第15話 ついに予約と体育の日デー
「う、うそ……」
入浴が住み、バスタオル一枚の姿でリビングに戻ってくるなり、スマートフォンの画面を確認すると、そこには一つの予約を記す店長からの連絡が入っていた。
そこには日付とプレイ時間と予約者の名前が記されている。
「何度見ても予約者マロンと書かれている。心菜さん達が言っていた通り120分で。」
「落ち着け、心の準備は出来てないけどまだ数日ある。それにこんな時は……」
冷蔵庫から一つの缶を取り出しリビングに設置されている椅子に座ってプルタブに指をかけて開けた。
そのまま自宅で二次会とばかりにアルコールを摂取する。
「いやいやいや、私が原因とはいえ疎遠になりかけていたというのに……」
「いやいや、マロンは。浪漫はあれから何度も私にメールとか電話をしていたじゃないか。私がそれを拒否していただけで。」
「どんな顔して会えって言うの。」
まだマロン=浪漫と決まったわけではないが、トリスの中ではイコールで形成されていた。
さらなる飲酒をする事で、現実逃避するしかないトリスであった。
(もし仲直りする事が出来たら……また大学で高校時代までの時のように過ごせるかな?)
(それどころか……)
それ以上の妄想を脳内で進行させる前に、トリスの脳は覚醒する。
拭いているとはいえまだタオル一枚であったために身体が冷えたのである。
一方、時間は少し遡りフィールのキャスト達が女子会をしていた頃。
臨時収入も入り、次はどうしようかとフィールのホームページを閲覧している浪漫。
先日の湯女とのプレイはエリスが延長やホテル代含めて全て支払っているため、金銭的には少しばかりゆとりが出来ていた。
「あれ?昨日見た時は予約で埋まっていたのに。」
元々フィールに通う理由となっていたキャスト、トリスの予約が1枠空いていたのである。
キャンセルでも出来たのか、出勤時間の変更があったのか。
予約の空きがない状態の時のスクリーンショットでも撮影していればはっきりとわかったのだが、実際のところは浪漫にはわからない。
予約画面を進めていくと、問題なく進んでいくので誤りではない事を実感する。
心の準備など出来てはいない、しかしこの機会を逃したら次はいつになるかわからないという思いが勝り、そのまま予約を進めていく。
幸い時間は自分がいつも行っている120分は確保出来るようで、唯一空いている土曜日の昼、正確には夕方であるが、さくさくと予約を済ませていた。
「あー、もし本当にトリスさんがトリスで、小串だったら……」
「気まずい事は気まずいけど、まずは謝ろう。私が付き飛ばしちゃったりしたから疎遠になっちゃったんだよね、多分。」
「正確には付き飛ばした事で拒絶されたと思わせちゃったんだよね、多分……」
浪漫は立ち上がると箪笥の引き出しを開ける。
その中から物色するかのように下着を、これでもないこれでもないと何かを探していた。
「あった、これだ。」
それは大学に入学する前に小串と一緒に買った下着だった。
これから大人の仲間入りなんだからと、少し奮発して、少し背伸びして、「見せる機会なんてない。」と言いつつも買った、可愛くも大人っぽい下着。
あの時浪漫が見せる機会なんてないと言ったのは、異性に対してであり他意はない。
お互いにプレゼントと言って買った下着ではあるが、別に友人同士の旅行等に着用したってなんの問題もない。
少なくとも小串には浪漫が異性相手に見せる機会がない事は理解している。
あわよくば自分との何かの時に着用してくれたら良いなという下心はあったかもしれない。
「どうせ見られる事になるなら……その時に穿かないでいつ穿くの、今でしょ!ってやつだよね。」
(それで別人だったら恥ずかしいだけだけど……)
お互いにマロンとトリスの正体に確信を得ているため、別人という可能性はほぼゼロとして考えていた。
「もし仲直り出来たら……その、する……んだよね。そうだよね、そういうお店だし。」
「いや、えっちな事しないお客さんもいるって言ってたっけ。」
「よし、あとの事はその時に考えよう。明日も早いんだった。」
日付が変わる前に浪漫は早々にベッドに入っていった。
明日が早いのは事実だが、妄想で眠れなさそうで羞恥を覚えてしまったのである。
「え?体育の日デー?」
「日とデーで二回言ってるけど大丈夫です?」
メイド喫茶では次のイベントの告知と話題で盛り上がっていた。
「こういう喫茶店では時事ネタは365日有効なのだよ、クリスマスやバレンタインみたいに絶対固定なイベントもあるけども。」
「まぁ、今週末の話だけどね。金土日と三日間。金曜日、マロンちゃんは体操服とブルマーね。」
何故か既に全メイド分の衣装が準備されていた。
マロンの体操服には「1-Aまろん」と書かれていた。
平仮名の方が可愛いだろ?という事である。
「なんで1-Aなんですか?」
他のメイドのお腹部分に貼られているネームプレートにも「1-B」とか「2-H」とか書かれている。
「そんなん胸のサイズに決まってるだろ。あとは数字の方は、店の在籍年数に応じてうまい事分配した。」
エリスがさらっと言ってのける。
在籍年数2年未満の浪漫は1年生という設定だった。
「やっぱりはみパンを直す仕草は可愛いよな。」
金曜日、大学が終わりアルバイト先であるメイド喫茶に着くと、浪漫は件の体操服とブルマーを身に纏っていた。
下着がはみ出ないように、尻のサイド部分に指を差し入れ「パン」とブルマーを直したところ、エリスと店長である音々がガン見してしみじみと語っていたのである。
「そんなところ見ないでください。変態ですねっ。」
「ふ、変態じゃなければこんな事しないって。それと店長特権とか先輩特権だよ。」
「威張らないでください。」
浪漫は勤務のため、更衣室を出て行った。
店内では既にオープンである10時から様々なメイド(体操服)と客で所狭しと賑わっていた。
イベントの特殊性からこの3日間は完全女性専用で男子禁制である。
これまでと同じように接客を続ける浪漫。
しかし今日はどこか精彩を描いていた。
クレームになる程の事はなかったが、店員の中では見逃せない些細なミスが続いていた。
「マロンちゃん、顔赤いけど大丈夫?」
横を通り掛かった桜花が、浪漫の様子がおかしい事に気が付いて声をかけていた。
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