第3話 女性専門メイド喫茶とめあり

「マロンちゃんの複雑な事情はわかったわ。これまで頑張ったんだね。」


 ベットに腰を下ろして浪漫ともう一人の女は並んで座っている。


 身体を預け、浪漫は女性の肩にこめかみを乗せていた。


 その浪漫の肩をそっと抱き留め、もう片方の手で浪漫の頭を優しく撫でていた。


 二人の重みにベッドの掛布団は沈んで不規則な模様を作成していた。


 マロンとは浪漫がお店に名乗った偽名、お店で言う所のキャスト名みたいなものである。


 クレジットカードなどで支払いをすれば、お店側に本名は伝わってしまうが。


 こういったお店の予約に必要なのは、やりとりする際の名前と連絡先くらいで充分である。


 それに、大抵の店は様々な風俗系のサイト等に登録しており、その時に記載する名前は殆どが偽名やニックネームである。


 そこに必要なのは連絡用の電話番号とメールアドレスくらいのものなのだ。


 浪漫はこの店を検索したのは一言に表すと興味本位。

 

 ただその興味というのは、レズ風俗がどういうものかというよりは別の事であった。




「マロンちゃん、これマロンちゃんの友達の子じゃない?」


 浪漫は丈の長いスカートのメイド服を身に纏っている。


 一言で表すならばヴィクトリア朝といえばわかり易い。


 秋葉原などにあるような所謂メイド喫茶とは少し違い、見た目だけは本当のイギリスにあるようなメイド服。


 もちろん、短いスカートのメイド服もあるが、浪漫は一度も着用した事がない。少なくとも店の中では……


 マロンは女性専門メイド喫茶でメイドとしてアルバイトをしている。


 長年の引きこもり生活を脱却しようと、女子大に入学してから小串とは違う友人から進められて入店していた。


 同じ漫画研究部の部員から誘われ入店に至ったのだが、客は基本女性のみ。


 男性の入店は女性同伴か特別なイベントの時のみという条件があるため、男性が怖い浪漫であってもどうにか働く事が出来た。



 閉店し、後片付けの最中に同僚のメイド、めありからスマートフォンの写真を見せられる。


 めありもまろんと同じ女子高と女子大の出身で、小串ほどではないが浪漫と仲の良い友人の一人である。


 キャスト名めあり……本名:長門二見ながとふたみ。そのまんまの名前が山口県の山陰線の駅名として存在する。


 名前が影響してか、メイド中はふたつに……ツインテールにしている。流石に金髪ツインテールではないが。


 稀におだんご頭にして某セーラー服美少女戦士に扮することもあった。


 身長も高い方ではなく、浪漫と然程かわらない、浪漫と二人でちびっこツートップでもあった。


 大学や友人同士でのプライベートでならお互い本名で呼んでいるのだが、お店の中ではそれぞれキャスト名で呼び合う。


 友人以外のキャストもいるため、めありはマロンと呼んでいた。


 件のめありから見せられた写真には、浪漫にとっては切り離せない人物……らしき人物が映っていた。


 

「髪はウィッグだろうし、化粧も少し違うし服装もなんか違うけど……これ。」


 そこには別の女性とラブホテルから出てきたと思われる、親友の鳥栖小串と思われる人物が映っていた。


 スクリーンショットに撮っているのか、件の写真の次にスワイプされて表示されたのは、とあるレズ風俗店のプロフィールであった。


 シークレットなのか、顔の部分にはモザイクが掛かっているが、見る人が見れば小串の特徴は隠しきれていない。


 同級生であるめありこと二見が気付けるくらいだ、幼少から付き合いのある浪漫が見間違うはずもない。


 大学に入ってからは、高校までと違い小串と距離が出来てしまった浪漫。


 専攻してる学科が違うのだから、高校までのように一緒に登校して一緒に帰るというわけにはいかない。


 どうしてもバラバラの時間は増えてしまう。


 そして大学生にもなれば、学費等のためにアルバイト等をする生徒も多数存在する。


 浪漫が女性専門メイド喫茶でアルバイトをしているように、小串もまた何かしらのアルバイトをしていてもおかしくはないのである。


「最近連絡あまり取れないって言ってたじゃない?こういうバイトしてたって事だからじゃない?」


 言葉を失い喋れない浪漫に変わって、めありが話しかけてくる。


「これって……」


 本当に小串なの?と続けたかった浪漫であるが、長年付き合いのあった親友である自分が見間違うはずがないという自信もあった。


 それこそ一緒に風呂にはいるような仲……


 それはリハビリのためと割り切っていたはずの浪漫であるが、リハビリで中学高校とそれなりの頻度で一緒に裸の付き合いをするだろうか。


 そして、リハビリと称して、あちこち身体に触れるだろうか。


 中学の時のあの事件の時と違い、最初戸惑いはしたものの浪漫は小串に触れられるのは嫌ではなかった。


 だからこそ、そのリハビリを受けていたわけだけども。




「私、確かめてみる。」


 そして帰宅した浪漫はパソコンを開くと、二見に教えて貰った店のホームページを検索して閲覧する。


 トップページは想像していた程やらしい様子はなく、ファッション系のページを連想させるイメージが印象付けられている様子だった。


 プロフィールを見ると、「当店No.1」という肩書と身長やスリーサイズ、特技や趣味が書かれていた。


「嘘はついてない。知り合いに隠す気はないって事かな。」


 隠しているのは顔だけだが、それはお店側の配慮なのかもしれない。


 他にも顔が隠されたキャストが何人かいるからだ。


「と、とっととと、得意プレイ……え、NGプレイ……」


 もちろん男性用風俗と違い本番行為というものはあやふやなものであるが、女性用風俗にもNGプレイは存在する。


 店外デートや同伴出勤も存在するが、泊りがけの旅行みたいな事はNGである事を確認する。


 ホストクラブやキャバクラと同じで夢とささやかな癒しを提供するものであり、恋人や友人を斡旋する仕事ではないのである。



「空いてる日ないじゃん……」


 小串とほぼ確信している浪漫であったが、直接電話などで確認する勇気が持てず、客として小串の前に立って色々聞こうと考えた。


 しかし、小串……キャスト名「トリス」は、未出勤を表す「-」か予約終了を表す「予約済」の文字ばかりだった。

 

「やっぱりどう考えても小串じゃん。」


 マロンがメイド喫茶で使っている「マロン」という名前や、小串と思われる人物が使っている「トリス」という名前は、自らが作製している同人誌で使っているペンネームと同じだからである。


 そしてそれらの名前は、ときたま遊ぶゲームでも使っている名前だった。


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