第9話 スク水感謝デー
「マロンちゃん……」
更衣室で着替えをしている一コマ。
大方のキャストがいくら同じ女性同士であってもスク水に着替える際には周囲に気を配っている中。
一人だけ、自宅で風呂に入る時の感覚で衣服を脱いでいく浪漫の姿を見て、思わず声を漏らしていた。
女性専門風俗店フィールに2回とはいえ通った事で、浪漫の中で衣服を人前で脱ぐという事に慣れてしまっているようだった。
「あ……」
時既に遅しで、上下共に下着すら纏っていない浪漫は、そそくさと店長から支給された旧スク水を着用する。
「何でこんなにもぴったりなんだろうね。」
同じような意見があちこちから漏れていた。
まさか店長がそれぞれのキャストの身体にフィットするように、わざわざオーダーしていたものだとは誰も夢にも思わない。
「店長……」
キャスト時代であれば、音々さんめ……と言っていたところである。
「マロンちゃん、手、差し込んで良い?ほら、旧スク水って事を確かめ……」
「めっ」
浪漫は手を差し入れようとしているめありの手を叩いた。
「ちぇっ。最近のマロンちゃんならOKしてくれるかなって思ったんだけど。」
去っていく時にめありのツインテールが浪漫の胸元を叩いた。
もちろん痛みなど全くない。ないのだが……
「あれ?何この感覚……」
鞭に打たれる感覚にもにたものを感じる浪漫であった。
バラ鞭は痛みはほぼ感じない。未経験なのに玄人の感覚になっていた。
スク水感謝デーという名前の通り、メニューは夏をイメージするものである。
ブルーハワイとか砂浜とかを連想させるもの。
告知が1週間前だというのにもかかわらず、スク水感謝デーには大勢の
「店長……」
本来最高責任者としていなければならないはずの店長、音々が客として姿を現したのである。
「今は私は休憩時間であり、その休憩時間に客として来店してはいけないという規約は書かれていないのである。」
破天荒振りを表した音々である。
たまたま近くにいた浪漫が接客を担当する事となり、呆れながらも座席を案内する。
ウェイティングも発生しており、すんなりと入店出来ないにも関わらず客として参加する店長。
呆れないはずがない。
売り上げに貢献するためか、音々は惜しげもなく注文する。
勿論指名したキャストとツーショット写真を撮影できる、メイド喫茶ではお馴染み「チェキ」である。
「それじゃぁ、3,2,1……」
カウントがゼロになった時にシャッターは切られる。
シャッターが切られるその瞬間に、音々は上着をバットと開けさせた。
そう、露出狂変質者がやるあの行為である。
勿論その下には裸体などが出てくるわけではない、店長自ら本日のスク水感謝デーの衣装、スク水を着用している。
しかしその絵面は……
「店長、変質者だったんですね。」
撮影を担当したキャストが呆れたように呟いていた。
もちろんこのような事を他の一般の客がやったら厳重注意か出入り禁止ものである。
音々の破天荒振りは、常連客なら空気のように流して当たり前でもあり、音々だけずるいという事にはならなかった。
一緒に映った浪漫の心境はたまったものではないのだが。
「私の
音々の休憩時間も終わりとなる頃、浪漫は音々の座席に呼ばれる。
ラストオーダーと思い伝票を持参して向かった。
「マロンちゃん……後でちょっと裏に。」
「当店ではそういうサービスは一切しておりません。」
「あ、いやそうじゃなくて。これは同じ女性として見過ごせないというかなんというか。」
どうにも歯切れの悪い店長の言葉。
ひょいひょいと手で浪漫を招く音々。
「大きな声じゃ言い辛いんだけどね。マロンちゃん、その……濡れてるよ?」
一気に赤面をした浪漫は、慌てて裏方へと引っ込んでいった。
スク水感謝デーが終わると、店内の片付けを行い、清掃が終わると更衣室でミーティングが行われた。
着替えてからでも良いものだが、何故かスク水のまま行われた。当然件の約束の通り店長である音々もスク水着用である。
総括が終わると、イベント限定の当日払い(ボーナス)が支給される。
何故か店長から、さらなる特別ボーナスが支給される浪漫であった。
「その脱いだスク水をくれたらボーナスもっと出すよ?」
「そういう事言う人、機雷DEATH!」
1999年に発売されたとあるゲームのセリフをモジった言葉で返す浪漫であった。
その実は、ただお盆で店長の頭を上からスコーンと叩いただけである。
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