第2話 男性恐怖症になった(浪漫語り)
――私は男性が怖い。男性恐怖症と言っても良い。しかし医者に診断されたわけではないので、高所恐怖症と同じであくまで自称男性恐怖症だ。
しかしきっちりと診断を受ければ、そのように診断されておかしくはない。
現に中学生のあの事件以降、児童相談所の人や弁護士、家族であっても男性というだけで近くに寄られる事すら受け付けられなくなっていた。
そんな状況でも親友である小串……鳥栖小串のおかげで、時間はかかったけれど父親を始め、身近な男性であれば多少は克服は出来ていた。
勿論小串だけでなく、児童相談所の女性や弁護士の女性、カウンセリングの女性達の尽力もある。
本当に迷惑を掛けたとは思うけれど、元をただせばあの男達のせいだ。私のせいではない。
男性が極度に苦手になったせいか、元々大人しい方ではあったけれど、一層拍車がかかり家から外に出なくなった。
当時、中学生活の残りは殆ど自宅か親の運転で車で登下校し、保健室授業のような形で卒業するに至った。
勿論修学旅行にも行っていないし卒業式にも出ていない。
小串や他の仲の良かった女子生徒達が気を利かせて、修学旅行と同じ行き先の旅行を提案してくれたけれど、外の世界には怪物(男)がいるかと思うと参加するとは言えなかった。
それでも事件から1年以上経過していた事もあるからか、ゆっくりではあるけれど改善の兆しは見え始めていた。
幸い高校は家から数百メートルの距離にあった。しかも女子高で教師も殆どが女性だった。
事情を説明してあったからか、若しくは配慮して貰えたからか、基本的に男性教師の授業は数えるほどしかなかったし、男性と接する機会は少なかった。
高校の時はがっちりとガードをして貰えたからか、流石に修学旅行等は参加する事が出来た。
周囲の協力があって、必要以上に他人とは接しないようにはしたけれど。
尤も、女子高とはいえ、そこは年頃の女の子達。
好きなアイドルの話やファッション、趣味や推し活、直接は聞かないまでも同じ学校に通う生徒の中には、パパ活や援助交際の話も関係のないところではしているようだった。
大学も女子大だけれど、流石にこの歳になると男性恐怖症も大分マシになっていた。
主に小串の執拗なまでのリハビリによるものだけれど……
コンビニで買い物くらいは出来るようにはなったし、道で知らない男性とすれ違っても縮こまってガクガク震えることはなくなった。
それでも、人込みや全く知らない人から触れられたり、眼前に迫られたりするのは無理。
レジ台くらいの距離があるからこそ歩み寄れたパーソナルスペースというものだろう。
私はきっと普通の恋愛は出来ないし、結婚も今のままだと出来ないだろう。
小串が結婚した時に、せめてその旦那さんと子供が男の子だった場合に普通に接するくらいではありたい……
そう思ったけど、そもそも小串も結婚はしないか。
だって小串は多分……
引き篭もりに近い生活をしていたからか、両親の影響からか、私の趣味といえば漫画・アニメ・ゲーム・コスプレと所謂オタクの沼に沈んでいた。
これは親友の小串も同じで、家に来れば推しの話とかイベントの話で盛り上がる。
私がイベントに行く事はないけれど、私が趣味が高じて描いた同人誌は小串と父が売り子となって参加してくれている。
忖度は要らないからと伝えてはあるけれど、売上表等を見る限りはそれなりに売れてはいるみたい。
さらに私自身はイベントに行く事は出来ないので、せっかくコスプレをしても宅コスしかした事がない。
撮影してくれるのは両親だったり小串だったり……
そんな小串自身も同人誌を描いたりコスプレをしたりしている。
私の代わりに売り子をしているという事だけれど、実際のところはコスプレをして売り子をしている。
小串の両親も私の親と一緒だからと安心して送りだしているという事もあった。
たまに小串の両親どちらかも一緒に売り子をしてくれたりもしてくれている。
小串の両親もまた、私の両親と同じで重度のオタクであるからだった。
私のコスプレ写真は両家にだけ存在する貴重で希少なものだ。
外の世界に出す心算は一切ない。自己満足だけれどそれで良いと思ってる。
小串や家族が前のように微笑んでくれるのなら、私はそれで満足だ。
私は父親が外国人のせいか、髪は銀色、目は左目が紅で右目が碧の所謂オッドアイというやつだ。
オタクに染まった今では中二病満載な見た目だが、小さい頃はそう単純なものではなかった。
小学生までは可愛いねと持て囃されたりはしたけれど……私が大人しい性格だからかあまり騒ぎ立てられたりはしなかった。
問題は思春期を迎えてからだった。
中学生ともなれば、思春期も重なり色恋沙汰が徐々に広まり始める時期になる。
誰と誰が付き合い始めたとかいった話は、学年が上がるにつれて増えてくる。
あの事件が起こったのも中学二年生の時。
なんでこんな事、今更思い出してるんだろう。
出来る事なら二度と思い起こしたくもない記憶だというのに。
あぁ、そうだ。
私が苦手になったのが男性という存在なのか、性という存在なのかを確認しようとしたからだ。
全裸にバスローブだけを身に纏った私、同じ格好をしている小串じゃない全裸にバスローブの女性。
薄暗いライトに照らされた室内に、見慣れないベッドに調度品。
ベッドの枕元には私が絶対に使う事のない大きな輪ゴムみたいなものが入った袋。
つまりはラブホテルの一室である。
何故か家から物凄く近くにあり、あまり他人とすれ違う事もないせいで外出も可能だった。
しかもこのラブホテルは女性専用。
そして私の隣にいるこの女性も、女性しか相手にしない……所謂レズ風俗の女性。
そう、私は性が嫌悪の対象かどうかを確認するために、レズ風俗を利用してしまったのだ。
もちろん、風俗を利用するまでには様々な理由というか悩みがあった。あったんだけど……
不思議と隣の女性と一緒にいても嫌な気は一つも起こらなかった。
キャストはプライベートに入り込まない決まりがあるからだろうか。
それとも、このキャスト自身が為せる経験などによるものだろうか。
私はこの女性の向こう側に一人の人物を見ていた。
それを自覚しかけた時、胸の中で何かが鼓動を始めたのだ。
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