第8話 王子様プレイの果て

「あぁぁ、し、下は自分で洗いますっ。」


 後ろに回って胸やお腹を洗っていた翼の手が徐々に下へと伸びていく。


「じゃぁ、こっちは遠慮しなくてもいいのかな?」


 再び上昇した翼の手が浪漫の二つの甘食と先端の苺を執拗に攻め立て始めた。


 戦闘準備完了なのか、それとも試合終了なのか。


 バスタオルに身を包んだ浪漫は既にへろへろであった。



「ほら、ソファに座って。」


 翼が座った股の間に浪漫を座らせる。


「あ、足が震えちゃって……」


 

「まぁ、こんなになっちゃってるし、仕方ないけどね。」


 翼が浪漫のバスタオルを広げて足の付け根に垂れているものを見て呟いた。



「ひゃぁっ、み、見ないでください、言わないでください。」


 

「じゃぁ、こうすれば見えないから……恥ずかしくないでしょ。」


 どこから取り出したのか、準備の良い翼は浪漫の目にアイマスクを被せた。


「見えないと……余計に感じちゃうかな?」

 

 

(こんなの続けたらおかしくなっちゃう……)


「だ、らめっ。」


「う~ん、マロン姫の顔は、もっとしてって言ってるけどな。」


 翼は浪漫の体勢を横に崩し、抱き支える形で唇を近付けた。


「んっ、んんぅっ。」


 翼の左手は、液漏れの元をなぞって洞窟の奥へと侵入していく。


「時間一杯まで楽しもうね。プレイ後の入浴の時間は残しておくから。」


 それからお姫様抱っこでベッドに運ばれた浪漫は、翼王子の毒牙に掛かっていくのであった。




「大丈夫?一人で帰れる?」


 その言葉は狼さんが言う言葉である。大丈夫という浪漫ではあるが、足取りは覚束ない。


「無理しないでね?」 


(本当に時間ギリギリまで責められた……女の子の指ってあんなに気持ち良いんだ。)


 浪漫の心の中では先程までの王子様プレイが反芻しており、まだまだ火照っているようだ。





 どうにか自宅へ辿り着き、部屋に入ると自分のベッドに倒れ込むようにバタンキューとなる。


「まだ2回だけど、お店のキャストとは問題なかった……それならなんで私はあの時……」


 1~2年前の事を思い出し、自己嫌悪に陥る浪漫。


 1~2年前と言えば、リハビリと称して小串と色々あった年である。


「小串とちゃんと話したいなぁ。」


 浪漫は一つだけ根本的に間違っている。


 電話もダメ、メールもダメでも連絡を取れる手法がある事を。


 大学で出会った友人であれば仕方ないのかもしれないが……


 そして友人達の誰もそれを言わない事の違和感も。





「マロンちゃん、最近シフト入る回数増えた?」


 浪漫に話しかけてきたのは、最初に「マロンちゃん、これマロンちゃんの友達の子じゃない?」とって来たキャストである。


 その後めありから細かい写真を見せられて現在に至っている。


 件の写真はめありとこのキャスト、桜花の二人がプライベートで会っていた時に見かけて撮影したものである。


 厳密には盗撮……になる云々はさておき。


 めあありと桜花の二人は別に特別な関係というわけではない。


 お店のキャスト(店員)として知り合い、一緒に働いてるうちに仲良くなった友人という間柄である。



「お金が……お金が欲しいです。」


 めあり繋がりで、浪漫の風俗通い(とは言ってもまだ2回)を知ってる数少ない知り合いでもあるのがこの桜花である。


 休憩時間に2回の出来事を話した浪漫。


「まぁ、安い買い物ではないからねぇ。」


 浪漫が男性はだめでも女性は大丈夫というところに若干の安堵を覚えた桜花である。


 ただ、それでも風俗通いのし過ぎで、生活すらままならなくなるのはどうかとは思っていた。


「ほどほどにね。」


「そうしますぅ。」


 脱力しながら浪漫は答えた。






「イベントを行おうと思う。」


 閉店後のミーティングで店長から唐突の報告を受けるキャスト一同。


 実は用意してたんだよね、と店長がキャスト達に見せた1枚のチラシ。


「……却下です。いくらお客さんが同じ女性だからといって、これは却下です。」


 キャストの一人からダメ出しをされたのも当然である。


「な、なんですかこの下着同然の恰好で接客とか。窓越しに通りを歩いてる人にまで見えちゃうかもしれないじゃないですか。」


「水着ならまだしも……これはちょっと。」



「よしわかった。じゃぁこれはいつかやるとして……これならどうだ!」


 次に見せてきたのは、先程水着ならという言葉通りに【スク水感謝デー】と書かれたチラシである。


 まだ見せてはいないが、店長は他の●●デーというチラシを用意していた。


 いつかやろうと思ったイベントを片っ端からチラシにしていたのである。


 労力は自分一人なので、誰にも迷惑をかけていないし、提案するだけならタダなので深く考える必要はないのであった。


「その代わり、このスク水感謝デーは彼氏同伴であっても男性の入場は禁止で、完全女性だけの日とする事は約束しよう。」




「ところでなんで感謝デーなんでしょう。」


 浪漫が素朴な疑問を口にすると、店長がすかさず思いの丈を口にする。


 仁王立ちに立って腰に手を当てて堂々と。


「そりゃ……私がみんなのスク水姿を視れる事に感謝をする日だからだ!」


「……店長も旧スク決定な。じゃなければ誰もやりません。」


 とあるキャストからの言葉がみんなの逃げ道を塞ぐ。


 店長、キャスト時代から名前は変わらず音々ねおん


 この店どころか、この町に生まれ育った者では知らぬ者はいないという、この町一帯の創設者、あの宮田音子の血縁者なのである。


 性格からやる事までどこをとっても破天荒なのは、音々も同じであった。


「店長いくつでしたっけ?」


 とあるキャストからの質問。女性に年齢を聞くのは失礼という逸話があっても女性同士なら然程問題でもないようだ。


 それに、お店の中で関係者だけの集まりは、所謂女子高トークみたいなものであった。


「まだまだぴっちぴちの20代だよっ!」


 非公開ではあるが、四捨五入をしても20歳の方である。


 これが実は浪漫の金欠事情を鑑みた桜花からの相談で、売り上げをあげて給料にキャッシュバックするための策だとは、夢にも思わない浪漫であった。


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