第27話 決戦!究極の力 緑騎士ヴァントⅠ

 エルの最上階からの落下にヴァントの持っている本、状況が上手く呑み込めないおれは困惑していた。レイが全速力で走ってエルの落下してきている地点の真下へと移動する。間に合わないかと思ったがレイはスライディングして両手を差し出してギリギリのところでエルを受け止めた。


「大丈夫かい、エル?」

「足を怪我したみたいなの。助かったわ、ありがとう」


 褒められたレイの顔がほんのり赤らんでいるのがこの距離からでも分かる。レイのファインプレーと二人が無傷とは言わないが無事だったところを見るにそれぞれ勝利したみたいだ。おれもすぐにレイたちの元に駆け寄る。


「予言書は見つけたんだけどあの騎士に取られてしまったわ。ごめんなさい」

「気にするなエル!おれたちで取り返せばいい」

「無理よ、あいつだけは格が違うの。緑の適正魔法の最大呪文を撃ってきた……あのレベルの呪文が使えるのは私のお母様、女王しか知らない」


 エルは震えながらレイの腕を掴んでいた。奴の事を話すエルの顔は恐怖のあまりひきつっている。余程のことが無い限りあのエルがここまで恐れるなんてありえない。奴に対してどうするべきか考えていると背後から階段を下りる音と鼻歌が聞こえてきた。奴が来たんだ。


 振り返ると予言書を赤子のように抱えて不敵に微笑むヴァントがいた。ヴァントは倒れているマンネスの姿を確認するとおれたちに向かって話し始めた。


「俺の部下を全員皆殺しにしちゃうなんてな~、驚いたよ。ここまでやった事と歴史の書を見つけてくれた事、褒めてやるよ。本当はさ……部下を皆殺しにしたのを歴史の書で帳消しにしてやろうと思ってたんだ~。だけど……面白いもの見ちまった」


 ヴァントはゆっくりとおれのことを指さした。その楽し気な表情はまるで幼い子供っぽさを彷彿とさせている。


「お前だよ、黒髪のガキ!あの蒼い炎は見たことが無い。ギルズとはよく話すから分かる、赤の魂色とは違うはずだ……お前の魂は何色だ?」

「ここから逃がしてくれるんだったら教えてやってもいいぞ」

「ハッハッハッハ!それは無理なお願いだな。俺はお前と戦ってみたくなったんだよ」


 どうやらまだ戦いは終わってないみたいだ。いや、むしろここからが本番だな。おれは少しでも二人が休めるようにヴァントとの対話を引き延ばしてみる。


「そんなにおれの魂色が知りたいなら予想してみればいいじゃないか」

「頭を使うのは得意じゃないんだけどな~。強いて言うんだったら赤か”青”だな。どうだ、あたりか?」


 思わぬ正解におれは驚いてしまい変な顔をしてしまったんだろう。ヴァントの予想は確信に変わったみたいだ。奴は笑いながら続ける。


「その表情を見るにどちらかが正解みたいだな。いや~これは青一択かな?三年前の謎の抹殺命令が出た青を持つ例のガキってお前の事だろ!」

「だったらどうするんだ。国に帰ってチクるのか?」

「そうだな~皇帝陛下は既に青のガキが死んだものだと思ってご安心しているから、ここで殺しておけば報告しなくてもいいだろ。な~もうおしゃべりはいいだろ、さっさと殺し合おうぜ。この楽しみは誰にも渡すわけにはいかないからよ~」


 おれはチラッと後ろの二人を確認する。エルの治癒魔法やレイの薬草を使って回復しているがエルの足は現状まだ動かせそうにないな。まだまだ時間が足りない。おれは核心を突くための質問を続ける。


