第10話 2対2?

「えっと、なんで私はこんなところでこんな格好をしてるんでしょう?」


 浪漫が着ているのはコスプレ衣装。


 女性同士でもいきなり際どいのは……という事で、絶対領域が作れるような長さのスカート丈のものはない。


 膝上がせいぜいの丈ではあるが……


 その分上の装甲衣装はそこそこにエロスも醸し出している。


 そしてこの場所は浪漫が何度か利用している女性専用のラブホテル。


 浪漫の目の前にはカメラを構えた女性とそのアシスタントと思しき女性が一人ずつ。


 さらに、この場を取り持った先輩メイド、実は店長と同級生のエリス。


「いや、桜花からマロンが金欠で大変だから、合法な限り手助けしてあげて欲しいって相談を受けてな。」


 エリスは古株であり、元の性格も相まってか、客や取引先等を除き、年下には同性異性問わず呼び捨てで呼ぶ。


 本名ではなくキャスト名でもあるため、呼び捨てであっても然程の問題も影響もないのは事実である。


 金髪ロングで姉御肌でもあり、更には目つきが鋭く一部のファンからは、アサシンメイドとも呼ばれていた。


 メイドの中では重鎮でもあり、実は店長である音々とは同級生でもあるため、実際に頼りになる存在でもある。


 音々がメイドとして働いていた頃には冥途四天王の一人でもあった。(今では四天王はなくなっている。)


 そのエリスが、金欠の浪漫のためにメイド喫茶以外での短期・即日払いのバイトを紹介した結果が、このコスプレ撮影である。


 エリスの友人が働いているというコスプレイベント会社が、新作の衣装をサイトに掲載するための宣材写真を撮影しようとしたところ、体よく浪漫のような被写体が見つかったというわけである。


 顔は極力映らないように、際どい恰好はないようにという条件でOKした浪漫ではあったが……




「いやー、良かったなぁ、静流。丁度いい貧乳被写体ぺたんこたいが見つかって。」 


「エリスさん!言い方!!」


「いいやー、悪い悪い。でもそういうキャラのコスなんだから仕方ないって。安心しな、スライムに衣服溶かされたりするシーンとかはないから。」


 エリスの言葉にあった話はあながち嘘でもない。


 浪漫が着用しているキャラの元は、18禁ゲームの登場キャラであり、スライムのみならず様々なモンスターに襲われキャッキャうふふするのである。


 溶かされたり破れたりしている衣装は流石にないので、あくまでデフォルトのキャラクター紹介などに登場するようなシーンがメインとなる。


 もっともポーズ等は色々と要求される事となるが。


 浪漫は人前に出るのが嫌だという事でイベントにはいかないものの、宅コスはしており両親や小串等にはコスプレ姿を晒している。


 考えてみれば、浪漫がメイド喫茶のようなものは除き、コスプレ姿を晒すのはこれが初めての事である。


「は、初めてなので、よろしくお願いします。」


 という挨拶で始まったにも関わらず、浪漫は終始ノリノリで撮影を受けていた。


 最初の条件である際どい云々はどこいったという感じだった。


 知らない人……が苦手なだけであって、同性であればそこそこ一緒にいればそれが信頼に取る相手かどうかを見極められる。


 エリスが連れてきたのだから、悪い人なわけがないという前提もあっての事であった。



「終わってみれば……マロンちゃんノリノリだったねぇ。」


 静流がベッドの上で女の子座りをしている浪漫に話しかける。


(もしかしたらどろどろの液体をかけての18禁写真もいけたかしら?)


 などと、静流が思ってしまうくらいには撮影は楽しそうに見えていた。


  



「へぇ……」


 エリスは浪漫が立ち去った後の布団に出来ていた、色の濃淡による違い部分……つまるところの染みを見て言葉を漏らした。



「じゃぁお礼に軽く食事でもしましょう。頑張ってくれたマロンちゃんのために奮発しちゃうわ。」


 静流の言葉により案内されたお店は、風俗にお金を使う事を覚えた浪漫には中々手の出ない少しお高いお店だった。


「その……あんなにバイト料も戴いたのに、こんなお高いお店までご馳走になって良いのでしょうか。」



 浪漫の事を聞いているのかはわからないが、現在店内に男性の姿はない。


 まるで予めこの4人が来店するからと予約をし、その際に店員を含め男性をシャットアウトしたかのような。



「いいのいいの。身内でやれば確かに安く済むけど、友人エリスの頼みだし。こちらとしても良い素材とも出会えたしね。」


 終始黙っているアシスタントの女性は静流に倣って首を縦に振っている。




「今日はありがとうね。」

 

