第25話 奇策連発レイVSピナート

 レイはディールと別れた後、真の歴史書を探すために上の階層に向かい、そこでエルと合流してから作戦を伝える。


「エル、真の歴史書を探してほしいんだ。それを見つけたら死守して」

「分かったわ。発見したら教えるわね」


 レイは去り際にエルに補助魔法をかけてから下の階層に移動する。移動した先ではピナートが既に待ち構えていた。


「お前をどうやって潰してやろうか今から楽しみだふー。覚悟しろふー」

「君に潰される予定は無いかな。それと君たちに構っている暇なんてないんだ、迅速に倒す!」


 レイは短剣を構えてエイリレ流剣術の【柔の構え】をとる。ピナートは息をフーフー吐きながら柱のように太い槍の切っ先をレイに向けて構える。しばらくの沈黙が両者を包み込む。聞こえてくるのは各層で戦っている仲間たちの音とピナートの鼻息だけだ。


 ピナートが動く様子が無いのでレイは一気に距離を詰めて死角から突く。しかし、ピナートは体躯に見合わず以外にも俊敏な動きを見せてレイの一撃を槍で弾く。ピナートが反撃のために槍の石突の部分を使って攻撃した。


 このままでは確実に直撃すると思われたがピナートの目の前からレイは急に消え、石突は空を切った。ピナート本人は何が起きたか理解できていなかった。そしてその隙を突いてレイはピナートの背中に【柔の構え】の長所である連続攻撃を容赦なく与える。


「何で目の前にいると思ったら後ろにいるんだふー。背中が痛いでふー」

「今のは新呪文”アジルア”【加速】自分の素早さを引き上げる呪文だよ」


 レイは加速する呪文を要所要所で使用することで瞬発的な速さを手に入れて躱すことが出来ていた。しかし、相手は強敵、次第にレイの加速するタイミングを掴み始めていた。再び目の前に出てきたレイを先ほどと同様に石突で攻撃した。当然躱されるがその後すぐに槍を自分の背後に向かって突きだした。するとピナートの背後を取っていたレイの肩に槍の先端が突き刺さる。


「速いだけなら簡単に突き刺せるふー」

「この程度で終わるわけにはいかない」


 レイは肩に刺さった槍を抜くと距離を取って体勢を立て直す。

 

「オデの槍捌きを受けるふー”柱叩き”」


 ピナートは槍を叩きつけるようにしながらレイに攻撃を仕掛ける。レイは瞬時に【流の構え】をとり、受け流しに専念する。しかし、元々この構えは技量が問われるがゆえに今のレイでは完全に受け流すことが出来ず、重い一撃に耐え切れずに腕を痛めて構えが崩れてしまい、槍の柄の部分が肩を直撃する。レイは痛みをこらえながらも反撃のチャンスを窺う。


「肩の傷が……深い……このまま攻め続けられたらいずれミンチにされちゃうよ。何とかしてこの状況を打開しないと」


 レイは袋から魔宝具の一つである魔法の小瓶を取り出して中に植物を入れて振り始めた。


「どうしたんだふー?何か薬でも飲む気かふー」

「それは秘密だよ」

「隠し事は気になるふー」


 短気なピナートは腹を立てて再び暴れ始めた。槍の勢いはさらに増していく。肩の傷が痛むレイは受け流すのをやめて躱すことにした。


「(あと少しだ。これだけ激しく動いていればいずれ息があがるはず)」

「ふぅ――――――!!!もう疲れたんだふー」

「今だ!」


 レイはピナートが肩で大きく息をした瞬間を見逃さずに魔法の小瓶の中身をピナートにぶちまける。小瓶の中から、いかにも毒ですと言わんばかりに毒々しい色をした霧が飛び出す。それを大量に吸い込んだピナートはその場にうずくまる。


「ぐ……ぐへぇ。何をしたんだふー!」

「ユメミヅルにグラグラセリの葉、チトボドウの花を少々、そして最後に水を混ぜることにより完成する。ネウィロスさん直伝の即効性のある毒薬さ」


 怒り狂ったピナートは先程よりも激しくレイを攻め立て始める。レイは躱しながらも少しずつだが敵の攻撃を【流の構え】で弾き返しだす。肩を怪我したことで無駄な力みが無くなったことがレイに成長を促した。まさに奇跡、怪我の功名である。ピナートから焦りの表情がうかがえる。このまま耐えきれば奴の身体に毒が回ってレイの勝利は確実だ。


 ピナートは毒で身体が蝕まれる前に決着をつけるために短期決戦に臨む。槍の丸っこくなっている石突の部分を持って肩に担ぐ。


「こうなれば最後の大技で行くしかないふー!”独楽切れミンチ”」


 槍を担いだピナートが自分事回転しながら槍を振り回す。するとその周囲に空気の流れが生まれて散らばっていた本がピナートの方へ吸い込まれてしまう。レイは近くの本棚にしがみついて必死に耐えるが片手だけでは長い時間支えきることが出来ない。


「ふふふ!ふ――――――。いつまで耐えられるかな?バラバラにするのが待ちきれないふー」

「このままだと吸い込まれて切り刻まれちゃうよ。あんな隙のない技、どうやって突破したらいいんだ?」


 回転しているピナートは槍を波のように上下に振って揺らすことで上下の隙間を無くすことが出来た。そのせいで足や頭を狙うことが不可能になっていた。


「ディールなら必ず敵のことを観察するはずだ。そこから弱点を見出して勝利の道を創り出す」


 レイは周囲を見渡してみるがここには本棚しかなく空中には本しか飛び回っていない。絶体絶命の状況でレイは覚悟を決めて短剣を握る力を少しだけ強くする。もう一度、加速と筋力強化、身体硬化の呪文を自身にかけて万全の状態にしてタイミングを計る。


「(あいつに直接突っ込むしかない、覚悟を決めるんだ。ジェオールの名に懸けて、あいつを討つ!)」


 次第に回転は早まり本棚まで吸い込まれ始める。レイは本棚を蹴ってピナート目掛けて飛び込んだ。標的が突っ込んできたのが見えたピナートは笑う。


「ふふー突っ込んでくるなんて馬鹿だな!」

「最後に勝つのは僕だ!行けえぇぇッ‼」


 レイは槍の回転をくぐり抜けて短剣は確かにピナートの心臓のある位置に突き刺さった。レイは突き刺さった短剣から手を放して距離を取る。ピナートは痛みのあまり悲鳴をあげて回転をやめて槍を床に落とす。口から血を吐き出しながら奴は笑う。


「オデがガキに負けるなんて……こんなのありえないふー……申し訳ございませんヴァント様ァァ!」


 ピナートは床に突っ伏して息絶えた。レイはピナートの身体を仰向けにして刺さっている短剣を抜き取って鞘に納める。


「勝利の女神は僕に微笑んだみたいだね……」


 ”仙郷の大図書館中層の戦い”はレイが勝った。彼は戦闘を終えて痛む肩に薬を塗りながらディールの元へ向かおうと階段を下りていると凄まじい破裂音のような爆音とともに仙郷の大図書館が揺れる。レイが上を見てみると床に空いた穴からエルが落下してきた。


「あれは……嘘でしょ。エル!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る