第26話 偽りない怒りと目覚める青魂 ディールVSマンネス
エルから作戦成功の報せが聞こえてきたおれは予言書を探すのをやめてマンネスと戦うことにした。おれが奴の後ろから飛びかかって不意打ちを仕掛けるがマンネスはとんでもない反射神経で攻撃を躱しておれは無様にも床に転んでしまった。マンネスはその隙を逃すはずもなく大きく振りかざした斧による一撃を繰り出す。おれは何とか横に転んで躱してから体勢を立て直す。
「今のは危なかったな……」
「オレの戦斧は万物を叩き切るぜ。手前も例外じゃねえ、一発でお陀仏だよ」
マンネスは斧を軽々と頭上でぶん回して偉そうにカッコつけている。こっちも負けじと返す。
「その程度の斧捌きじゃ菜っ葉も切れねえよ」
「ガキのくせに言うじゃねえかよ。切断されるなら縦がいいか?それとも横か?斜めでもいいぞ!いずれにせよ手前は真っ二つにしてやる」
おれは剣を構えてマンネスの次の一撃に備える。マンネスの攻撃を横に飛びのいて躱してから奴の脇腹に一太刀浴びせることに成功する。しかし、斬られたマンネスは少しさすった程度で気にしている様子はない。むしろ好敵手と出会えたことに対する喜びに近い何かを感じている気がする。それにしても気になるのは奥の椅子に座って見物しているヴァントだ。奴も得体が知れないというか実力の底が見えない。おれの視線に気づいたヴァントが拍手をする。
「久しぶりに面白い戦いが見られそうで嬉しいね~。マンネス、期待してるぞ~こんなガキに部下が全滅したなんて知られたら俺の七玹騎士内での立場が無くなるよ」
ヴァントの一言にマンネスは気合いを入れなおして余計に手ごわくなってしまった。
「ヴァント様に恥はかかせません。あなた様に頂いたこの斧に誓って!」
おれの剣とマンネスの斧が激しくぶつかり合い火花を散らしている。マンネスの斧の柄がおれの背中に直撃して吹っ飛ばされる。おれは本棚にぶつかってしまった。すぐに立ち上がって反撃する。おれは奴の足元をスライディングしながらくぐり抜けて腿を斬りつける。
マンネスが斧を背中に納めると腰元から手投げ用の斧を取り出し両手に持って話し始める。
「オレの斧からは逃げられないぞ!”エンプコフ”【円斧弧斧】」
奴が斧を投げると片方の斧は弧を描くようにおれに向かって飛んでくる。もう片方の斧はその場でマンネスの周りを回転しながらおれのいるところまで円が徐々に大きくなっていく。おれは一旦弧の方の斧を横に飛びのいて躱してから円の斧を剣で弾いた。
「今のは時間差による攻撃だな。タイミングさえつかめば当たらないはずだ」
「これで終わりなわけねえだろ!この技はここからが本番なんだよ」
マンネスは背中に背負っていた鉄の箱の中から斧を取り出すと次々と投げ始めた。最初は二つだった斧が次第に数と勢いが増していき毎回異なるタイミングで斧が飛んでくるもんだから剣で弾き切れずにおれは走って逃げ回ることにした。しかし斧の追撃が止むことはなく、正確におれを捉え始める。
「そらそらそらそらそら!逃げ回ってちゃオレには勝てないぞ、そら!」
「何⁉うわァァッ!」
正面に飛んできた斧を剣で弾くと背中に激しい痛みが走る。どうやら斧がおれの背中を切り上げるようにして直撃したみたいだ。おれはその場に倒れてしまう。すぐに追撃を躱すために這って本棚の裏に移動してから治癒の魔法で傷を癒す。このままだと奴の斧にハチの巣にされちまう。
おれが策を練っていると本棚のある円形の通路にも斧が飛ぶようになってきた。おれは咄嗟にしゃがんで躱すが隠れていた本棚はマンネスによって縦に真っ二つに裂かれて破壊された。逃げようと走ったところをマンネスに気づかれてしまい腕を掴まれて高く上げられる。
その様子を見ていたヴァントは結果は決まったなと満足げな表情で階段を上がっていった。
「カミオン帝国に楯突いたことを後悔させてやるよ」
マンネスの怪力で腕を握られて今にもへし折れそうだ。だけどおれは引かずに空いている方の手でグリンドを放って奴の顔面に直撃させる。衝撃波を食らったマンネスはおれを手放して後ろに吹き飛ぶ。
おれは近くに落ちた自分の剣と手斧を拾う。対するマンネスも起き上がって背中の斧を構えて突進してくる。マンネスの一撃を剣で受け止めたが耐え切れずに剣の先が折れてしまう。おれは降りかかってきた斧を後ろに躱してから狙いを定めて手斧を投げる。手斧は見事に奴の肩に刺さった。
「雑魚でも時には強者に牙を剥くってのは面白いな!」
「いつまでも自分たちが頂点にいられると思うなよ!カミオンの奴らは誰であろうと全員ぶっ倒す!」
おれはまずグリンドで攻撃するが弾かれてしまう。次に斬りかかるが斧で簡単に受け止められてしまい腹に蹴りを入れられて尻餅をついてしまった。動こうとしたが喉元に斧の刃先が突き付けられてしまい少しでも動こうとすると刃先が食い込んで血が滲む。
「手前みたいな威勢ばっかりのガキをみてると、あの街で会ったあいつらを思い出して腹が立つなあ⁉」
「あいつらだって?」
奴の口から告げられたのは衝撃的な事実だった。