 静流が挨拶をすると隣のアシスタントの女性も深く一礼をする。


「いやいや、お互い様だし。そう、お互いにタイミングがあっただけの事だからな。」



「そうです。なんだかんだで私も充実した時間でした。それなのにあんなにバイト料やごちそうまでしていただいちゃって……」



「あ、それは本当に正当な料金だから気にしないで。公告の良し悪しで売り上げも影響するし、これは想像よりいけると判断したからだから。」


 頭の下げあいをしていても収拾がつかないため、エリスの言葉により4人は解散する。


 静流たちは編集作業があるのか、会社へと戻るという。




「マロンはこの後、予定はない……よな?」


 エリスはこの撮影日は丸々一日空けておくように伝えており、浪漫はそれに同意していた。


 万一撮影が時間を延長した場合に、時間によっては自宅への送迎まで視野に入れて。


「ない、ですけど。」


「じゃぁ、あと2時間程だけ付き合ってくれ。お金は出すから余計な心配はしなくて良い。」


 先程の食事といい、浪漫は出して貰ってばかりで申し訳ないと思っていたのだが、ここは先輩の顔を立ててくれよと言われては従うしかない。


 

「あ、来た来た。」



「こんばんは。」


「エリスちゃん、久々のお呼ばれね。」


 エリスが声をかけた方からは茶髪にゆるふわな髪型のギャル系のお姉さんと、黒髪でセミロングのお淑やかな優等生ぽい女性の二人が向かってきていた。

 

 ただし、この二人から感じる雰囲気が、浪漫にはなんとなく理解出来ていた。


「私はルキア、こっちの子は湯女。性格は見たまんまかな。」


 ギャル風女性が簡単に自己紹介を済ませる。


 大人しいのか、黒髪の女性、湯女は「よろしくお願いします。」と小さな声で挨拶をする。


「私からのご褒美だ。マロン、溜まってるんだろ。」



「エリスちゃん、2対2の4人だと追加料金が発生するけど?」


「ばーか。1対1の2組に決まってるだろ。ほら、マロン。好きな方を選べ。」


 知り合い同士なのか、エリスはルキアとタメ口で対話していた。


 まるで友人同士であるかのように。


「ちぇっ、メイド時代からの付き合いなのに、冷たいねぇ。」


 ルキアが返したように、ルキアはかつて同じメイド喫茶で働いていた同僚であり同い年である。


 そのため公私混同もあるのか、いつもの口調となるエリスであった。


 浪漫は二人の姿を見た時からひしひしと伝わるものを感じていた。


 まだ2回しか利用していないというのにも関わらず、彼女らと同じ雰囲気をこの二人からも感じる事に。


「えっと、2時間ばかり付き合えってのは……」



「まぁ、想像通りだな。私からのご褒美だと言ったろう。多分悶々としてたろうしな。」


 後半部分は浪漫には聞こえないように小声で呟いていた。


 ベッドの染みを見た時からエリスはこのご褒美というのを考えていたようである。


 自分が相手をしても良かったのだが、プライベートではまだ早いと感じていた。


 客とキャストという間だから、心も身体も開けている。


 もし自分が言葉巧みに何かをしようものなら、もしかすると過去のイヤな想いをさせてしまうかもしれないと。


 人間たるもの、多かれ少なかれ性欲は存在する。


 自らの性を自認し始めた浪漫が、どうにか発散させるための手段が同性である事はエリスには見抜かれている。


 本人がどのように自覚しているかはともかく……


 


「その様子じゃ、マロンは黒髪の子が良いみたいだな。」


 二人が登場してから、浪漫の目はどちらかというと湯女の方を向いていた。


 浪漫に特に他意があったわけではない。ただ、なんとなくではある。

 

「じゃぁ、私ははエリスちゃんと楽しんでくるね~。」


 エリスの腕を組んで歩き出すルキア。


 ルキアにポンと肩を叩かれ、湯女は「頑張んなよ。」と声を掛けられる。



「そ、それじゃぁ。私達も行きましょうか。」


 大人しそうな湯女ではあったが、戸惑う浪漫の手を握るとエリス・ルキア組に続いて歩き始める。


「あ、いきなりこういうのが嫌とか苦手とかあったら遠慮なく言ってください。」


 湯女の言葉に浪漫は首を横に振る。驚いただけで、嫌ではないと伝えると湯女の表情は明るくなる。



「じゃ、ごゆっくり~。」


 ルキアが隣の部屋に入っていく浪漫と湯女に声を掛けた。


 部屋に入ると、湯女は既に料金は前金でいただいてますので、と荷物を置いて服を脱ぎ始める。


 浪漫は先程飲食をした際に摂取したものがあり、本当は先にトイレに行きたかった。


 しかし、言い出せないまま流されるように衣服を剥がされていく。


 そして恒例の一緒に入浴タイムが始まった。


「実は、私……今日が初出勤なんですよね。それどころか、これが初接客……なんですよね。」


 最初の利用の時、心菜にしてもらったように、湯船の中で後ろから抱き留められている浪漫に、湯女は耳元でささやいた。


 その言葉が真実であるように、湯女の心臓の鼓動が浪漫の背中に伝わってきていた。

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