第13話 ルキアの疑問

「勇気が出ませんでした。」


 

「は?」「へ?」「ん?」


 エリス、湯女、ルキアの驚きの言葉である。



「まぁ、突撃隣のなんとやらみたいには訊ねられないか。」


「拒絶されたら嫌だもんねぇ。」



「そういえば、何故避けられてると思ってるんです?」



「今では私もお店で色々体験して何とも変には感じてないんですが……」


 自分の過去が原因で男性が受け付けられない、恐怖の対象でしかない事を前提に浪漫は話を続ける。


 湯女とルキアにもそれとなく、話を伝えていた。


「私のリハビリのために親友……小串と言いますが、小串には色々して貰いました。」


「その時にその……最初は軽いスキンシップで身体のあちこちに触れるだけだったんですけど。」


「そのうちお店でやるような事をされて……あの時私は同性とのそういうのにもまだよく理解もしてなかったので……」


 その時の浪漫は、小串の指と唇と舌で様々な所を触れられ吸われている。


 リハビリと称したABCのBを受けていたのである。


「恥ずかしさとよくわからない感覚とが頭をぐるぐると回って、『止めて』って頭を押しのけて突き放しちゃったんです。」


 それ以来小串は気まずいのか、浪漫への接触を控えるようになり、気が付けば浪漫と小串は殆ど会う事がなくなっていた。


「友人や同じお店の人とも話して、女の人なら普通に会話もできるのは知ってたので、女子の事を色々知ってみな?という感じで、フィールを利用するように。」


 浪漫は小串とトリスがイコールかもという件については終始伏せていた。


 これだけでは自分がフィールを利用する事になったきっかけにしては矛盾を抱えたままである。


 Lでないとするならば、小串に受けた事と同じ事をするフィールでのプレイがまかり通らない。


 フィールを利用する目的がおかしくなってしまう。


 その無理矢理な理屈を3人はとりあえずはスルーする。


 ルキアにはスルーしたそれなりの理由がある。


 まだ初日であった湯女にはそのルキアの理由はわからない。


(あー、あの娘の事か。)


 ルキアは待機所で、いつも同じような写真を眺めてる一人のキャストの姿を思い浮かべる。


 待機所ではソシャゲ等で遊ぶ者、SNS廻り等をする者、キャスト同士で会話をする者と様々な時間の潰し方がある。


 普通の風俗と違い、キャスト同士のギスギスした感じはあまりない。それこそ友人同士という雰囲気すら醸し出している。


 キャスト同士の会話の中に、自分の過去や想い出等を語る事も当然あったりする。


 ルキアはその際に、写真を眺めているキャストと話をした事が何度かある。


(やり過ぎちゃって傷つけたかもしれない親友が居るっていってたっけぇ。今はどう向き合って良いかわからず連絡も返したりしてないとも。)


(No.1の癖に物凄く繊細なんだよねぇ。客の評判は物凄く良いのに。あぁ、ある意味自分の性欲をぶちまけた結果なのかもしれないねぇ、No.1になったのは。)


「自宅に押し掛けて、一言二言謝って、前みたいに仲良くしたいと思っても、あの時拒絶をしてしまった手前、どう接して良いか。」


 電話やメールならば平気なのかという問題もあるが、面と向かっているといないでは出来る事出来ない事もあるのだろう。


 たまに返って来る小串からの返事は「忙しい」「ごめん、今は無理」などの未来を閉ざした内容ばかりである。


 実際大学だったり課題だったりもあるので、それ以上の追求が出来ない事も事実。


 そこは何となく理解し無理矢理な追及はしてこなかった浪漫である。


 自分自身講義や課題で忙しく、バイトどころではないという時間があるのだ。


「このままずるずるってのも良くないんだけどなぁ。」


 モーニングを口にしながらエリスがさらりと流す。


 煮え切らない、答えの出ないまま軽食時間を終えた一同は一旦解散をする。


 ルキアと湯女は一旦フィールの事務所に戻らなければならない。


 勤務時間や勤務体系の関係もあり、一度は戻らなければならないのである。


「良ければまた指名してください。」


「今度は私も指名してねぇ。」


 湯女とルキアの営業用スマイルを受けて、手を振って応えるのは浪漫である。





 ルキアと湯女は待機所に戻ると、待機所の先約である数人のキャスト達の前に戻っていく。


 予約で埋まっていたとしても、空いている時間は存在する。常時動いているといのは働く人間としてはありえないのである。


 休憩は当然存在するのである。次の予約との間は当然取り持たされるのである。



「ねぇ、トリスちゃん。いつあるかわからないけど、とあるお客さんからの予約が入ったら絶対拒否したりしたらダメだよぉ?」


 待機所でスマートフォンの画面を弄っている一人のキャストに話しかけるルキア。


 何の事?という表情で話しかけられたトリスという名のキャストは、顔を上げてルキアの方を向いた。


 先程のマロンからの話で、登場人物に思い当たる節のあるルキアは、その当事者と思われる人物であるトリスに話しかけたのである。


「まぁ、公開されてる分の予約が一杯で埋まってるから今気にする事じゃないけどねぇ。」



「そういや、トリスちゃんの入店の理由ってはっきりとは聞いてなかったっけ。」


 頭の中で浮かんだ疑問をイコールに結び付けられるよう、ルキアはトリスに訊ねたい事があった。


「聞いても面白いものでもないですけど?」


 幸いなのか、偶然にもこの待機所には、浪漫……マロンと面識のあるキャストしかいなかった。


 固有名詞を出さずに語った事は、マロンとして話した内容とほぼ一致していた。


 

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