「ン?”あいつら”ってあの手足が妙に長い珍妙な奴らの事だよ。確か……四肢長族だったか?人間の真似してるみたいで気持ち悪かったな。ここまでの道を聞こうとした時だ、四肢長のガキが不愛想に返事しやがるもんだから腹が立って思わず切り殺しちまったよ!」
「何だ……と……⁉」
「そしたらよーあいつら血相変えてぶちギレやがって。『やっぱり人間はクズばっかりだ。折角歩み寄ろうとしていたのに』とかほざくもんだからオレたち三人で少しばかりヴァント様が来るまで人間様と亜人の違いを教えてやるために暴れまわってたらすぐに黙って逃げだしたよ。いい気味だな」
おれは少しずつ心臓の鼓動が早まり耳の奥がキンキンし始めた。怒りで視界が歪み、噛みしめた唇からは血が滴る。震える身体を抑えながら冷静さを何とかして保とうとするが底から湧き上がる怒りが止まらない。
「お前たちはいつもそうだ……何でそんなことが出来るんだ……彼らは人間を少しずつ許そうとしていたのに、四百年の恨みを失くそうとしていたのに!」
「何だあ?手前もあいつらに会ってたのか。手前も思っただろ気持ち悪いやつらだってなあ⁉」
「他人の大切なものを平気で壊して踏みにじる。アンタたちみたいな奴らがいるから他種族は人間を避け始めたんだ!……おれがアンタらカミオン帝国を許せない理由がまた一つ増えた」
「言いたいことはそれだけか?亜人を擁護するような馬鹿な口を閉じなァァッ!」
マンネスが斧を大きく振りかぶってとどめを刺そうとしている。もうダメかと思った時、頭の中に聞いたことのないが柔らかくどこか懐かしい感じのする声が響く。
『君の青魂の力を開放するんだ。君だけの色で……君だけの力で戦え!魔法はイメージだ。それが君の力になる、願え‼』
おれは目を開いて頭に浮かんだ呪文を唱える。
「”フレイム”【蒼炎球】」
おれの周りを蒼い炎が包み込んで手のひらから放たれた球状の炎がマンネスに襲いかかる。身体が燃えているマンネスはその場で転がりまわって炎を消そうとしている。おれが驚いたのはこれだけの炎に包まれているのに全く熱くないってことだ。もしかしてこの蒼い炎がおれの適正魔法なのか!奴が怯んでいる今がチャンスだ。おれはフレイムを何発も撃ちこむ。
「”フレイムガン”【蒼炎連弾】」
マンネスが炎の中から出てくる。髪はチリチリになり肌は焼け焦げている。鋭い目は殺意にあふれている。
「その炎は一体何なんだ?まさか赤の魂色なのか⁉いや、蒼い炎なんてギルズ様が使っている所を見たことも聞いたこともない。となればあれは一体……」
「四肢長族を貶したアンタをおれは絶対に許さない。アンタだけでもおれが必ず燃やし尽くしてやるよ!」
マンネスが最後の攻勢に出た。斧を引きずりながら突進してくる。おれは立ち上がって初撃を躱して胸に斜めに一太刀浴びせる。傷口が発火してダメージを与えた。おれは攻撃の手を緩めずに炎を浴びせ続ける。しかし、魔法が不完全なのか奴の致命傷には至っていない。マンネスは自身がどれだけ火傷しようと炎の中を無視しておれを追いかけてくる。
先の欠けた剣を持って魔法を唱える。
「”フレイムブレード”【蒼炎の刃】」
欠けた場所が炎で包まれて剣の形状になった。おれはもう一度マンネスと鍔迫り合う。炎の剣はすり抜けずに実体を保っている。互いに力が入って身体中の傷口から血が流れ出る。
「オレはあぁぁ”戦斧のマンネス”だああッ!ヴァント様に勝利を捧げてみせる」
「人をただ傷つけるだけのお前らはクズ以下の存在だ。お前に傷つけられた人たちの想いを……怒りを受けてみろ!」
おれの一撃がマンネスの斧を砕いて胸に突き刺さる。マンネスは少しだけ後退りするが倒れる気配がない。おれも後ろに跳んで距離を取る。多分、これが最後の攻撃だ。おれたちは互いに睨み合う。砕けた斧の柄だけを持ったマンネスが突進してくる。おれはフレイムを放つ。しかし、おれの呪文をものともせず持っていた斧の柄で振り払った。だがおれはそこまで読んでいた。
「そんな炎はもう効かんぞ!」
「そんなこと知ってるよ!これで終わりだ」
おれはフレイムを放った少し後に近くに落ちていた欠けた剣の先を拾ってマンネス目掛けて力を振り絞って投げていた。投げられた剣の先は無防備なマンネスの不意をついて脳天を貫いた。マンネスは頭から血を滴らせながら最期の言葉を残して倒れる。
「油断したオレの負けか……ピナート、ラフルオすまない。ヴァント様とカミオン帝国に栄光あれ‼」
マンネスを討ったおれは奴に突き刺さったままの剣を回収して腰に納めて剣に感謝の言葉を伝える。
「ごめんな無理な戦いばっかりして、壊して。今までありがとう」
この戦いのせいで身体中の傷が痛む。特に背中がひどい。おれは他の仲間の所へ向かうために階段へと近づくとレイが走って階段を駆け下りていきどこかへと向かっていく。おれはレイの行く先を確認すると上からエルが落下してきていた。そして階段越しではあるが上にいるヴァントと目が合った。奴は不敵な笑みを浮かべている。
奴が手に持っているのはまさか!
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