第7話 王子様系僕っ子キャスト、翼

「今日はありがとね。」


 浪漫が待ち合わせ場所であるコンビニの前で、右手にドリンクを持ち、スマートフォンの画面を見ているところに現れたのは独りの女性。


 スカートではなくズボンを穿いた、短髪でボーイッシュな少年のような人物から漏れ声は女性にしては低めの、所謂かっこいい王子様ボイスであった。


 髪は染めてるのかウィッグなのか、水色をしており、浪漫の好みとは異なるものである。


 浪漫は自分がハーフで銀髪という事もあり、日本人らしい黒髪に憧れている。


 長さについては然程拘りはないものの、色については拘っていた。


 親友の小串の黒髪は、とても綺麗でさらさらしたものである。


 幼少から見ていたからこそ、そこに美を見たのかもしれない。


 尤も前回指名した心菜も、若干茶色かかっており、黒髪とは程遠いのではあるが……


 風俗というフィルターがかかっているからか、自分の知らない世界に飛び込んだ勢いからか。


 髪色については唐突に好み云々は取り払われてしまったのかもしれない。


 プロフィール通りならばこのボーイッシュな女性、キャスト名を翼といい、身長は160cmを超えている。


 一般男性と比べても遜色のない、スラっとした長身女性であった。


 胸部装甲も私服からでは分からず、イケメン男性と見られてもおかしくはなかった。


「そこをジっと見つめられても困るな。」


「ごご、ごめんなさい。自分含めて回りもその、大きい人が殆どいないから……」


「別に良いけどね。そこは後でお互い見る事になるわけだし。」 



 浪漫がフィールで2番目に指名したのは、前回お姉さんタイプの心菜とは違い、翼という名のボーイッシュな女性だった。


 責める方が好きで、得意プレイにもSの文字が書かれている。


 俗に言うタチと呼ばれる人種で、実際に翼を指名する客はネコ側の女性ばかりである。


 先日のバイト終了後の緊急会議で、めありが正反対のタイプを始め色々なタイプを試すのはどうかと提案したのがきっかけだった。


 案の定、推定小串であるトリスの予約が全然取れそうになかったからこその決断でもある。


「かっこいいなぁと思って。」


 浪漫は思った事をぽろりと漏らした。やや俯きながら。


 二人の周囲は行き交う人でまばらに歩いている通行人達のみ。


 この二人が風俗店のキャストと客だと思って通行している人はいない。


 もしかすると、中には他のキャストと客もいないとは言い切れないが、そこはお互いに知っていたとしても声をかけたりはしない。


「ありがと。僕もそう言われると嬉しいよ。」


 なんと翼は僕っ子でもあった。見た目に引き寄せられているというのもあるかもしれないし、キャラを演じているのかもしいれない。


「あ、そう言えば言おうか迷ってたんだけど、そのドリンクのコラボ。好きなのかな?実は僕も好きで良く買うんだ。」


 浪漫が飲んでいたのは、とあるソーシャルゲームと有名珈琲会社とのコラボ商品で、柄だけでなくおまけとしてペットボトルキャップがついてくる。


 いくつかの種類があり、開けてみるまでどのキャラが入っているか分からない。


 全部を揃えるまで買い続ける猛者は多く存在するし、ネット等で売買されたりもしていた。


 

「でもダブっちゃったんですよね。ガチャ的にはSSRなんですけど。」


 浪漫が見せたのは、1グロスに1個しか入っていないと噂されているゲーム内でも超SSRなキャラのキャップである。


 1グロスである、1ダースではない。メロカリやヤホオクで高額で取引もされているくらい、マニアには喉から手が出る程のものである。


「あ、いいなー。僕何度も買ってるけど未だに出た事ないやつだよ。」


「じ、実は3個めなので……翼さんにあげますよ。」


 浪漫の引きはかなり強い方だった。そんなに何個も買ったわけではないのに3つも激レアが当たるとは……


 悪いから貰えないという翼であったが、浪漫は同じ共通の話題があった事が嬉しかったのか、半ば強引に受け取って貰う。


「流石に貰いっ放しは悪いから……今日は沢山サービスしちゃうね。」


 翼、王子様モード突入である。





 ホテルに着くと、部屋を選ぶためにモニターを確認する。


 前回は心菜に全面的にリードされていたため、ろくに画面を見てはいなかったのである。


「わっわっ。」


 浪漫はある部屋の前で固まってしまう。


 それは専門ホテルでもいけば当たり前のような様々な器具が映し出されていた。


 Xの字の器具とか、三角型の乗り物とか、競馬場で見かける叩くものとか、停電になった時に灯りのために使うものとか……


「どうしたの?気になる?そこにする?僕は構わないけど。」


「い、いやべ、別に……興味がないわけじゃないですけど、まだハードル高いと言いますか。」


「僕はよくお願いされるけどね。実はいつも少し持ってきてるけど……追加してみる?」


 浪漫は普通に120分のコースにしている。翼が持ってきたものを使用するには追加オプションで別料金がかかってしまう。


 最初の申し込みの時点でそういうコースにしていれば、料金込みのため別途料金がかかることはない。


「そんなおまけを出すみたいな感覚で言われましても……」


 結局、普通の部屋を選択する浪漫である。


「あー、やっと二人きりになれた。」


 エレベータに乗り、扉がしまって上昇が始まると、翼は浪漫に後ろから抱き着いた。


「なっ。」


 驚いた浪漫は一つ高音で声を上げる。


「本当は早くこうしたかったんだ。マロン姫。」


 王子様モードの翼は、ちょい悪王子様となっていた。


「ま、まだ早……」


 

「でも脱がないと何もできないよ?」


 あっという間に目的階に到着すると、そのまま押し出すように浪漫を連れて、部屋の中に入っていった。




「プレイ前の入浴の事だったんですね。」


 普通は部屋に入ってプレイの確認をして、前金で支払ってから行う事である。


 翼はそこら辺をすっ飛ばしてプレイに入ろうとしていたのである。


 尤もある程度信頼のあるキャストと客の関係であれば、それも間違ってはいない。


「マロン姫はあのままシても良かったのかな?」


 正面に座った翼がいたずら気味に問いかけながらも、泡だった手で浪漫の身体をまさぐっていった。

  

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