をつけたのはお前が初めてだからな。それと安心しろお前たちのことは俺の心の内にしまっておいて報告はしないぜ」

「何だって⁉」

「ディール……お前だけは俺の手で殺してやるんだよ。最高の獲物は誰にも渡すわけにはいかない。またどこかで逢おうな~」


 ヴァントはそう言うと手に謎の赤い石を持って思い切り握り砕いた。すると奴の身体はたちまち光り出してどこかへと飛んで消えてしまった。


「どこに行ったんだ!出てきやがれヴァント」

「ディール!もうじき燃え尽きて崩れちゃうよ、逃げないと」

「……クソォッ‼……あれは?」


 おれはヴァントがいた場所に落ちていた物を拾うとレイたちと一緒に焼け落ちる柱や床を避けながら仙郷の大図書館から脱出した。しかし、脱出したのはいいものの仙郷の大図書館がこちらに傾き始めた。それに気づいたエルが叫ぶ。


「このままだと建物の下敷きになるわ」

「皆、下の川に飛び込め!」


 おれたちは崖の下で流れている川に向かって飛び込んだ。水流に流されないように岸に向かって泳ぐ。何とか全員におぼれずに無事に辿り着いた。


「全員生きてるかー」

「こっちは大丈夫だよ」

「私の方もね」


 仙郷の大図書館は戦いのせいで全焼してしまったが死力を尽くした結果、敵を追い払うことが出来た。だけどおれには分かっていた、奴はまだ本気じゃなかった。七玹騎士ってのはあんな怪物じみた奴が七人もいることだ。きっとそれだけじゃないだろう、圧倒的な国力を持つのがカミオン帝国だ。おれたちはそんな奴らに喧嘩を売ってしまったわけだ。それにおれの青の魂色のことまで知られた。これからまた命を狙われることになるのかと思うと折角勝ったのに心が沈んで嫌な気分になった。

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