「アンタらの皇帝は何で血眼になってまで青の魂色を消そうとしているだ?青の魂色なんて歴史には載っていないし知る術もないはずだろ」

「そう言えば俺は知らないな~。多分、他の七玹騎士も宰相も全員知らないだろうよ」

「なら質問を変えさせてもらう。アンタらの皇帝の目的は何だ?その本を手に入れてどうしようって言うんだ」


 おれの質問を聞いてヴァントは少し悩んでから答える。


「良いこと教えといてやるよ、皇帝陛下はもうじきフォルワの歴史を変える。後ろについていくだけでこんなに面白いことが起きるのはあのお方しかいないからな~。くだらない石ころに刻まれた千年前の条約も国家同士のがんじがらめなルールも新しい時代とともに生まれ変わるぞ」


 皇帝が何かをしでかさないように予言書が渡るのだけは阻止しないといけない。


「もうおしゃべりは充分だろ。さあ、殺し合おう!この最高なショーはここからがクライマックスだ‼」


 おれも腹を決めて壊れた剣をヴァントに向けながら負けじと返す。


「おれたちがカミオン帝国の主力であり核でもあるアンタに勝ったらカミオンの底が……アンタらの力が見えてくる気がする」

「お前は俺を飽きさせないな!できれば万全な状態で殺り合いたかったが、戦えるチャンスは今しかねえからよ、悪いけど容赦はしないぜ」


 おれたちは互いに武器を構えてしばらくの間沈黙が続く。この静けさを破ったのは魔法だった。


「”グリンド”【衝撃波】」

「”フーラン”【突風】」


 互いの魔法による初撃が空中でぶつかり合って消滅した。魔法同士の衝突は凄まじい勢いで破裂してこちらまで風が飛んできて吹き飛ばされそうになった。おれは次々と魔法を連発する。


「”グリンド”!”フレイム”【蒼炎弾】”フレイムガン”【蒼炎連弾】!」

「”フーラン” ”フォウ・フーラン”【暴風】」


 魔法同士の衝突がどんどん激しさを増していく。このままだとこっちの魔力が持たない。レイはエルと一緒に固唾をのんで隙が生まれないかどうかを見ている。


「ディール、このままいけば押し切れるかも!」

「いや、奴はわざとおれと同じ出力で魔法を放って正確に当ててきやがる。遊ばれてんだよ」

「嘘でしょ……そんな離れ業。普通の人間には到底出来るはずがないよ」

「それが出来るのが”七玹騎士”なんだろ!とにかく気を抜いたら一瞬で死ぬぞ」


 二人に作戦を伝えるためにはもう少しだけ時間が欲しい。だけど今攻撃を緩めたらおしまいだ。おれは一か八か新呪文を試す。


「”フレイムウェイブ”【蒼炎烈波】」


 目の前に炎の波が出現して本物の波のようにひいては押し寄せるようにしてヴァントを襲う。ヴァントは少してこずっているようだ。だが奴にとってはこの呪文も子供騙しに過ぎないんだろう。おれは今の内に急いで作戦を伝える。


「レイはエルをカバーしながらおれを援護してくれ、命を懸けないと奴には勝てない。いざとなったらおれを見捨ててでもいいから逃げろ」

「逃げるのだけはお断りだよディール!生きるなら二人一緒さ」

「分かった、それとレイの短剣を借りてもいいか」

「いいよ、君の好きに使って暴れちゃってよ」


 おれはレイから短剣を受け取ってから両手にそれぞれ壊れた剣と短剣を装備する。後ろではレイたちが準備を進めている。


「エル、おんぶするよ」

「そんな!悪いわよ。一人で歩くわ」

「どう見たって大丈夫そうじゃないでしょ。君一人を背負って移動するぐらいなんてことないし、僕はディールが勝つって信じてる。だからこそ僕たちは援護に徹して邪魔にならないようにしないと」

「……私もディールの事を信じてる。しょうがないわね。レイ、私を背負って」

「お任せあれ王女様!」


 レイはエルをおんぶしてヴァントから離れるようにして移動した。炎の波を振り払ったヴァントは剣を構えておれに向かって襲い掛かってきた。


「緑騎士のヴァント。吹きすさび荒れ狂う嵐のように暴れるぜ」

「かかってこい……ヴァント!」

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