第4話 女性専門風俗店フィールNo.2「心菜」

「うちみたいなお店に来る女の子って、そういう経験がある子もそれなりにくるのよ。」


 浪漫は120分コースで予約をしていた。


 小串と思われるトリスが全然予約を取れそうにないので、外堀という名の情報収集のために他のキャストから色々聞いたり、小串が普段バイトでどういう事をしているのかを知りたかったのである。


 あれだけ高校時代までに色々していたのにも関わらず、自分と距離を置いてまで何をしているのか、真相を知りたかったのだ。


「男性に触れる前に、人に触れられるのかを確かめたい人。男性を嫌悪するようになり、女性に走る人。単純に同じ女性に話を聞いて貰いたい人。身近な人には話せないけど私達みたいな人になら話せるって人もいるからね。」


 浪漫は黙ってその話を聞いている。


 昔の事を思い出すと、せっかく立ち直ってきたこの数年の努力が自信と共に抜け落ちていく感覚がある。


 端的にいえば、弱って来てしまうのである。


「マロンちゃんはどういう思いでお店に来て、私を指名してくれたのかはわからないけど……」


 浪漫が指名したのは、お店のNo2とプロフィールに掛かれていた23歳のお姉さん、キャスト名「心菜ここな」。


 長髪でややタレ目がちのおっとりお姉さんタイプというのか。


 お母さんやお姉さんと言えるような雰囲気を出していた。


 昨年大学を卒業したものの、学生時代から勤めていた女性専門風俗店をそのまま継続し、昼間は別の仕事をしているとの事だった。


 流石にその昼の職業を聞いたりはしない浪漫であったが、恐らくは奨学金を返したりするのにお金が入用なんだろうと勝手に解釈していた。


 心菜はホームページで顔を出していた。浪漫がトリスが予約出来ないのなら誰にしようかプロフィールを閲覧していたところ、見た目も優しそうで人気が高いというところで安牌を選んだ心算であった。




「男の人は今でも怖い。親友のおかげである程度はマシになったけど。交際したり結婚したりは今では考えられないです。」


 過去を思い出してしまったのか、身体が少し震えている。それを悟ったのか、心菜は優しくそっと自分の身体に浪漫を寄せた。


 大人の女性の温もりか、年上故の気心の広さか、浪漫を安心させるには充分だった。


「親友が……リハビリっていって色々してくれたんですけど……」


 一緒に風呂に入った事も身体に触れられた事も素直に話す。


 尤も、一緒に風呂に入ったのも、最初は自殺防止や頭までの入水を防止するためであった。


 身体を支えていれば、沈む事もない。ただ、それだけの事であった。


 それが気付けば身体のあちこちを触れるようになっただけという事に発展していた。


 一度だけ、それっぽく身体を重ねたこともある。


 見る人が見れば、それは所謂百合プレイ。


 浪漫が本気で嫌がれば、いかに小串であっても振り解かれていたはずである。


「あの時の感覚が何なのか……私は、親友は、どういう思いで何を感じていたのか知りたいんです。」



「マロンちゃんは、恋愛や性を克服したいと思ってはいるけど、その対象が男性ではなく女性かも知れないって思ってるって事でいいのかしら。」


 その通り、とは言えず、それを知りたいのかも知れないと思う浪漫だった。


 性そのものが嫌悪するものならば、例え小串であっても拒絶していただろう。


 いかに幼少からの親友であっても、無理なものは無理である。


 ただ流されるままに身を任せていても、咄嗟の拒否反応は出ているはずだった。


 女子高時代の風呂にしても同じである。


 女子同士だと冗談等で「きゃっきゃうふふ」な事をして遊んだりするものである。


 胸を後ろから鷲掴みにしたり、揉んだりと。


 女子高の夢を壊すような日常の風景だったりと。


 その時に嫌悪までは感じていなかった浪漫。


 だからこそ、自分が拒絶しているのは男性であって、性そのものではない。


 そう思い始めていた。


 そうはいっても、プールや海のような、薄い恰好をした男性のいる場に行ける程には至っていない。


 いかに周りに女性が多くとも、男性と場を共有するところまでは回復してはいないし信用も出来ていない。



 今日会ったばかりの、次に会う事があるかわからない人に、小串のことまでを訊ねる事は出来なかった。


 親友が女性愛好者かもしれない事は伝わっているかもしれないが。


 故に本当は小串……トリスを指名するはずだったとも言えなかった。


 それはここまで話を聞いてくれた心菜に対して失礼にあたると思ったからである。


 そして、浪漫がその親友に直接訊ねられないんだろうな、という事も伝わっていたのかもしれない。


「そしたら、その親友の子だけが特別なのかどうか、試してみる?嫌ならもちろん何もしない。ただ話だけしてってお客さんもいないわけじゃないから。でもこういうお店だし、せっかくだから色々確認してみない?」


 浪漫は頭の中で色々考える。


 小串が特別なのか、女性なら大丈夫なのか、両方なのか。


 心菜の言葉のトーンが、子守唄を謳う母親のように安心感を与えているのは浪漫も理解していた。


 この母性みたいなものにやられ、次もまた求めてしまうのだろうな、何度も指名する人はと。


 自分の身体と心を理解するためにも、浪漫は心菜の提案を受ける事にする。


 小さく浪漫は首を縦に振った。

   

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