第18話 妹・栗林人生

「エリスさん、この前借りた押し付けられたDVD、夜のお嬢様は~ってやつですけど……」


 メイド喫茶も閉店時間を迎え、各メイド達は店内の清掃を各々勤しんでいた。


 件のDVDとは、夜には主従が逆転するお嬢様とメイドのえっちな内容のものである。


「そっちに目覚めたん?マロンはどっち?って聞くまでもないか。それで誰と試したん?」


 エリスが怒涛の勢いで浪漫をまくしたてる。


 浪漫は返答に困るが、先日のルキアとの事を素直に吐露した。


「あ、まぁある意味ルキアを育てたのは私だもんな。マロン、それならせっかくだし今度私ともするか?多分加減出来ないけど。」


「遠慮しときます。」


 口を動かしている浪漫とエリスではあるが、きちんと清掃の手は動かしている。


 先日のなんとなくの残骸を見ている浪漫は、この女に身を任せたたとんでもない事になる事が目に見えていた。

 

「遠慮せんでも……こないだ風邪ひいた時も拭いてあげたじゃん。」


 浪漫が風邪をひいたあの日、病院から戻った後で着替える際に浪漫はエリスに身体を拭いて貰っていた。


 その際に身体をちょこちょこ弄られていたのである。朦朧としていたため、なし崩し的にされるがままとなっていたのである。


「そういえば色々触れられた記憶があります。」


 主に背中から手を回されて胸を散々触れてきたりとか、穿かせるために尻や足の付け根や太腿をやたら触ってきたりとか、浪漫は朦朧としていてもそれなりにしっかりと覚えているのである。


「それで例の親友ちゃんはやっぱりその後は予約、取れなかったのな。まぁ人気嬢はどの業種もそんなもんだよ。」


「そういうものですかねぇ。チャンスはまだなくなったわけじゃないですし。って早く閉店作業終わらせましょう。」






「ただいま。」


 浪漫が帰宅すると、リビングには既に誰もいない。


 両親は仕事によっては早い時も遅い時もある。


 基本的には世間一般が夕飯を取る時間には、全員揃っているのだが……


 浪漫がバイトを増やしフィールに通うようになってから、家族揃っての夕飯というのは減っていた。


「おかえり、お姉ちゃん。」


 浪漫が冷蔵庫からエナジードリンクを取り出すと、高校生になる妹がリビングに入って来た。


「うん。ただいま。」



「最近毎日遅いね。こないだ風邪ひいたばっかなんだから、あまり無理しちゃだめだよ。」


 妹も浪漫と同じく、父の血が濃く出てるのか透き通るような銀髪だった。


 肩甲骨くらいまでの浪漫とは違い、妹は腰までのロングヘア―である。


 もし黒髪であったならば、委員長とか生徒会長のような優等生タイプといえたかもしれない。


 銀色だと可憐なお嬢様といったところか。


「うん、わかってるよ。」


「だといいけど。あ、お姉ちゃんこの後時間まだ大丈夫?」


 特に予定のない浪漫は日付が変わるくらいまでの時間ならばと返答した。


「久しぶりにゲームしようよ。」


 浪漫は入浴後、妹の部屋にお邪魔する。終わったらそのまま寝れるよう、寝間着と髪の手入れは先に済ましている。


 そして妹の部屋に入った浪漫が気になった事がある。


(なんで態々コスプレしてゲームするんだろう。)


 妹曰く、「この方が気合の入り方が違う。」だそうであった。


「それじゃぁ久しぶりに対戦しようよ。」


 妹……栗林人生くりばやし・ひとみは浪漫も通った女子高に通っているJKである。


 そしてどう考えても当て字である妹の名前、本人は特に気にしていないようである。


 姉浪漫ロマンである事から、妹は同じフランス語から人生ラヴィという名前でゲーム等をプレイしている。


 あまり浪漫には話していないが、人生は姉に負けず劣らずコスプレをしているのだった。


 姉と違い人前に出ているので、父が浪漫に売り子を頼まれているサークルの手伝いもしているのだが、浪漫はその事実を知らない。


 そういえば、イベント日その日は妹も家にいないな、友達の家にでも行ってるのかなくらいにしか思っていない。


「弱パンチ連打、しゃがみ弱キックからの~超必殺!サンダーソニックアタック!!」


「甘いっ!」

 

 必殺技が発動する直前、浪漫が操るキャラクターが頭突きを一発。


 キャラクターはスローモーションで後方へ飛ばされていく。所謂「KO!」である。


「あぁ!さんっ!」


「貧弱貧弱ゥ!」


 浪漫は、そして人生はゲームにのめり込むタイプである。 


 のめり込むというよりは、ダイブするというのが正確か、つまりはキャラになり切るのであった。



「あ~負けちゃったぁ。」


「もういい時間だし、そろそろ寝るよ?」


 戦績はほぼ互角。痛み分けするには良い対戦成績である。


(それにしても、人生ってば身体動かし過ぎ。色々見えちゃってたし。)


 人生はプレイ中事ある毎に、浪漫にスカートの中や胸元をチラ見せしてきていたのである。


 ゲーム中身体ごと動いてしまう人は一定数存在する。ただ、人生の場合はそれがどうも態とやっているような節がある。



「じゃ、おやすみ。」


 浪漫は眠い目を擦りながら自分の部屋へと戻って行く。


 そんな姉を見送った人生は、ゲームを片付け電気を消し、コスプレ衣装のままベッドに入ると……


「はぁ、お姉ちゃん……」


 自分の胸袖に顔を突っ込み何やら匂いを嗅いでいた。


 人生が浪漫に黙っている事がある。


 人生が纏っているコスプレ衣装、実は浪漫が着用したものである。(洗濯してあるかは不明)


 それなりの種類を持っているが、宅コスしかしていない浪漫は自分の衣装の把握をしていなかったりもする。


 時たま数着消えていても気付かない程度には……


 妹、栗林人生はお姉ちゃん大好きッ娘シスコンであった。




「あ、この人……」


 例によってトリスの予約が空いていないため、勉強後学のために誰かを指名しようと模索していた。


 その時に、これまでずっと「-」となっていて、本当に在籍しているかわからないキャストが予約可能となっていた。


 何故か気になってしまった浪漫は、先日のメイド以外のバイトでの臨時収入があるため、つい淡々と予約してしまおうという考えに至っていたのである。


(この日を逃したら二度と会えないかもしれない。それに……)


 初めておっきな……オーパーツをしたキャストだったのである。


(オパオパ……)


 浪漫の脳内には、とある昭和のセガの横スクロール型シューティングゲームが浮かんでいた。  

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